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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2.5章
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第4話

「へー、それでどうしてうちがアカデミアに昼食を届けることになったわけ?」


 クリスちゃんがロナルドという貴族に頼まれ、ライドレースへの参加を決めたその日の夜だ。

 仕入れから戻ってきた妹のリオナに、今日あったことを私は説明していた。


「どうもそのロナルド側がクリスちゃんにレースの準備費を渡したらしくてな。

 それでどうせなら昼の休憩中にうちのご飯が食べたいということで昼食の配達を頼まれた。

 お代はこれだけ貰うことになってる」


 クリスちゃんに渡された小切手をリオナにも見せる。


「ひゅー、これは凄いね……3週間分の売上が確定しているうえに、それより少し多いんじゃない?

 ぼったくった? 兄さん」

「してないしてない。配達の手間があるだろうってクリスちゃんがこっちの提示額より多めに出してくれたんだ」


 本当にありがたい話だ。

 決して儲かっているとは言えない喫茶ライオンにとって、この売上の恩恵は計り知れない。


「もしよければリオナが配達に行ってくれないか? 学院の敷地内に練習場があるらしいんだ」

「えー、いいよ私は。この髪と瞳でしょ? アカデミアの学者に目つけられたら面倒だし」


 ……確かにリオナの青い髪と瞳は目を引く。

 アマテイト神官と真逆の色合い。学者の研究対象にされるのも厄介か。


「それに兄さんの方が、クリスさんに会いたいでしょ?」

「別に、そういうことはないよ。リオナの方が会いたいんじゃないのか? 友達なんだし」

「ふぅん? クリスさんは違ったか。じゃあ、リリィさんが好きなんだ?」


 ……こいつめ、私のことを常連客に恋する喫茶店のマスターに仕立てたいらしい。


「別に恋愛感情なんてないさ。ただ、リオナが辞退するのなら、配達は私が行く。

 店を空けている時間は頼むよ」

「了解♪ 任せておいて。でも、クリスさんがライドレースかぁ……」


 リオナの言葉ももっともだ。私も驚いた。

 クリスちゃんに騎手の経験があるなんて聞いたこともなかったから。


「グリューネバルト領での”死竜殺し”に、魔術史学に関する論文。

 それに加えてあのロナルド・ヒースガルドが直接誘いに来るほどにライドレーサーとしての実力も高いなんて。

 今までに思っていた以上に凄い人だと分かってきたね? 兄さん」


 クリスちゃんについては既知の情報に過ぎない。

 だが、リオナは知っているのか。ロナルド・ヒースガルドのことを。


「すまない。私は知らないんだ、ヒースガルドのことを」

「ああ、それで説明がふわふわしてたんだ? 今この街じゃ結構な話題なんだよ? ライドレースの全国巡業がアカデミアに来てるってこと。

 その目玉がロナルド・ヒースガルド。

 名門貴族の生まれで、天才的なライドレーサー。あの人を一目見たいって女の子、結構多いんだから」


 流石リオナだ。この街での流行を知り尽くしている。

 全く知らなかった。ライドレースのことも、ヒースガルドのことも。


「じゃあ、やっぱりアカデミアに配達に行くか? もしかしたら見れるかもしれないぞ」

「だから言ってるでしょ? 私はいいって。兄さんこそ街のこと知らなすぎだから、外を見てきなよ。

 ずっと売れない喫茶店に立ってると頭が錆びついちゃうよ?」


 辛辣だが、事実なのかもしれない。

 まさか妹に情報の量で負けるなんて、あまりにも不覚だ。


「……分かりました。外に出まーす」

「分かればよろしい♪」


 そんなこんなをしているうちに閉店後の掃除が終わる。

 しかし、クリスちゃんがこういう頼みをしてくれるというのは本当に嬉しいことだった。

 支払いが良いというのもあるけれど、それ以上にクリスちゃんに頼られるということが心地よかった。


『――お騒がせしちゃったお詫びに、3週間だけボク専属の料理人になってくれませんか?』


 いたずらに微笑みながらそんなお願いをしてくれたクリスちゃんが愛らしかった。

 一度、店を去ってロナルドと話し合った後にわざわざ頼みに来てくれたというのも本当に嬉しかった。


『マスターがこの金額で良いというのなら、ボクはこれだけ出しますよ♪』


 そう言って、こちらが提示した金額よりも多くの金額を小切手に書いてくれた。

 できればそれを受け取らないくらいのカッコつけはしたかったのだけれど、それができないくらいに喫茶ライオンの経営は火の車だった。


『それじゃあ、マスター。明日からよろしくお願いしますね。

 でも、本当に明日からでいいんですか? 準備とか大変なんじゃ』

『うん。明日からで大丈夫だよ。アカデミアの中って入っても大丈夫なのかな?』


 特別に警備員とかはいなかったはずだけれど、かといって部外者が入って良いものなのかどうかも分からなかった。


『たぶん大丈夫だと思うんですけど、一応話を通しておきますね』


 そんなこんなで明日に関してはアカデミアの入り口のひとつで待ち合わせることになったのだ。


「――どうしたの兄さん? 惚けた顔をして。クリスさんのことでも思い出してた?」


 ……まさしく、その通り過ぎて反論が遅れた。


「ふぅん? 当たりかな」

「……配達のことをね、明日の待ち合わせ場所とかさ」

「うんうん。楽しんできてね? 明日のこと」

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