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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2.5章
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第10話

 ――あの夜から数日、ライドレース本番まで1週間と少しになったころだ。

 いつも通りに昼ご飯を届けたのだけれど、クリスちゃんが練習の真っ最中で、私はそれを見学していた。

 初日にも見た姿だけれど、彼女はあの日よりも洗練された走りをするようになったと思う。

 ライドレースというものには詳しくないけれど、日が立つたびにより完成されていっているのは見て分かる。


「たった1週間と数日でこれだ。凄まじい才能だとは思わないか?」


 ふと、声をかけられていた。すぐ隣にあの男が立っていた。

 ロナルド・ヒースガルド、名門貴族の出身で天才的なライドレーサー。

 ちょうどクリスちゃんと同じような金髪に赤い瞳を持つ高圧的な貴族サマだ。


「……ええ、ただ、私程度の目でそれが分かっているかどうか」

「謙遜をするな。お前の目を見ていれば分かる。ウィングフィールドの仕上がりを理解していると」


 不思議なものだ。彼にこう言われると反論する気が起きない。


「どうして、彼女を誘ったのです?」

「以前に着かなかった決着を着け直すためだ。事情を聞いていないのか?」

「事情は聞いています。ただ、それだけでは貴方の心は分からない」


 練習場を駆け抜けるクリスちゃんを見つめながら、隣に立つロナルドに問いを投げていた。

 ずっと不思議だったのだ。勝負を拾い直したいと思わないか?とクリスちゃんを誘う彼のことが。


「ふむ、お前は何が分からないのだ? 事情を聞いたうえで俺の心の何が分からないと?」

「……強敵を、勝負に引き戻したこと」

「ほう? 続けろ」


 まったくつくづく高圧的な男だ。だが、なんだろう、意外と嫌な奴ではない。

 クリスちゃんが彼に完全な嫌悪感を抱いていなかったのもよく分かる。


「――クリスさんは貴方にとっては自分に匹敵し得る強敵だ。

 今回のライドレースについて調べましたが、貴方の1人勝ちというのが下馬評だ。

 黙っていれば貴方は勝てる。なのにどうして勝てないかもしれない強敵を自分で呼び戻したのです?」


 こちらの言葉を聞いて、フッと笑い捨てるロナルド・ヒースガルド。


「お前は勝負師ではないな。よかろう。

 まずひとつ。黙っていれば勝てる勝負などこの世に存在しない。

 周囲の予測など、ライドレーサーは簡単に裏切る。いや、裏切らねばならない」


 強烈な言葉。それでも彼は自分以外のレーサーに対する大きな期待を寄せているのが分かる。

 自分が勝つという下馬評がどうした? それを覆すのがライドレーサーだろう?という期待を彼は当然のように抱いている。


「そしてもうひとつ。知れた勝負ほど退屈なものはない。

 俺に勝てるかもしれない相手くらい引き込まなきゃ、魅せる試合にならん。

 ライドレースというのは、俺とレフコースだけで出来上がっている訳じゃない。好敵手なくしては真の意味では成立しないのだ」


 ……なるほど、観客に見せるものとして強敵は必要だということか。


「それが愛馬の引退試合でも? クリスを引き込むことで貴方が負ける可能性は高まったと考えているんでしょう?」

「まぁ、俺に勝ち得る相手を連れてきたのだからな。普通に考えればそうなのだろうよ」


 そう告げるロナルドの瞳に、騎手としてのクリスが映る。


「――負けるものか」

「えっ……?」

「あれから半年以上だ、俺はライドレーサーとして更なる経験・修練を積んできた。

 しかし、あいつは違う。あやつは稀有な才能をライドレースに注がなかった」


 死竜殺しの異名、学院生として完成させた論文、それらを考えれば彼女がライドレーサーとして生きていないことくらいよく分かる。

 事実、私はこの男が現れるまでクリスさんの口からライドレースという単語さえ聞いたことがなかった。


「だからこそ、あやつには引導を渡してやらねばなるまい。

 ただの小娘がまぐれでこのロナルドと接戦をし、その試合が没収試合となってしまっているのだ。

 これでは後ろ髪ひかれるだろう? 現にウィングフィールドは俺の誘いに乗った」


 ……引導を渡す、だと。

 ライドレーサーとして生きなかった彼女に引導を渡す、か。


「貴方は以前、自分を利する妨害にあった時に試合を切り上げたと聞きました」

「当たり前だろう? 俺の試合に不純物があってはならない。俺は俺の力を信じているし、レフコースの力を信じている。

 そして客はそんな俺たちを見るために金を払うのだ。だからこそ、俺たちは俺たち以外の力で勝ってはならない」


 ……ふふっ、なんだ、この男は。

 なんだってこんなに自信に満ち溢れていられるのだ。

 しかし、分かるかもしれない。

 この男が観客の視線を集める理由が、彼が絶大な人気を誇る理由が。


「だからこそ、単純に拾い直したかった。

 あんな素人に肉薄されて、見知らぬ下衆の魔術式に助けられ、それで試合が流れた。

 こんな汚点を残したまま俺のレフコースを引退させるわけにはいかんのだ」


 彼の言葉に自然と笑みが零れてくる。


「なぜ笑う?」

「いや、心の底から清々しい人だなと思いましてね。貴方が人気な理由が分かりました」

「そいつは結構。お前はウィングフィールドに美味い飯を食わせてやれ。あやつには万全の状態で挑んできてもらわねば困る」

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