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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
261/310

第41話

 ――貴族の家に生まれた魔術師というものは、多かれ少なかれ自分を呪うものらしい。

 家督を継ぐことが禁じられるからだ。それも当然だとは思う。

 でも、俺は違う。俺は、自らの生まれを呪ったことなんてない。

 雷を特性とする魔術への覚醒。それはこのクラークにとっては祝福だった。


(クロード・ミハエル・バウムガルデンの生き写し、か)


 物心ついたころからそう呼ばれてきた。

 教会時代の伝説である2人のオーランドと共に吸血皇帝と戦った英雄、クロードの生き写しだと。

 どうも俺は、彼と同じ髪の色と瞳をしているらしい。

 金髪に紫の瞳はもちろん、比較的に背が高く育ったことも周囲がそうはやし立てる理由だったと思う。


『なぁ、アイザック殿。本当に俺はクロードに似ているのか?』


 成人して少しの頃だったろうか。ずっと思っていたことを聞いていた。

 だって俺のことをクロードの生き写しだと言うのは、クロードを見たことのない奴だけだ。

 本当にあの人を見たことのある2人は、一度も言ってくれたことはない。だからずっと気になっていた。


『――似てる似てないで言えば確かに似ているよ。特にその瞳の色は、あいつのことを思い出させる。

 でも、皆が言うような生き写しではない。

 クロードは最も吸血鬼に追い詰められた時代の申し子。今の時代に生まれたお前とは違うし、お前がそうなる必要もないさ、クラーク』


 アイザック殿が語るクロード像。それが何を指しているのかは、断片的にしか分からない。

 俺が知る限りのことは、流浪者だった2人のオーランドを受け入れ、悪魔召喚という異端技術をも手に入れたということ。

 吸血鬼という病に侵されていた世界を救うために。吸血皇帝と戦うために。

 そして何よりクロードが素晴らしかったのは、悪魔召喚という異端技術を学んだ実行役であるシオンとそのまま結婚したこと。

 吸血鬼との戦いを終えたアイザックとイルザをそのまま自らの土地に住まわせ、守り抜いたこと。

 彼の決断があったからこそ、我がバウムガルデン領は魔法時代と王国時代、2つの激動期を越えてなお、大きな災禍なく生き残っているのだと思う。


「――まさか、こんな日が来るとは思っていませんでした。アイザック殿」

「そうだね。こんな日が来ないことを祈っていたが、起きてしまったことは変えられない」


 早朝、バウムガルデン領内部に陣地を設置し、そこから血の流通元へと捜査に入る。

 強烈な抵抗が予想され、即刻の戦闘になるだろう。そして事態が動いたことにつられて、複数の吸血鬼が動き出す。

 その可能性も考慮し、街の中心部に陣を置くことにしたのだ。


「不謹慎ではありますが、貴方と共に戦えることを誇りに思います。アイザック・オーランド」

「……ふふっ、俺もお前と共に戦えること自体は嬉しいよ。

 最悪の状況だが、その中で唯一幸運だったのは今の時代にお前が居るということだ、クラーク・ハイド・バウムガルデン」


 ここまで直球で褒められると少し気恥ずかしくなってしまう。

 彼が砕けた言葉遣いで話すということは、それだけ本気だということでもある。

 まるでクロードの手記『吸血鬼殺しのオーランド』に書かれた通りの口調。

 今日、俺は、あの伝説を目の当たりにすることになるだろう。


「クロードほどとは行かないでしょうが、戦い抜いてみせます」

「ふん、あんな奴になろうとするな。その必要がない時代に俺たちで戻すんだ」


 アイザック殿の言葉に頷く。けれど同時に、自らの力が役に立つ時が来たことへの喜びが全身を満たしていた。

 クロードの血を引く子孫として目覚めた魔術の才能。それ自体は祝福だったし、家としても俺の存在を有難がってくれた。

 アイザック殿もイルザ殿も魔術師としての俺に良くしてくれたし、悪いことなど何もない。

 だが、俺の魔法はどうしようもなく戦闘向き。その意味で平時の今に明確な利益をバウムガルデン領に返せずにいた。

 遠い将来、何かこの土地に役立つ魔術式を編み出せるようになるかもしれない。そのための研鑽も積んでいる。

 しかし、今の俺が持つ戦闘技術を存分に役立たせることができる時が来た。それが強烈な喜びだったのだ。


「――ええ、この力を振るう機会が、これ限りであることを祈っています。

 しかし、動くでしょうか? 吸血皇帝は。あのゾルダン・ノイエンドルフは」


 イルザ殿が感じた気配。彼女はそれを追ってバウムガルデン領を出ている。

 アイザック殿から聞く限り、どうも彼女は別の領土に誕生した吸血鬼を殺して回っているらしい。

 つまり、吸血皇帝は別の領土でも血液をばら撒き、その上で我がバウムガルデン領に入ってきている。


「どうだろうな。正直読めないところではある。

 だが、複数の吸血鬼をひとつの街に誕生させていることから考えられることがある」

「――奴の最後の計画、ですか」


 確かに形としては同じことが行われようとしている気はする。

 600年前、吸血皇帝が仕掛けた計画。

 王に至った吸血鬼が居ない以上、簡易な形にはなるが、その最終段階にとてもよく似ている。


「ああ、あいつが俺たちに対して戦いを仕掛けてくるのなら、まずはイルザに奪われた力を取り戻してからと思うだろう」

「……逆にそれが上手く行かないのなら、」

「潜伏される可能性もある。吸血鬼たちが一気に動き出したら、そこも考えた上で動かなければならない」

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