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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第6話

 ――フェリシア・マーガレット。

 酒場パール・ヴァロールの店長にして義足の美女。

 彼女を見つめるデミアンを見ていれば分かる。彼にとって彼女が大切な人であることは。


「……お前がこの店に来ているのって、あの人目当てか?」

「ああ、隠しようもない、よね……」

「別に隠す必要もないとは思うが、どういう関係なんだ? 店に来てからか?」


 静かに首を横に振るデミアン。


「昔から憧れていた。一度、一緒に仕事をさせてもらったこともある」

「……酒場の仕事?」

「いや、演劇を。あの人は本当に稀代の女優だったんだ……」


 そう話すデミアンは、表情を見ているだけで辛そうだと分かる。

 ……あの義足に、女優だったという言い回し。

 俺たちよりも年上ではあれど、そこまで彼女が歳を重ねてはいないことから考えれば何かあったんだろうな。

 事故か何かだろうか。……不用意に深く聞くのも不躾か。


「そうか。綺麗な人だ。羨ましい限りだな――」


 少し茶化すように口にする。

 これ以上、彼の知る彼女の過去に踏み込んでしまわないように。

 そしてブランデーを傾け、気付けばグラスが空になっていた。


「――ひょっとして、私を褒めてくれてた?」


 いつの間にか、話題の人が隣に座っていた。

 そして、彼女に気付いたばかりの俺のグラスにブランデーを注いでくれている。

 ……なんという距離の詰め方、それでいて不快でないのが凄まじい。


「これは私から君への奢りだよ。私を褒めてくれたお礼と、それに君だよね?

 海難事故からデミアンを助けてくれたっていう船乗りさんって」


 距離の詰め方が余りにも速くて、上手く言葉が出てこなかった。

 それに何より、近くで見ると本当に美しい。

 まるで氷細工のような、端正な顔立ちにドキドキする。


「……え、ええ、よく分かりましたね」

「デミアンが見知らぬ友達を連れてきてたからね、そうじゃないかなって。ね?」


 フェリシアさんがデミアンへと視線を向ける。


「そうです。彼が居なければ今ごろ僕は……」

「クラーケンに襲われたんでしょ? 最初に帰ってきた人たちの中に君が居なかった時はゾッとしたよ」

「……ごめんなさい。僕は、いつも助けられてばかりだ、借りも返せていないのに」


 デミアンの震える声を聞いていると、2人の間に何かがあったのが分かる。

 それが何かまでは分からないけれども、この2人には何か過去がある。


「――帰ってきてごめんなさいなんて、バカなこと言わないで。

 私はデミアンが生きていてくれて本当に嬉しい。だからありがとうね、船乗りさん。君のおかげだ♪」

「いえ、俺にはドロップが居てくれたからできたことです」


 この旅も、あの戦いも、氷菓子屋も、全てはドロップという妖精が俺の元に居てくれるからできたことなんだ。

 俺1人だけじゃ、きっと冬の島から出る決心さえつかなかったと思う。


『――呼んだ? ロバート……おお、きれいな人……』


 自分の名前を聞いて飛び出してきたドロップが、ふらふらとフェリシアさんに近づいていく。


「おお、妖精さんか……なるほどなぁ、それで氷菓子屋なんだ。宝石魔法使いさんなんだね」

『宝石魔法?』


 ドロップをその手のひらに乗せてくれるフェリシアさん。

 白くて柔らかそうな手に、ドロップの方もご満悦だ。


「君みたいな妖精さんと一緒に、宝石で魔法を使う人をそう呼ぶんだって」

『ふーん、宝石魔法かぁ……あ、そうだ、私はドロップ。よろしくね♪』

「ご丁寧にありがとう。私はフェリシアっていうの、フェリスと呼ぶ人が多いかな」


 なるほど、フェリスと略するのか。


「えっと、名乗ってませんでしたよね? 俺は、ロバート・クロスフィールドって言います」

「おお、ロバートくんっていうんだ。今後ともデミアンの奴をよろしく頼むね」

「どちらかというと、こっちがお世話になっています。氷菓子屋も彼がいてくれなければできなかった」


 俺の言葉に柔らかな笑みを浮かべるフェリスさん。


「だよね、あの店ってあれでしょ? お父さんの持ち物を使ったでしょ?」

「ええ、スノードロップに任せるのが今年は一番稼げると思ったので」

「ふふっ、確かに氷菓子をあれだけ用意すれば凄いよね」


 補足的に、俺たちの活動資金も稼げたことを告げる。

 売上から家賃や手伝ってくれたデミアンへの報酬も支払ったが、それでも見知らぬ土地で最初に稼ぐ金としては異常な金額を稼げたと思う。

 あの海の家という場所の相場を知らないから何とも言えないところはあるが、街で物を買う値段を考えると1年近くは稼がなくてもいいくらいの金額だ。


「――あ、そうだドロップちゃんにロバートくん。今って氷、造れたりする?」

『できるよ? ね、ロバート♪』

「ええ、けれど何のために?」


 フェリシアさんに問いかけながらも、用意されていた飲み水を操って氷を造っていく。


「ブランデーってね、氷で冷やすとまた味が違って美味しいんだ。

 魔術師さんがいないとなかなか夏には飲めないんだけどさ」


 ……ほう、それは興味深いな。確かにブランデーは冷えると味が変わりそうな気がする。


「じゃあ、フェリスさん。僕から1杯奢らせてください」

「良いの? ごめんね、いつも」

「いえ、それこそロバートたちのおかげで儲かりましたから」

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