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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2.5章
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第8話

「――はえー、こうして見ると分からないものですね」


 翌日のお昼のことだ。

 リリィちゃんからも仕事を請けたことをクリスちゃんに伝え、なんだかんだ流れのままに教授室で昼食を取ることになっていた。


「意外と気づかないものでしょう? 知らなければ殆ど見抜かれません。

 それと今日は急に同席させていただいてすみませんでした」

「いえいえ、ボクもリリィさんと同席できるのは嬉しい」


 2人が話しているうちに、神官様の力でリリィちゃんに温めてもらったスープを用意していく。

 ……しかし、こうして熱々のスープが飲めることになるとは。

 こんなことに神官様の力を使ってもらって良いだろうかと思いつつ、非常に助かる。


「ところで、ライドレースに参加されるらしいですね? クリス」


 クリスちゃんの軽装を見つめながら、リリィちゃんが話している。

 確かに普段お店では見かけない服装だから気になるのは当然だろう。


「ええ、ロナルド・ヒースガルドとは少し因縁がありましてね」

「……あの男と?」

「リリィさんもお知り合いなんですか?」

「以前、金で加護を受ける順番を繰り上げてきた貴族がいたという話をしましたよね?」


 ――ああ、それこそロナルドが初めて喫茶ライオンに来る少し前のことか。

 2人で教会内部に対して論文を上げるべきかどうか話をしていた。


「ああ、やりそうですね。そういうこと」

「……どうしてあれと因縁が?」

「昔に色々とありましてね。一度だけライドレースに出たことがあるんです。その時に競り合ったのがロナルドさんでした」


 ここら辺に関してはロナルドとの会話でなんとなくは把握している。

 詳しく聞き出したわけじゃないから、抜けている部分もあるだろうけれど、それはそれとして。


「また誘われるくらいに良い試合をしたということですか」

「それもあります。ただ、決着がつかなかったんですよ、前回は」

「ほう? 何か事情でも?」


 そういえばどうして前回の戦いでは決着がつかなかったのかは聞いていなかったな。


「ライドレースで非公式に賭博をやる人たちって多いでしょう?

 それでロナルドに勝たせようとした奴が魔法を使ったんですよ」

「……魔法使いまで絡むとは。どんな種類の術式を?」


 魔法使いのくせに随分とせこい仕事をするものだ。


「加速をかける術式をロナルドさんにかけたらしいんですよ。

 それでロナルドさんがぶち切れて無効試合に。

 実行犯や背後にいる指示を出した人間とかを調べるのに時間がかかって再度の試合はできずじまいで」


 自分を利する術式をかけられて試合から降りるのか。

 分かるような、分からないような……。


「なるほど、その手のことは多いですもんね。今回のライドレースでも自警団は警戒していますし」

「リリィさんも引っ張り出されたりするんですか?」

「……おそらく教会が出ることはないとは思いますね。それこそ敵が魔術師で手に負えなかったり、ベインカーテンでも絡んでこない限りは」


 アマテイト教会が主に敵にしているのはベインカーテン。

 いいや、より正確に言えば死霊呪術の使い手、死の女神の信奉者たちだ。


「――ベインカーテンについては絡んでくる可能性は薄いだろうさ。

 少し前に君がやった浄化作戦、あれのおかげでここら辺の一派は壊滅状態のはずだ」


 教授室の奥からトリシャ教授が出てくる。

 最奥への扉が開いている間だけ、強烈な爆発音みたいなものが聞こえてくる。

 いったい何をやっているんだと思いながら、同時にもう1つ疑問が湧いてくる。

 ……この人は、変装しているリリィちゃんのことを既に見抜いているのか?


「……ブランテッド教授」

「なんだね? リリィ・アマテイト」

「よく、分かりますね」


 リリィちゃんの反応を見ていると事前に正体を知っていたというわけではないと分かる。

 しかしよくもまぁ、こんな一瞬で何の迷いもなく当てられるものだ。


「当たり前だ。神官の変装ひとつ見抜けないようではアカデミア教授の名折れよ」

「……トリシャ教授、奥で何やってるんですか? 凄い音、してましたけど」

「ああ、私の弟子が機械魔法の実験をしているのさ」


 あれだけの音が出る実験とやらも凄いが、扉を閉めただけで殆ど音が聞こえてこないのも凄いな。

 いったいどういう構造になっているのか。


「――しかし、クリスの出るライドレースだ。横槍が入らないように自警団には言っておくよ」

「ボクのために、あまり無茶はしないでくださいね? 教授って自警団の人ではないんでしょう?」

「まぁね、ただ知り合いも多い。こういうのは人脈がものをいうのさ」


 アカデミアの自警団と教授はまた別組織なのか。

 いまいち関係性がよく分からないな。


「ふふっ、それにしてもマスターくんは両手に華か。結構なことだ」

「お2人とも大切な常連客様ですから」

「へぇ、リリィもそうだったのかい。意外と狭いものだね、このアカデミアも」


 ……確かに。

 リリィちゃんの正体を見抜いたこともそうだけれど、そもそもリリィちゃんとブランテッド教授が知り合いだったとは。

 クリスちゃんとリリィちゃんは私の店で知り合いになっていったのだから、不思議と狭い話だ。


「全くです。まさかブランテッド教授がリリィさんと知り合いだとは」

「まぁ、アカデミアの学院生なら全員の顔を覚えているからねと言いたいところだけど、そんなことはない。

 いろいろとあってね、この娘との間には――」

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