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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第10話

 ――ヴァン・デアトルが口走った名前、イルザ・オーランド。

 それは確か、あのアイザックの相棒。”吸血鬼殺し”の異名を持つ片割れのはずだ。

 しかし、どういうことだ? なぜ、吸血鬼殺しが、吸血鬼と変わらないというのだろうか。


「――いいや、違うな。

 その力を律し、数百年の時を生き続ける英雄と、力に溺れ人を殺し、自分の願いだけを押し通そうとしているお前。

 いったい何が同じだと言うつもりだ?」


 投擲されたナイフを弾き落としながら、切断された手首を拾い上げる吸血鬼。

 失った部品を手に入れてしまえば、瞬く間に傷が塞がっていくのだから、本当にあれはもう人間ではない。


「フン、私は手に入れたんだ。それだけの力をな」


 飛び散っていた、ヴァンの血液が刃へと変わる。

 そして、デイビッドの糸を切断していく。


「仕掛けの分かった手品では、私は倒せない――」


 塞がり切っていない手首から、血液が噴き出し、それが刃へと変わる。

 マズい、このままではデイビッドが――!!


「ッ――盾だ! ドロップ!!」

『りょーかいっ!!』


 雨が降っているのは好都合だ。

 水を操作し、伝播させ、デイビッドの前に氷の盾を造り出す。

 クラーケンと戦った時にもやったこと。今回の敵は、あの時よりも小柄だ。


「――流石だ、魔術師殿」

「ッ……魔術師まで同席しているか」

「どうする? 吸血鬼。続けるか、やめるか」


 2対1という不利。しかしそれを不利と思う事はないのだろうな。

 俺とドロップの力も恐らく、見破られてしまえば、あいつにとっては”仕掛けの分かった手品”だ。

 だから、せめて少しでも俺が大きく見えていることを祈る。


「――元より口火を切った時点で退路などない。

 ここで退いてしまえば、お前らはアイザックに泣きつくんだろう?」


 どす黒い赤、濁った瞳がせせら笑う。

 なるほど、この場を切り抜けた後の動きまでお見通しということは、もうやるしかないな。

 しかし、どうする……? フェリシアとデミアンだけでも逃がすか? 

 いや、相手は吸血鬼。どんな隠し玉を持っているか分からない。自分の目の届く範囲にいてくれた方が良いだろうか。


「後悔することになるぞ、俺たちを敵に回したことを」


 デイビッドの近くに進む。これで既に射程圏内だ。

 俺の手元、使えるのは氷と風の宝石だけ。

 ――もしも、あの虹色が使えたのなら、すでに決着はついているのに。跡形もなく消し飛ばせる。


(……いや、この考え方が既にデイビッドの言う、強大な力ゆえに抵抗感を失うということなのだろうな)


 普通なら人間を跡形もなく消し飛ばそうなんて思うはずがない。

 この市街地で、あの死神を消失させた強大な力を使うのはあらゆる意味で恐ろしい。


「――いいや、後悔するのは君たちだ」


 飛び散っていた血液が、俺とデイビッド目掛けて飛び出してくる。

 既に雨に流れていたような血液でさえも操れるというのか。

 流石は血を媒介にする怪物という訳だ。


『ロバート!』

「分かってる!」


 降り注ぐ雨を凍結させ、壁を築く。

 それで飛んでくる血液を防ぐが、おそらくこれは既に……!!


「言っただろう? 仕掛けの分かった手品では、私は止められない」


 ヴァンがその指先から放つ血液は、氷の壁の隙間に入ってくる。

 ッ、撃ち落とすしかないか……ッ!!


「クソッ……!!」


 無数に飛んでくるそれは、水の弾丸で撃ち落とし切れるものでもなかった。

 いくつかが直撃し、皮膚を抉った。その痛みは強烈で、意識が飛びそうになる。


「終わりだ、魔法使い――!!」

「――お前さ、俺のことは忘れたのか?」


 雨音の向こう、金属が揺れる音がする。

 そして、ヴァンの身体に無数のナイフが突き立てられていた。


「ッ――?!!」

「仕掛けの分かった手品じゃなかったなァ? 吸血鬼!!」


 なんだ……? このデイビッドという男、いったい何をした?

 なぜ、ついさっきまで氷の壁を展開していたのに、ヴァンの背後にまでナイフを飛ばせている?

 そもそも投擲したナイフがなぜ、背中にまで突き刺さっている?


(……なるほど、仕掛けの分からない手品ってことか)


 今はデイビッドの手の内を気にしている場合ではない。

 この機に乗じる。仕掛けが分かっていようが、今なら反撃はできないのだから。


「凍らせるぞ、ドロップ――」

『――分かった♪』


 降り注ぐ雨に濡れた吸血鬼、その身体にまとわりついている水を凍らせていく。

 俺の足元から水を凍らせ、その範囲を広げる。


「なに……ッ!!」

「もう遅い。氷は既にお前を掴んだ」


 立ち上がろうとした吸血鬼、まずその頬の皮膚が剥がれる。

 そして衣服は既に完全に凍り付き、地面に縫い付けられているのと同じ。

 最早、動かすことは出来ない。そして時間さえあれば何かしらの対抗策を打てるのだろうが、既に手遅れだ。

 全身が濡れ切っている状態では、この氷から逃れる手段は存在しない。


「……ロバート、クロスフィールド」

「どうした? そんなに驚くことか?」

「いや、まさかここまで出力の高い魔法を使えるとは思っていなかった」


 吸血鬼、ヴァン・デアトルの全身を氷で覆った。

 人間ならば解凍したところでもはや助かることはないだろう。

 しかし相手は吸血鬼だ。おそらく、そう長くない時間で、この状況を打ち破ってくる。


「逃げよう、アイザックのところに……!」

「――いいや、その必要はないよ。ロバートくん」

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