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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 中編」
199/310

第8話

「――伏せろ、ロブ……ッ!!」


 聞き慣れた男の声が聞こえた。俺はとっさにそれに従っていた。

 そして俺が立っていた場所に一振りの剣が駆け抜け、触手を切り裂いていく。

 振り抜いた刃を返し、触手を切断してみせるその男は。


「ベルの兄貴……!!」

「間に合ったね、まったく無茶してるんだから」

「信じてたからな。助けに来てくれるって」


 差し伸べられた手を握り、立ち上がる。

 そこを狙うように別の触手が迫ってくるが――


「――ったく、無駄話は後にしな!」


 スッと飛び出したバネッサが、その身体を器用に使いながら、触手をその上から押さえつける。

 短剣と身軽な身体でよくそこまでやってみせるものだ。


「悪いねバネッサ」


 言いながら兄貴がバネッサの後ろから触手を斬り落とす。

 全くどういう剣捌きをしたら、あんな太い触手を切断できるのだろうか不思議だ。


『お仲間ですか? ロバート』

「ああ。俺の心強い仲間たち、スノードロップさ」

『ほう……』


 少し考え込んだリーチルが俺に耳打ちする。

 ……もう一度本体に向けて雷を落とす時間を稼いでくれと。


「――アドリアーノとクラリーチェはどこだ? 作戦を伝えたい」

「呼んだか? 船長。

 クラリーチェなら遠くの狙撃ポイントにいるからよ、俺に教えてくれればそのまま伝えるぜ」


 迫る触手の1つを殴り飛ばしながらアドリアーノが現れる。

 そして、また別の触手を魔力の塊が撃ち抜いていった。

 ……流石はクラリーチェ、一流の狙撃手だ。


「時間だ、時間を稼いでほしい。それができたら本体に雷を落とせる。

 本体が完全に焼け焦げれば、触手も止まるかもしれない」

「――了解、ロブ。頼むよ」


 俺の作戦に対し異議を唱えることもなく、3人が頷いてくれる。


『……皆さんには私が見えているんですか?』

「いいや、そういうことじゃないさ。信じてくれているんだよ、俺のことを」


 あまりにも物分かりが良い3人だからな、リーチルの疑問も当然だ。

 俺だってまさかここまで信じてくれるとは思っていなかった。

 だからこそ、答えなければならない。


「頼むぞ――」

「――じゃあ、カッコいいところ見せてやろうか」


 ガッと駆け出したアドリアーノが、まず石をぶん投げて触手たちの注意を惹きつける。

 そして複数方向から襲ってくる触手の全てを、その身体で受け止めてみせた。


『えっ……?!』

「こっちの心配はいい。雷の準備を優先してくれ」


 まぁ、リーチルの心配も当然だろう。

 あの場にいるのがアドリアーノでなければ、既に圧死させられている。

 しかし、あの場にいるのはアドリアーノ・アルジェント、マキシマがクラリーチェのために造り上げた鋼の男だ。


「流石、デカいだけのことはあるな……ッ!!」


 そう言いながら、触手の一本を力任せに引きちぎるアドリアーノ。

 そのまま返り血を拭うこともなく、他の触手へとその拳を叩き込んで穴をあけていく。

 鋼の肉体から繰り出される馬鹿みたいに強い攻撃、それが彼の得意とする戦闘方法。

 そして、それを援護するようにクラリーチェの弾丸が触手を吹き飛ばしていく。

 ……成功だ、時間稼ぎは成功する。問題は、本体が死んでから触手が独立で動くのかどうか、それだけだ。


『行けます、お仲間を触手から離れさせてください』


 リーチルの準備は整った。

 問題は触手と近接戦をやっている3人だ。


「触手から距離を取れ! 準備完了だ!」


 用意していた3本の氷の槍を落とし、3人が退却する隙を稼ぐ。

 そして、バチリバチリとあの音が聞こえて――


「そういえばロバートさ、どうやって用意した訳? この雷って」

