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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第30話

 ――何か困ったことがあればいつでも頼って欲しい。

 アイザックが、僕にそう言ってくれたのを聞いて、ありがたいと思った。

 そして同時に何かを見透かされているような気もした。


(……リベルトに会いたいということに、何かあると思われているのは間違いない、か)


 マルティンの奴は言っていた。

 アイザックが吸血鬼を相手に行う悪魔召喚は、この世で最も残忍な殺し方のひとつだと。

 だからこそ、仮にリベルトの身に何かがあった場合、既に吸血鬼の傀儡にされてしまっていたのなら、自分の手で殺してやりたい。

 あいつはそう言った。アイザックの手を借りるのではなく、自らで骨を拾うと。


『ロバートは、どんな風に戦っていましたか? 吸血鬼相手に通用していたのでしょうか』


 先ほどまでの会話で出ていたロバートの戦いについて聞いてみる。

 これは布石だ。本命はこの流れでアイザックの悪魔召喚について聞き出す。


『――私が駆け付けたときには、吸血鬼を氷漬けにしていたよ。

 無論、吸血鬼の再生力は桁外れ。すぐに立て直してきたが、もしかしたらあのまま戦っていても勝てたかもしれない』


 ロブ自身の言葉とはだいぶ印象が違うな。

 あいつは勝てない可能性が高いと、自信なさげに話していた。

 ……いや、あの日は雨だったか。ロブにとっては最高の状況だ。そこで苦戦したのだから、晴れの日に勝てるはずがないと思うのは当然。

 そして、あの時の戦いの話だけをしているアイザックが勝てたかもしれないと語るのも当然。


『雨が降っていましたからね。あいつにとっては有利な環境だった』

『なるほど。宝石魔法の限界か』

『それでなくてもどうなっていたことか。貴方が来てくれて本当によかった』


 このまま流れるように聞き出したかった。

 けれど、少しの緊張が混ざって一瞬、言葉が遅れた。

 ……見抜かれてしまっているだろうか。この動揺。


『――炎の鎧を呼び出したってロブが話してて、悪魔召喚って言うんですか? あれ』

『ほう? 調べたね、そうだ。ブラッドバーンという悪魔を呼び出す』

『傀儡を殺して、骨も残らないって』


 こちらの言葉に頷くアイザック。

 やはり、マルティンの言っていた通りだ。

 つまり目の前の賢人に頼った場合、最悪リベルトの骨さえ残らないことになる。


『命を贄にして悪魔を呼び出す。悪魔は命を奪うたびに自分の身体を増やす。

 それを消滅させられるのは術者である私だけ。無理に破壊することはできても、無傷では済まない。

 ”吸血鬼殺し”としての私が最も使用し、最も信頼した対吸血鬼の有効策だ』


 吸血鬼が無数に用意している傀儡の1人を殺せれば召喚でき、そこから数の有利を覆すことができる。

 理屈としてはよく分かる。知れば知るほど、それが唯一の決定打だと思えてくる。


『……傀儡にされた人間って、何をどうしても人間に戻ることはないんですか?』

『ああ。まぁ、魔術師として正確な見解を語るのならば、それを実験したことがないから可能性がゼロという訳ではない。

 しかし、吸血鬼との戦闘中にゼロに近い可能性を模索する余裕はない。こちらが殺される』


 正確で簡潔な回答だ。


『傀儡にされた人間って、自意識とかって残ってるんですか? 人間との区別は可能だったり?』

『自意識らしいものを外から観測することはできない。

 人間との区別は、どこが違うとはなかなか言いにくいが、見れば分かる。これはもう人間じゃないとすぐに』


 アイザックはこう続けた。

 ――しかし、自意識が残っているかどうかは、これもまた分からない話だ。

 自分らしい行動を取れなくなっているだけなのか、それとも既に魂まで死んでいるのか。

 それは他者である我々には分からない。せめて後者であることを祈るだけだ。と。


(……果たしてこれで正解だったのだろうか)


 アイザックと別れ、領軍宿舎の応接室。リベルトを待つ間、僕はずっと考えていた。

 あの時、アイザックと2人だった、まさにあの時に自分たちが抱える事情を話してしまえばよかったんじゃないかと。

 だって彼の話す傀儡の内容から考えれば、リベルトがそうである可能性は低い。彼が既に吸血鬼の傀儡であれば、マルティンに最後の依頼を出せるはずもない。

 しかし踏ん切りがつかなかった。マルティンがアイザックには頼りたくないと言っていたこともそうだし、自分自身の保身もある。


(……闇夜の盾への所属、独断で話を入れたときのマルティンの反応)


 正直なところ、闇夜の盾なんていう組織に属していることは伏せておきたい。公にすることではない。

 ロブたちに変な心配をかけるし、クラリーチェなんて出身を”隠し事をしているから話せない”と言っているんだ。

 そんな彼らに更なる隠し事を共有したくはない。

 更にマルティンのこともある。仮にリベルトが傀儡でないとしても、彼に独断でアイザックという大きな力に頼れば、闇夜の盾の彼を表舞台にあげることになってしまいかねない。

 そうなれば今までの関係を続けられるかどうかが怪しい。僕は、彼との関係を壊すわけにはいかないのだ。


(……でも、吸血鬼が関わっていたとして僕とマルティンだけでやれるのだろうか)


 今、待たされている応接室。入ってくるのは誰だ?

 既に何かが始まっているのなら大人しくリベルトを出してくるか?

 ……黒幕が吸血鬼なら、いや、魔術師であっても僕でどうにかできるというのか。

 アイザックに同席してもらえばよかった。そうじゃないか? ベルザリオ・ドラーツィオ。


(……ああ、本当ダメだな。僕はいつも優柔不断で、後になって選択を変えたがる)

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