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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第42話

「――では、各通信員に伝達。通信機を起動してください。なお当通信に対する返答は不要です」


 夏の終わり。氷菓子屋としての仕事が終わったころから本格的にアイザック・オーランドの元へ出向く機会が増えた。

 そして同時に街で起き始めた吸血鬼問題。それを前にザックは私にこれの開発を依頼してきた。

 

「ほほう、流石はアイザック殿の愛弟子。美しいものだ」

「いえ、これはアイザックの魔術式を誰にでも見えるようにしたものに過ぎませんよ」


 バウムガルデン領に設置された仮設基地の中、私が起動実験を行ったのは、端的に言えば電光地図だ。

 いくつかの発光体と半透明の地図を組み合わせている。

 今、青色で表示されているのが起動された通信機たちの位置。即時という訳にはいかないけれど、大きく移動した場合には追ってそれも表示されるようになっている。


(……ロバートには、1年かかるといったのに2か月かからずに出来てしまいましたね)


 といっても、私が用意したのは電光地図と通信機の外身だけだ。

 中身を担っているのはアイザックの通信術式。彼が術式を展開していてくれるから、それぞれに配った通信機は機能するし、電光地図もそれに連動できる。

 さらに外身の方だって、そもそもの部品や材料はアイザックに魔術で加工してもらったものを私が組み上げた。

 何を用意してほしいかは私が考えたけれど、私1人でこれと同じものを作るには1年以上かかっただろう。でも、知識を得た今ならもっと早くやれる。いくつかのネックはあるけれど。


「しかしこれが機械魔法というのか。ふむふむ」

「見覚えがありますか? サンプソン将軍」


 サンプソン将軍。私もこの作戦のために紹介された程度で詳しい経歴は知らないけれど、どうも直近の戦争を経験した人らしい。

 相当の高齢でもう既に引退していたが、今回の作戦の指揮官補助として呼び出されたそうだ。

 ザックやクラーク殿下が戦闘に掛かり切りになった時に、領軍の配置をどうするのか。それを考えられる実戦経験のある男として呼び出された。


「うむ。機械魔法という名前じゃなかったと思うんだが、シルキーテリアのドクターケイが使っていたものによく似てる」

「人竜戦争の経験者ですか? その人も」

「そうだ。もう遠い昔のことだが、今でもよく覚えておる。シルキーテリア軍はとにかく全体の連携が上手く、情報を手に入れるのが速かったし、何より”動く城”を構えていた」


 ……なんなんだろう? 動く城とは。

 それを聞いてみようかと思った。ドクターケイという人間に興味も湧いていた。

 けれど、その前に彼らが到着した。


「――実験は成功のようだね、クラリーチェ」

「ほう、これは素晴らしい。分かりやすいということに勝る情報はない。ご協力いただき感謝します。若き魔術師さん」

「クラーク殿下……いえ、私は魔術師そのものではありませんから」


 所詮はその真似事を可能にする方法をいくつか知っているだけに過ぎない。

 でも、私と同じことをしている人間が何人もいるらしいことは、純粋に面白いと思う。

 アイザックから学べることを学びつくしたら、そういう機械魔法使いたちに出会ってみたい。


「それでも我々バウムガルデン家は貴女からの協力を忘れません。このような危険な任務に従事してくれてありがとう」

「……どう、いたしまして。それにまぁ、ここより安全な場所もないでしょう。どこに吸血鬼がいてもおかしくない現状では」


 バウムガルデン領軍の主力がこの仮設基地にいるのだ。狙われる可能性を考慮してもここより安全な場所もあるまい。

 まぁ、それもアイザックとクラークが居てくれる間だけだろうけど。

 彼らが出払ってしまえば、自分の身は自分で守るしかない。領軍兵士も対吸血鬼用の訓練を積んでいるとはいえ、魔術師ではないただの人間だ。


「……各隊配置についているね。そして現状、どこかが襲われたという報告は入ってきていない」

「ええ。……本当に2人で行くんですか? ザック」

「そのつもりだ、理由は前に言ったよね。クラリーチェ」


 対吸血鬼戦において、人数の多さは傀儡を作られる隙に転じやすい。

 魔術師であるアイザックとクラーク殿下が2人いれば、バウムガルデン領軍が一点に投下できる単位としては最強に近い。

 理屈は分かる、理屈は。ただ私は、直感的に不安なのだ。多少筋肉質とはいえ細身な青年と、小柄な兎さんのたった2人で戦いに赴くということが。


「理解はしています。ただ、どうしても感覚としての不安は拭えません」

「……ハハ、頼りなさそうな見た目でごめんね。

 それと最初に君が言ったような、傍で私の戦いを見る機会はきっと来ないだろう。それも申し訳ないとは思っている」


 確かに、私は最初に言った。吸血鬼との戦いのために技術を貸して欲しい。

 そう頼まれたときに提示した条件。それがアイザック・オーランドという男の魔術の底を見ること。

 けど、私がここで通信の要を担うのならばこの望みは叶わない。分かっていたことだ。


「いいえ、直接に見ていなくともここに立ち会えることに意味はあるでしょう。

 それにもう、充分に私の技術は前に進んだ。既に大きな利益を得ています」

「……そう言ってくれるとありがたい。これが終わったら、まだいくつかのことを教えてあげられるとは思うけれど」


 それはそうだ。たったこれだけの時間で600年以上の時を生きる彼の知識を吸収し切れてたまるものか。

 私もそこまで異常な頭脳を持っている訳じゃない。


「――アイザック様! 殿下! 領軍敷地方面に青い烽火が昇っています!」

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