「ああ、それについては後で説明するよ、バネッサ」


 元々漂っていた腐敗臭に加えて、焼け焦げた匂いが漂ってくる。

 そして触手たちはその動きを止めた。

 ……作戦は成功、だろうか。しかしなんだろう、あまりにもあっけないような。


『ッ――ああ、そうか。そこまで取り込んでいたのですか……ッ!!』


 リーチルの震える声が聞こえた。それで俺も理解する。

 胸に抱える嫌な予感は的中してしまうのだろうと。

 ……答え合わせのように、クラーケンの本体から薄白い光が溢れ出して、その遺体を喰らうように取り込んでいく。


「なんだ、あれは……」

『霊体です、死体になってからの時間が長すぎたんです……!』

「……霊体?」


 それが意味するところは分からなかったが、まぁ、とにかく状況が最悪なのは分かった。

 薄白い光は、クラーケンの遺体を喰らい尽くし、何かの形へと変化していく。

 

「……鎌?」


 光が揺らめき、ボロ布のように形を変えていく。

 布の奥の姿は見えないが、その中から巨大な鎌が現れる。

 クラーケンと同じような巨大さを誇る人型、それが同じ大きさの鎌を構えた。


『――伏せてッ!!』


 リーチルの叫びが聞こえ、全員が伏せる。

 その上を青白い鎌が駆け抜け、残っていた森を薙ぎ払う。

 そこまでは先ほどの触手が行っていた森の破壊と変わらない。せいぜい範囲が広くなった程度だ。

 問題は直後、薙ぎ払われた木々の全てが急速に枯れ果てていったこと。


「なんだ、これは……ッ!!」


 一撃を喰らうだけで、ああなるのか?

 たった一度の攻撃を受けるだけで、あんな風に死に絶えるのか?

 なんて、なんて悍ましい……!!


『ロバート! こうげき!!』


 ドロップに促され、降り続ける雨を操作する。

 氷を造るほどの暇はなかったが、水の弾丸を射出した。

 けれど、あの霊体に効果があるようには見えない。

 クラリーチェの弾丸も、リーチルの雷も、実体があるのかも危うい薄白いボロ布に対し何の影響を与えることもできない。


(……終わりだ、勝てない、こんなのに勝てるはずがない)


 逃げるにしても、あの巨大さ、こちらの位置を把握されていることを考えれば、逃げ切れるとも思えない。

 クソ、どうする? どうする? どうする?

 思考が回らない。逆転の手立ても、逃走の手立ても思いつかない。

 だから、これは無意識だった。俺は無意識に縋っていた。あの虹色の宝石に、クリスの姉ちゃんが託してくれた宝石に。


『っ?! いける、いけるよ、ロバート!!』


 ドロップの声がした。虹色の宝石が輝いているのが分かった。

 そして虹色の宝石に呼応するように首にかけられていたリーチルの宝石も輝いていた。


『一か八か、私も力を貸します!』


 まだ状況を飲み込めていない俺だったが、リーチルとドロップの2人が促してくれた。

 リーチルの7つの宝石と、虹色の宝石。これらが呼応しているのであれば、放てるのかもしれない。

 あの雷を超える一撃を……!


「分かった、頼む――!」


 咄嗟に兄貴たち3人よりも前に出る。

 そして、自分の力の全てを虹色の宝石に流し込んだ。

 リーチルとドロップの力と自分の力が混ざり合い、宝石に注ぎこまれていった。


「ッ――!!!」


 後のことは考えなかった。余力を残すみたいなことを考えている余裕はなかった。

 ただただ、自分の全てを虹色の宝石に捧げた。

 クリスの姉ちゃんが託してくれたものが、この土壇場で、こう反応してくれたのだ。

 この望みに賭けるしかない。ここで勝負を決さない限りは生き残れない。そう覚悟を決めていた。


「やった、のか……?」


 7色の光が混ざり合い、強烈な輝きとなって霊体を貫通する。

 眼が焼かれるような光が突き抜け、広がり、その先には何も残っていなかった。何ひとつとして。


『ええ、やりました。私たちの勝ちです! ロバート、ドロップ♪』

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