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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
233/310

第13話

「――すまない、クラリーチェ。2人についていてあげて欲しい」


 ヴァンとの戦いの後、アイザックが既に手配していたバウムガルデンの領軍が集まり、証拠保全を始めた。

 しかし、酷い雨だ。何かしら決定的なものが見つかることはないだろうと話しているのも聞こえてくる。

 それを横目に俺たちは、アイザックの館に招かれる。

 彼の目的は、この事件に関する事情の聴き取り、そして何よりもデミアンとフェリシアの安全を確保すること。


「ええ、分かりました、アイザック。……ロバート、細かいことはまた後で」

「ああ。デミアンとフェリスさんを頼む……きっと、凄く、落ち込んでいるはずだ」


 落ち込んでいるなんて言葉じゃ、安っぽく聞こえる。

 けれど、俺にはそう表現することしかできなくて。

 だって分からないんだ。自分を好いてくれた相手があんな凶行に手を染め、死んでいったときにどんなことを思うのかなんて。


「――それでは、また後ほど」

「うん。今日は泊っていくと良い。部屋のひとつを好きに使ってくれ」

「ええ、そうさせてもらいます」


 先に別室で休んでもらっているデミアンとフェリスのもとへとクラリーチェが向かっていく。

 そして、このアイザックの応接室に残ったのは3人。

 1人は部屋の主、あとは俺とデイビッドだった。


「……デイビッドと言ったね、君は」

「はい、お初にお目にかかります。デイビッド・ブラックストーンと申します」


 クラリーチェが用意してくれていた紅茶が3つ。

 ひとつのテーブルを囲み、アイザックはまずデイビッドに質問を向けた。


「少し見ていたが、あの技術。どこで身に着けた? 生半可なものではないはずだ」

「生憎ですが、私は自らの手の内を気軽に話せるほど持ち札を持ってはいません。

 数百年の時を生きる貴方ほど賢明ではないことをお許しいただきたい」


 デイビッドの方は、自分の技について語るつもりはないらしい。

 理由は分からなくはない。あのヴァンという男が言っていた通り『仕掛けの分かった手品』では勝てないのだ。

 だから、手の内を伏せたいと思うのは戦士ならば当然のこと。特に吸血鬼なんてものと戦おうというのなら。


「ふむ。では、質問を変えよう。君は何が目的でこのバウムガルデンに?」

「――吸血鬼を殺すため。殺されたんです、仲間を、吸血鬼に。

 あいつはイルザさんと貴方を狙ってここに来るだろうと思ったし、仮に来なくても貴方から学べるかと。吸血鬼殺しの技術を」


 デイビッドの言葉に、アイザックは軽い笑みを浮かべる。


「すまないね、生憎と私の技術は真似というものが不可能で」

「……その胸に仕舞ってる宝石が触媒でしょう?」

「奪ったところで無駄だ。これを使いこなすには技術がいるし、それを教えるつもりはない」


 2人の視線が静かにぶつかり合っている。

 視線に熱があるのなら、すでにバチバチと音を立てているだろう。

 しかし、あの宝石は何なのかは気になるところだ。妖精と使う宝石とはまた違うのは分かるが、あれはいったいなんなんだ。


「シオン・ブラックウッドのようには認められない、と」

「……ふふっ、よく知ってるな。昔のことを」

「複製ですがクロード・ミハエル・バウムガルデンの本を読みましたんでね」


 デイビッドが挙げた2人の名前がいったい誰なのかは分からない。

 ただ、推測するに”吸血鬼殺し”とアイザックが呼ばれていた頃の人物なのだろう。

 その時代の出来事が本になっているのだ。


「……懐かしい名をありがとう、デイビッド。

 あの本ではだいぶ省略されているが、私がシオンに手の内を教えるまでは凄まじい駆け引きがあったんだ。

 彼女たちが既に自らの宝石を用意していたというのもあったがね」


 あくまであの炎の鎧による吸血鬼殺しの技術を教えるつもりはないようだが、アイザックはデイビッドに気を許したように見える。

 しかし、気になるな。アイザックにまつわる本の存在が。

 こんなことになるのなら先に読んでおけばよかった。


「それは構いませんよ、アイザック。取るべき仇は既にこの街にいる。

 貴方から技術を盗まずとも、貴方本人がここにいるんだ」


 ……自身の仇と、ヴァン・デアトルに血を渡した吸血鬼が、同一だと考えているということか。


「ヴァンに血を与えたのが、アンタの仇だと?」

「そうだよ、ロバート。あいつは名乗っていたんだ。自らのことを”吸血皇帝”とね」


 アイザックの持つティーカップが揺れる。

 珍しく彼が動揺したのが分かる。

 吸血皇帝、それが誰を指しているのかは分からないが、よほど重要な人物らしい。


「……見たのか? 吸血皇帝の姿を」

「ええ。詳しくは見えませんでしたが、闇の中であいつは笑っていました。俺の仲間を皆殺しにしながらね」

「ッ、それで仇をという訳か……」


 アイザックの言葉に頷くデイビッド。そして彼は続ける。


「自らの血を人間に与え、吸血鬼を増やす。やり口が完全に吸血皇帝のそれだ。

 貴方たちも感づいていたのではないですか? 吸血皇帝の復活に。だから、ここにイルザ・オーランドがいない」

「本当に君はよく調べてからここに来たようだ。……良いだろう。私たちが今の段階で知ることを教えよう」


 そう言ったアイザックが、ふと、こちらに視線を向ける。


「……すまない、ロバートくん。君にも、この話を聞いていて欲しい。

 君のような男が、君たちのような若者たちが、この街に留まるのならば知っておいた方が良いことだ。

 そして、もし危険を遠ざけたいと思うのならば数日中にここを去る以外の方法は存在しないと思ってくれ」

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