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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第40話

「っ……やってくれたな、剣士が――!!」


 追撃を仕掛けようとするが、傀儡に割って入られる。

 無理にアダルベルトだけを狙えば、こちらの血が吸われてしまう。

 そう思い、アーティファクトで傀儡の喉を掻き切った。


(――全くもって、単純に刃物として完成度の高い一品だな。これは)


 ぜひ参考にしてみたい。出来れば折って、その断面を見てみたいが、それは許されないだろう。

 歴史が今日まで守ってきてくれたものなのだ。それが果てるべきは戦いの中だけ。

 そして、この戦いでこれが折れたら本当に終わりだぞ。


「っ、傷口が……クソ、アーティファクトだな? アイザックよりも前の時代の遺物を……ッ!!」


 流石に魔術に精通しているだけのことはあるな。

 一度斬られただけでこちらの手札を見抜いてくるとは。博学な男であるのは間違いない。

 そして、トドメを刺せなかったのはやはり失敗だ。マズいぞ、これは……。


「リベルトにできて、私にできないわけがないだろう……!!」


 自らの胸を抉り、こちらが与えた傷よりも広い範囲を切り出すアダルベルト。

 そして、僅かばかりの時間でその傷が塞がっていく。なるほど、こちらが与えた傷口を切り出してしまえば残りは普通の傷という訳か。

 ならば抉れないほどに深く広い傷をつけなければいけない。

 首を斬れば致命傷になるみたいな考えが、こいつに通じるかはともかく、滅多切りにすれば勝機はあると見た。


「――殺せ、こいつらを1人残らず!」


 十数人の傀儡どもが襲ってくる。瞬間、僕の真横で爆発音が響いた。僕を狙おうとした傀儡が爆発したのだ。


「こっちに下がれ、ベル!」


 そう叫ぶマルティンの右手には不思議な筒が握られていた。

 ……いや、あの形状、クラリーチェの持つライフルと同じなのか。

 随分と小型だが、あのライフルから放たれた弾丸が爆発した……? つまり、あれは機械魔法か。


「――それは?」

「拳銃さ。色々あってな、少し値は張ったがやはり良い武器だ」


 言いながらマルティンは次々と傀儡の頭を吹き飛ばしていく。

 リベルトとジーノを連れて、壁際まで離れた。これで線は構築できた。

 相手は近づいて来れない。……しかし、この小型ライフルの威力は絶大でも、アダルベルト本人への攻撃は撃ち落とされている。

 あくまで攻撃が通るのは思考らしい思考のない傀儡だけだ。


「チッ……まさか魔法使いとはな――ッ!」


 アダルベルトが、手のひらをかざす。

 何かしら遠距離攻撃の術式を発動するつもりだろう。

 今、マルティンを狙わせるわけにはいかない。


「ッ、僕が前に出る――!!」


 アーティファクトではない使い捨ての短剣を2振り引き抜く。

 本来なら長剣が一番いいのだが、あれはもう折られてしまっている。

 残るのは、持てるだけ持ってきた短剣と切り札のアーティファクトのみ。

 だが、押し切る。もう一度、あいつへ刃を届けてみせる。


「剣を折られた剣士が……ッ!!」


 放たれてきた魔法による光弾。そのひとつは軌道がズレていて話にならない。

 当たるはずもない。吸血鬼になって魔法を実践し始めたから素人なのだ。

 使い始めた技術で戦ったところで、そんなもの僕には通用しない。


「ほう、合わせてきたね――?」


 2発目の軌道は正確だ。避けなければ直撃する。

 しかし、この速度、容易に避けられる。そして試したいことがあった。


「ッ、ふむ、やはり魔法は受け止められないか」


 ただの短剣では魔法を切断できない。受け流すことも。

 完全に熔解して壊れてしまった。いや、これが熔解といえるのか。あとで調べてみたいところだな。

 なんて思いつつ短剣を手放し、再びアーティファクトを抜く。距離は詰まった。あとは傀儡を越えていくだけだ。


「――邪魔だ!」


 一定以上距離のある傀儡はマルティンが撃ち抜いてくれている。弾丸が爆発しているから再生も追いついていない。

 だから3人で良い。3人切り伏せれば、奴へと届く。アダルベルトへと。

 腕を切り落とし、首を撥ねる。この白い短剣で切ってしまえば再生は封じられるし、傀儡には傷口を切り落として再生させるような高度な真似はできない。


「あと1人……ッ!!」


 傀儡の肩にアーティファクトを突き立て、短剣で首を撥ねながら、引き抜いたアーティファクトでトドメを刺す。

 ――ようやく届く。アダルベルトに。そう思ったのが気の緩みだった。

 切り倒した傀儡の影、あいつは用意していた。先ほどの攻撃魔法を。その術式がこちらに向けられていた。


「ッ……逃がすか――ッ!!」


 なんとか身をよじり、攻撃魔法の衝撃を逃がす。脇腹を掠めたが、致命傷ではない。

 もっと大きく飛び退くことも出来はしたが、そうしていたらアダルベルトは逃げ果せていただろう。

 ダメだ、こいつは逃がさない。ここで殺さなければ後がない。おそらくこいつの傀儡たちは順次、他の兵士たちを傀儡へと変えていっている。

 時間が経てば経つほど、殺す機会は失われる。こちらにとって不利になる。


「人間風情に……ッ!!」


 アーティファクトを使い、まずはその手首を切り落とす。

 切断まではできないが、腱は切れた。もはやまともに動くまい。

 そしてその胸に刃を突き立てる。深く、深く、深く。


「舐めるなァ……!!」


 こちらに牙を立てようとしてくるところを目掛け、左の拳で殴りつける。

 短剣は先ほど投げ捨ててしまった。


「ッ……バカな、こんな……ッ!」

「こんなだと!! お前が殺した相手は全員思っていたはずだ、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだって!

