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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第32話

『まずは、日記を探すしかないな――』


 リベルトに直接会った時の状況をマルティンに伝え、方針は決まった。

 彼が誰かに託した日記、そこに書いてある内容を確認しなければいけないと。

 そして僕が持ち帰った情報から考えて、彼に何かしら強固な精神支配の魔術式が仕掛けられているのは確実になった。


『……吸血鬼って言ってたんだよな、リベルトは』

『僕の言外の意図を拾ってくれていればね。しかし吸血鬼の傀儡とはずいぶん様子が違ったと思う』

『そこはお前の読みが当たっているのかもしれない。魔法に精通した人間が吸血鬼になり、術式を進化させた』


 最初のうちは文字を書けていたが、支配が進み文字を書くことが不可能になったんじゃないか。

 それが今のところの僕らの推測だった。


『リベルトに家族は?』

『……いない、あいつは天涯孤独の身だ。正直、酒場以外でのあいつを俺も詳しくは知らない』


 家族みたいな奴、マルティンに紹介したことはない。

 それ以外に手掛かりのない状態で、僕らの調査は始まった。


「しかし、明日には領軍が動き出すか……」


 リベルトが日記を託した相手、それを探すことは本当に難航しているのに対し、明日には領軍が動き出す――

 漏れ聞こえてくる話から血の流通元は恐らくほぼ間違いない。そしてそこが動けば、潜伏している他の吸血鬼たちが一気に動き出す可能性は高い。

 おそらくリベルトの身に何かを仕掛けた黒幕は恐らく領軍の一角を掌握している。だから領軍が大きく動けば、そいつは必ず動く。

 ……今日までに何の情報も得られないのなら、今宵か次の朝にはリベルトの身柄を押さえに行くしかないんじゃないかという話は既にした。


「行くとして、勝算はあるか? マルティン」

「……ひとつだけ切り札は。まぁ、悪魔召喚に比べたらカスみたいな道具だが」


 そう言ってマルティンが軽く説明してくれた道具は、一振りの短剣で、どうもアマテイトに関するアーティファクトらしい。

 曰く、それで吸血鬼を切りつけたら、傷が塞がらなくなる。吸血鬼の異様な再生力を潰すことができる刃だそうだ。


「再生力を奪えたくらいじゃ、勝てないんだろうな。きっと」

「――ああ、だが、リベルトの骨は拾える。あいつを人間として死なせてやれるだろう。俺はそれだけをして、この件からは手を引く」


 最悪の結末だ。しかし、今の僕らが手繰り寄せられる中では最良の選択なのかもしれない。

 彼が吸血鬼の傀儡として動かされ続ける、あるいは、アイザックの召還する悪魔の贄となる。

 それよりはまだ、マシな結末なのかもしれない。しかし……それで良いのか。そんなことしかできないのか、僕たちは。


「マルティン……僕は、」

「分かってる。お前にここまで手伝ってもらったのに、こんな結果にしか……本当にすまない」


 ……僕が言うまでもない、よな。

 この結末を本当に嫌だと思っているのは、マルティンのはずだ。

 僕は彼のことを情に流されない仕事人だと思っていた。それが友人からの助けを前にして、ここまで動いたのだ。

 それこそ彼が持つリベルトへの友情の証であり、だからこそ僕よりも悲しんでいるし、辛いだろう。


「っ――リベルトを探してるって人たちは、ここに……」


 僕らが活動拠点にしている酒場。そこに駆け込んでくる足音、女性の声。


「ああ、ここにいるぜ――」


 スッと立ち上がったマルティン。

 普段なら名乗る前に相手の素性を聞き出すのに、素直に受け止めたのはそれだけ焦っているということの表れだろう。

 でも、それは正解だった。彼女は持っていたのだ。日記を、リベルトの日記を。


「……じゃあ、貴女とリベルトは共に孤児院で育ったと」

「はい。長い付き合いで、その、家族のように思っています――」


 リベルトの言った通りで、家族みたいな相手に託していたのだ。

 ……彼の育った孤児院を把握していれば、もっと早くに辿り着けたかもしれないのに。

 そう思ったけれど、同時に僕らのやってきたことは無駄じゃなかったとも思えた。

 だって、彼女は僕らを探してきてくれた。僕らがリベルトについて調べていると知って頼ってくれたのだから。


「――何の言葉で書かれているのか、全く分からなくて。

 でも、知り合いなら分かってくれると。詳しいことは教えてくれなかったんですが、凄く、不安で……」


 彼女の心配している様を見て、察しがついた。

 きっと僕がリベルトに会った時のように、会話がおかしかったんだ。

 本当ならマルティンのことや自分の置かれている状況を詳しく伝えたかったのだろう。

 でも、それができなかった。だから、今、この時まで僕たちは出会うことができなかった。


「……初期魔法文字、を元にした暗号か」


 少しだけ彼女を遠ざけた。他の店員に頼んで着いていてもらった。

 店の奥に入って、マルティンはリベルトの日記を読み始めた。


「読めるかい?」

「ああ、俺らはよく使うんだ。俺ら以外に使う奴が殆どいないからな」


 初期魔法文字なら魔術師ならすぐに読めそうなのに、と思いながらもそんな質問をしている暇はなかった。

 すぐにマルティンの表情が変わっていったからだ。

 怒りと恐怖が入り混じったような、壮絶な表情。

 内容を聞くまでもなく、読みたくもないような現実が書いてあり、同時に僕らは核心に近づけるだろう。そんな気がした。


「――教えてくれるか、内容を」

「ああ……途中でキレたらすまん、ベル」

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