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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第39話

 ――傀儡化が始まったうえでの急場だったからか、ジーノの傷は深い。

 リベルトのように辛うじて動けるような状態でさえない。

 そして上がり始めた烽火のこともある。下手には動けない。この青い煙を、そして僕らを助けてくれた彼のことを、守らなければいけない。


「……ふむ、我が術式から逃れたのは2人。そして見知らぬ敵が2人か」


 漆黒の外套に身を包み、複数人の傀儡を従える男の声が響く。

 考えるまでもない。こいつだ、こいつがアダルベルト・ハックマン。

 バウムガルデン領軍内部で、これだけの惨劇を引き起こした吸血鬼だ。


「アダルベルト……ッ!!」

「流石はリベルト先輩。まさか自分の胸を抉り出すとは。自決はさせないようにしていましたが、ふむ。次にやるときには自傷も禁じなければ」

「――次があると思うか? お前は死ぬんだよ。アイザックがここに来る」


 リベルトとアダルベルトが睨み合う。


「いいや、その前に私の傀儡はこの敷地内を制圧するさ。そして傀儡を集め、離脱させてもらう。

 今回は良い実験になった。私の魔術理論は正しいのだと理解できた。これで更なる高みに昇れる」


 ……魔術師を親に持ち、自らはその才能が与えられなかった男。

 なるほど、吸血鬼の血なんていう法外な力に手を染めたのは、それが理由か。


「ハッ、分かったよ。じゃあ、アイザックが来る前にお前を殺してやる――」

「ふふっ、無理はしないほうが良いよ、リベルト先輩。せっかく助かった命だ。黙っていれば愛しのアイザックが治してくれるかもしれないのに」

「やかましいぞ、吸血鬼の血を餌に、誰も助けなかったゲス野郎が……ッ!!」


 会話の間に体勢を整える。今、教会のアーティファクトを持っているのは僕だ。

 僕が、この先の戦闘の要になる。


「――当然じゃないか。誰が実験台に血を分け与えるものか。それに私は君たちのことが嫌いだった。

 蔑んでいたのを知っているよ、体力がない、能力がない、意志が弱い。お前らはそう、私のことを蔑んでいた」

「ケッ、当たり前じゃないか。吸血鬼の血に手を伸ばすようなクソ野郎が、意志が弱くなくて何なんだ? お前は結局、バウムガルデン軍人じゃないんだよ」


 遠くから、戦闘音が響いてくる。アダルベルトが傀儡を解放したのだろう。

 今、主力が不在となった領軍本部に、宿舎東の傀儡たちが襲い掛かっている。

 僕ら以外の烽火が上がらないことから見るに、外への連絡手段を先に潰したと見るべきか。

 血を餌に人間の判断力を持つ宿舎東の兵士たちを動かし、連絡手段が潰れたところで全てを傀儡化した。そんなところか。

 ……しかし連絡手段を潰したことの確認を1人で行い切れるか? この短時間で。それを考えれば、誰にも血を分けていないというのは嘘かもしれない。

 あるいは、傀儡化させずに人間のままの兵士が居るのか。どちらにせよ、伏兵に警戒するべきだろう。


(といっても、これだけの数の傀儡と吸血鬼本人。伏兵を警戒するだけの余力、こちらにはないか)


 長剣を構える。白い短剣も引き抜きやすい場所には持っているが、この力はなるべく伏せておきたい。

 アダルベルトが倒れている傀儡から再生力が奪われていると読み取っているかは分からないが、どれがその切り札なのかはまだ知られたくない。

 ……恐らく、このアーティファクトでの攻撃が通るのは一度限りだ。その先は必ず何か対策される。


「ふん、何がバウムガルデン軍人だ。そんなものを誇りにして何の意味がある。何の見返りがあった?

 お前らのそういうところが、本当に嫌いなんだ――」


 まず襲い掛かってくるのは傀儡たち。長剣を持って切り伏せ、その顎を潰し地面に叩きつける。

 通常の短剣で括りつけている暇はない。なるべく再生に時間がかかるように斬るしかない。

 そして、マルティンの方はどうも爆発物を使っているらしい。爆発音が響き、肉片が飛び散ってくる。


「……おいおい、とんでもないのを引き込んでるな、リベルト!」


 珍しく吸血鬼と気が合ってしまう。まさかマルティンがこんな戦い方をするとは思っていなかった。

 刃で傀儡の肉体を切り開き、火薬の筒を傷口に押し込み、爆発させる。

 どうやって発火させているんだとかいろいろと思う事はあるけれど、まさかアーティファクト以外にこんな隠し玉があるとは。


「――よそ見している暇、あるのかい?」


 アダルベルトは、マルティンに対して攻撃を仕掛けようとしていた。

 操っている傀儡もそちらに厚く投下していた。

 それが隙だ。おかげで届いた。僕は既に射程圏内に入っている!


「ただの剣士風情が――ッ!!」


 こちらが突き出した長剣は、容易く折られる。吸血鬼の腕というものは本当に恐ろしい。これほどの強度を持っているとは。

 そして、鍛冶師としての僕はまだまだ未熟者だ。より高みを目指さなければ。

 だが、元よりこの剣は陽動に過ぎない。本命は届くぞ、吸血鬼……ッ!!


「短剣程度で……ッ……?!」


 相手が腕を振り下ろした直後、がら空きになった胸に目掛けアーティファクトを突き立てる。

 これは吸血鬼からその再生力を奪う刃。

 

「終わりだ、アダルベルト――ッ!!」

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