 お前はその理由が分かっているだけマシだろう!!」


 幸いにもまだリベルトもジーノも生きている。けど、このまま助かる保証なんてない。

 外に助けを求めようとした兵士が無惨に殺されたのを知っている。身体が爆発したように死んだと。

 状況に追い詰められ、仲間を殺すことでこのアダルベルトの正体を掴んだ勇敢な兵士たちの最後を知っている。

 彼らの理不尽な死を思えば、僕がこいつに与えられる死など、安いものだ。これは、あまりにも甘い罰だ。


「……いけないというのか、望んで何が悪い! 魔術の才を望んで何が!」


 魔術の才――アダルベルトが死に際に放ったその言葉を前に、僕は3人の仲間たちを思い出す。

 1人はマリアンナ。誰かが仕掛けた謀略に、魔法の才に目覚めていたことを利用された僕の愛しい人。

 1人はクラリーチェ。マリアンナとマキシマ博士、2人の技術を組み合わせ機械魔法を完成させた僕の幼なじみ。

 1人はロバート。神官の家系に生まれながら力を持たず、ドロップという妖精と出会い、宝石魔法の使い手となった僕の親友。


「くだらない。魔術の才が欲しいなら、機械魔法でも宝石魔法でも、いくらでも方法はあるだろうに。

 魔術の才能が欲しいだけで、なんでこれだけの人間を傀儡に変える? 何の必要があるって言うんだ?」

「ッ、殺したかったから、力を試したかったから、あんな奴ら死んで当然だ、僕をずっと蔑んでいたあんな奴ら!!」


 聞くに堪えない回答を前に、その開いている口にアーティファクトを突き立てる。

 彼が人間であったのなら、こんな惨劇を引き起こしていないのなら、彼の恨みにも聞く余地はあったかもしれない。

 彼が魔術の才を望むことも咎められるものではなかったのかもしれない。だが、こいつは既に数百人の人間の命を奪っている。

 それが許されるほどの恨みなど、この世に在ってたまるか。


(……なるほど。これが、ロバートの言っていた道を踏み外すということか)


 ロブは言っていた。自分たちを襲った少年が抱くフェリシア・マーガレットという元女優への敬愛は決してそれ単体で咎められるものではないと。

 しかし、それを実現する手段として”吸血鬼の血”という法外な力に手を伸ばしたのが全ての間違いだと。

 そんな力を手に入れてしまったから、手段のために平気で人の命を奪うようになり、本当の意味での鬼に成り果てたのだと。

 このアダルベルト・ハックマンという若者もそうだ。

 親と同じような魔術の才能を求めることも、軍隊という組織の中で同僚たちに抱く些細な恨みも、それだけならば咎められるものじゃない。

 でも、こいつはそれを満たすために”吸血鬼の血”に手を伸ばし、法外な力に任せこれだけ残忍な事態を引き起こした。だからこいつはもう鬼なのだ。


「ハァ――ッ……」


 自分の吐く息が荒いことに気づく。そして、自らに傀儡が迫っていることも。

 マルティンめ、弾切れか。

 クソ、切り返せるか。この死に絶えたアダルベルトからアーティファクトを引き抜き、切り返せるか、今の僕に。


「ベルザリオ……ッ!!」


 リベルトの声が響き、こちらに迫っていた傀儡をその両足で蹴り飛ばしてくれる。綺麗な跳び蹴りだ。


「そんな身体で、なんて無茶を……!」

「無茶なもんかよ。吸血鬼をぶっ殺してくれた無茶な領民を死なせちゃ、軍人の名が廃るってもんだ」

「……リベルト。ありがとう、必ず生きてここを切り抜けよう」


 アーティファクトを用い、立ち上がってくる傀儡を切り伏せる。

 誰が襲わせるものか。リベルトを。必ず守り抜いてやる。

 ここで死んでたまるか。黒幕を殺しても傀儡が動き続けるというのなら、全員殺してやる。


「――ああ、必ず助けは来る。それに、主を失って傀儡は総崩れだ」

「生き残る目もあるってことだね」

「当然。俺は分からねえが、吸血鬼を殺したお前なら必ず生き残れる」

「いいや、君も助かる。ここまで敬虔なバウムガルデン軍人を、女神はまだ求めはしない」


 太陽神アマテイトなんて知らないけれど、僕らのサータイトが彼のような動に満ちた男を望むとは思えない。

 まだだ、まだ迎えに来ないでくれ。我が女神よ。ここまで来て、僕は彼を失いたくはない。


「ハハッ、そいつは良い。そうだ、俺たちにはアマテイト様がついている――ッ!!」

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