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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第3話

「それでは”氷菓子・スノードロップ”に――」


 夏の終わりが見えてきたころ、デミアンがアカデミアへと帰る日が近づいてきた夕暮れ。

 砂浜に海の店として開いた氷菓子屋を営む一日を終え、みんなでデミアンの送別会を始めようとしていた。

 それぞれの手には、それぞれ好みの味の氷菓子。細かく砕かれた氷の上に、好みの味のシロップをかけている。

 これが俺たちの商品だ。今日まで、この氷菓子でかなり稼いできた。


「――そして、アカデミアへと戻るデミアンに」


 デミアンの奴に挨拶を任せていると、自分の送別会だというのに自分のことを言おうともしなかったので俺がスッと横から口を挟む。


「――乾杯♪」


 口を挟んだ俺にデミアンが微笑み返し、乾杯の音頭を取る。

 そうして氷菓子の器をぶつけ合い、送別会が始まる。

 この乾杯というのも、スカーレット王国の文化だそうだ。


「今まで、本当にありがとう。デミアン、君のおかげで僕たちのスカーレット王国進出は驚くほど上手く行った」

「ベルさん……これであの日の借りは返せたかなって。

 それに、皆さん自身の技術があったからこそ、この氷菓子屋ができたと思っています」


 リーチルの島を出発し、デミアンと共に辿り着いた先は、スカーレット王国のバウムガルデン領という場所だった。

 そこはデミアンの故郷であり、帰還が絶望視されていた彼を連れ帰った俺たちは大きな歓迎と共に迎えられた。

 そうして見知らぬ土地での生活を試行錯誤しているうちに夏が近づいてきて、俺たちはデミアンの誘いで海の店を出した。


「いや、いくら力があっても、商売というものには信用が必要になる。その下地をくれたのはお前だ、デミアン」

「……それは、あの日に船長が僕を助けてくれたからさ。僕が君を信用して、僕を信用してくれている人たちにもそれを伝えられた」


 あの日、あの時の俺は自分の中に沸いてくる意思に従っただけだ。

 死にそうな彼を見捨てて、この先の旅を楽しむことができるのか?と思ってしまったから助けようとした。

 その結果がここまで繋がるなんて考えてもいなかったが、本当にありがたい話だと思う。


「この店のおかげで、私たちも王国の通貨を手に入れることができました。

 もう少しで夏も終わってしまいますが、ここで出来た資金は私たちの旅に大きな意味を持つでしょう」

「ふふっ、狙い通りではあるけれど、そう言ってもらえると嬉しいな。クラリーチェさん。

 それに僕は、貴女をアイザックに紹介できたのが何より嬉しい」


 デミアンの言葉に”その節はどうも”と返すクラリーチェ。

 そう、今、彼女はこのバウムガルデン領の大魔術師である賢人アイザックと懇意にしている。

 彼女を外の世界に誘った時の言葉がこんなに早く実現するとは。人智魔法の先駆者とこんなに早く出会ってくれるとは思っていなかった。


「しかし、デミアンが戻っちまうのは寂しいねえ。

 なぁ、ロバート。私らはいつまでここにいるつもりなんだい?」

「……ああ、そうだな。元々の目的から考えるとずっとここにいるってのも違うとは思うが」


 ほう、バネッサの奴がこれを言い出すとは意外だった。このバウムガルデンを最も楽しんでいると思っていたから。

 彼女は最近、この土地の育ちの良い少年とツルんで様々な料理屋を巡っているのだ。

 冬の島のサルーア料理には飽きたんだと言っていた通り、新しい土地で急速に様々な料理を楽しんでいる。

 きっと、もう少しで彼女はその分析を終え、味わった料理を自らのものへと変えていくだろう。


「今のところ、明確な指針はないし、ここでの生活が余りにも順調だからね。

 マリアンナについても、マキシマ博士についても、クリスさんについても明確な手掛かりはない」

「んー、そうだよなぁ……明確な指針がないんだよな」


 今後の旅をどうするかを考えると、ベルの兄貴の言った通りの問題が発生する。

 目的らしい目的を持っている探し人は誰1人として、その手掛かりがない。

 同時にこのバウムガルデン領での生活が余りにも順調で快適だ。無理に移動する必要を感じないほどに。


「じゃあさ、アカデミアに行くってのはどうだ? この王国最大の知識の集積地なんだよな? デミアンよ」

「はい。この土地にアイザックがいるように、偏在している知識もありますが、それでも王国全ての知識が集結しているのはアカデミアを置いて他にありませんね」


 アドリアーノめ、随分と突飛なことを言いだすものだ。

 しかし、アカデミアか。目指す場所としてあり得ないという訳じゃないな。


「仮に入学するとしたら、必要なものは?」

「入学金と、簡単な試験くらいかな。皆ならたぶん軽く越えられると思うよ」

「へえ、入学自体は難しい訳じゃないのか」


 てっきりこう、格式の高いものだと思っていたがデミアンの口ぶりからして、そういう訳でもなさそうだ。

 

「難しいのは卒業することなんです。学ぶ者自体を拒みはしない。特に紹介状があればね。

 僕の両親に書かせてもいいし、アイザックのを貰えれば一発だろう。

 それに卒業が難しいと言っても無理に卒業する必要はない。必要な知識や人脈を得たらアカデミアを去る人間の方が多いし」


 ……これ違うな。やはりアカデミアへの格式は高いんだ。

 ただ、デミアンが居るからそれを簡単に越えられてしまう。

 つくづくすさまじい人脈を持ったものだ。


「もし君たちがアカデミアに来るのなら、かなり有意義な時間を過ごせると思う。

 特にクラリーチェさんには最適の場所かなって」

「……考えておきます。今はまだ、アイザックから仕入れたい情報も多いですし」

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