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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第38話

「――バカが。アイザックを呼べばよかったのに、こんな危ない橋を渡りやがって」


 リベルトと合流できた僕たちは、本当に小さな声で情報を交換した。

 今回の事を仕掛けてきた吸血鬼の名がアダルベルト・ハックマンであること。そいつはリベルトの後輩で魔術師を親に持つ神経質な男らしい。

 そしてリベルトは寄生虫から逃れるために、自らの胸を抉り出している。長くはもたない。


「……悪い。お前が、悪魔の贄にされるかと思うと、できなかった」

「――そうか。そうだよな。お前はバウムガルデンの生まれじゃない、そう思うのも当然だ」


 ”ありがとう、ここまで来てくれて。これでまだ、もう少しだけ戦える”

 幼い頃からアイザックの伝説に触れて、本人とも面識があるであろうリベルトが悪魔召喚をどう捉えているのか分かる気がした。

 いや、そもそも、吸血鬼に対抗するために自らの胸に穴を開ける男が、悪魔になるなんて恐れもしないことは、言葉がなくても理解できる。


「そして君も本当にありがとう、ベルザリオ。まさかここまで来てくれるとは」

「なに、僕にもマルティンへの友情がある。こいつがこんな情に流される人間だと知れてよかった」

「……余計なお世話だ。脱出して烽火を上げるぞ、ベル、リベルト。魔法使いが来るまで生きていれば、お前も助かるかもしれない」


 マルティンの言葉に厭世的な笑みで返すリベルト。


「良いんだ、その先の事なんて。俺は俺の役割を果たす。死んでいった仲間たちの分まで」


 ――覚悟は決まった。あの見張りどもを殺し、外に出て烽火を上げる。

 きっと分かってくれる。僕の仲間たちが。

 でも、烽火を上げた瞬間に来るんだろうな。アダルベルトが。今回の仕掛け人、バウムガルデン領に巣食う吸血鬼が。


「今さら隠れる必要もない。突っ切るぞ――!」


 リベルトが向かっていた出口がどこなのか。それを調べるのに時間を使い過ぎた。

 既に日は昇り切っている。おそらく主力部隊は出払った後だろう。

 いつアダルベルトが動き出してもおかしくない。いや、すでに動いているかもしれない。


「……ガァァアア!!」


 見張り番は既に傀儡へと堕している。やはり、動き出したということだ。

 そう思いながら、長剣を引き抜き、傀儡の胸に突き立てる。

 ……クソ、何度も稽古してきた。剣というものの使い方それ自体は。

 しかし、人間を切り伏せるというのは、想像以上に悍ましい。人間は人間を切り殺すように出来ていないということを実感する。


「いくら再生しても――!!」


 更に短剣を引き抜き、傀儡の両腕に突き立てる。これで最早動くことはできない。

 どれほどの再生力があろうと、結局は木偶の坊だ。

 念には念を入れ、その顎を長剣で砕く。これで万一抜けてきても血を吸うことはできない。

 いったいどれだけの時間で再生してくるのはか分からないが。


「流石だ、ベル――」

「マルティン、君の武器は効くのかい?」

「ああ、ご覧の通りだ」


 吸血鬼の再生力を奪う教会系のアーティファクト。

 白く流麗な短剣で、マルティンはもう一人の見張りを切り伏せていた。

 切られた傷口は再生することなく、傀儡は血を吹き出しその力を失くしている。


「こっちもやってくれ。武器を回収したい」

「分かった。烽火を頼む」


 建物の外に出たその場で烽火の準備をする。これは冬の島から持ってきたものだ。

 青い煙が昇り、危険を知らせる。クラリーチェはきっとアイザックの近くにいるはず。

 いや、クラリーチェじゃなくても良い。ロバート、バネッサ、アドリアーノ、誰でも良い気づいてくれ……ッ!!


「……素晴らしい手際だ。領軍に入って欲しいくらいに」


 そう呟くリベルトはかなり辛そうな顔をしている。

 ……誰か傷を癒せる魔術師が来てくれれば。


「――見つけたぞ、リベルト! これで俺も助かる……ッ!!」


 先ほどリベルトの部屋を捜索しに来ていた2人組が、昇り始めた青い炎につられて現れる。

 こいつらの方はまだ傀儡化していないのか。

 そして、先ほど見逃してくれた男とも戦わなければいけないのか。僕らは。


「……どうやって逃げたかと思えば、なるほど。その傷、抉り出したな? 寄生虫を」

「ああ、そうだ、ジーノ。自決するつもりじゃなく、当然のようにやれば抉れる」

「ッ、お前もあのお方を裏切るつもりか……?」


 見逃してくれた方の男はジーノというらしい。

 そして、2人ともが倒れ込む。


「クソ……野郎、やはりこう来るか――ッ!!」

「そんな! 嫌だ、俺は助かるはずだ、俺は……ッ!!」


 ジーノと呼ばれた男は、自らの短剣で迷わず自らの胸を抉り出す。

 しかし苦しみ始めてからの作業、リベルトよりも深く……!!


「――マルティン、そいつ借りるぞ!」


 マルティンの手から白き短剣を奪い、2人との距離を詰める。

 そして、傀儡に成り果てた方の男を切り伏せ、ジーノの傷口を押さえる。


「……大丈夫だ、助かる。必ず助けが来る。それまで死なせはしない」

「ッ……クソ、加減できねえもんだな……良いんだ。お前らの邪魔にさえならなければ、それで。

 逃げろ、俺のことに構うな、連れて来い。アイザックを、クラークでも良い、そして殺してくれ、アダルベルトを、ぶっ殺してくれ」

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