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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 中編」
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第7話

 リーチルという妖精、その力量の凄まじさを感じ取ったのは洞窟の外に出てすぐのことだった。

 降り続いている大雨が、こちらに落ちてこなかった。

 リーチルが水を操作して、俺たちの身体が濡れないようにしてみせたのだ。


「……良いのか? 体力の無駄遣いじゃ」

『いえ、逆にあなたの体温が奪われる方が後々に響きましょう』

『すなおに甘えようよ、ロバート♪』


 リーチルとドロップに頷き、クラーケンへと向かう。

 ずっと鳴り響き続けている轟音が、木々が倒されていく音が行く道を教えてくれていた。

 

『少し速度を上げましょうか』


 リーチルの声が響き、足元が軽くなるのを感じる。

 そして俺の身体は若干浮いていた。


「風の力か」

『ええ、その通りです。無駄に躓くこともないでしょう?』


 本当に素晴らしい力の持ち主だ。

 こんな繊細な力の使い方ができるなんて。


『――触手のひとつに構う必要はありません。本体を狙いましょう』


 進み続けてしばらく、触手の一本が蠢いているのが見えた。

 攻撃を仕掛けるべきかと思ったが、リーチルが止めてくれた。

 確かにそうだ。あれがイカだというのなら足の一本を倒したところであまり意味がない。


『地上にいるのも危険ですね、飛びましょう』


 腐りかけの触手がこちらに気づいている様子はない。

 ただ無作為に林をなぎ倒しているというだけだ。

 ……俺たちを追ってきたにしては随分と思惑のない動きだとは思う。

 いったいどういう意思の元に動いているのか。


「おお、本当に凄いな」

『これくらいはすぐにできるようになりますよ。風の力を手に入れれば』


 無作為な触手に巻き込まれないように宙を飛ぶ。

 そして同時に、高く飛び過ぎないように気を付ける。

 相手に視力があるのかどうかは分からないが、せっかく森の中なのだ。

 この木よりも高く飛んで姿をさらす必要はない。


「――見えてきたな」

『ええ、そうですね……幸いまだ気づかれてはいないようです』

『氷でいく? まだきづかれてないからやれるよ♪』


 降り注ぐ雨を操作し、クラーケンの頭上に氷の槍を降り注がせること。

 おそらくそれが今の俺たちがやれる最大の攻撃だ。


『あなたたちが氷で行くのなら、私は雷を使いましょう。

 最大の力で行きます。なるべく最初の一撃で決着をつけたい』

「……そうだな、あの大きさ、物量、まともに相手をするのはヤバい」


 家よりも大きなイカだ。人間の何倍かなんて考えるのもバカバカしい。

 この森のどの木よりも高い全長を見ているとそれだけでゾッとしてくる。

 あれがベインカーテンの力、サータイトの名を騙り、サータイトに敵対する俺の敵……ッ!


『じゃあ、いける? ロバート』

「ああ、もちろん。頼むぜ、ドロップ」


 首から下げる青い宝石に力を流し込む。

 ドロップと俺自身、2人の力が流れ込んで、青い宝石を触媒にして力が広がっていく。

 降り注ぐ雨を伝いながら、空中の雫を凍り付かせ、同時に空中で静止させる。


(……水を伝えば空中の水も操作できる。氷を造れるのも予想通りだが、想像以上に体力を持っていかれるな)


 体力の消耗、要求される集中力が生半可じゃない。

 けれど、準備は整いつつある。

 バチバチという音が聞こえてきたことから、リーチルの方も準備が整ってきたのだろう。


『――行けますか?』

「ああ、もちろん――」

『じゃあ、いくよ♪』


 ドロップの言葉を引き金に、空中に造り上げた氷の槍、無数の槍を解放する。

 氷は重力に導かれ、クラーケンへと降り注ぐ。それはぶ厚い皮膚を破り、肉に食い込んでいく。

 そして続けるようにリーチルの雷が走る。

 これで良い。これで、あのイカの本体は焼け焦げた。

 内部のどこまで攻撃が届いているかは分からないが、少なくとも表面は全壊、すぐに動き出せるはずはない。


「ッ――な、に……?!」


 すぐに動けるはずがない。そんな思惑が甘かったことは直後に思い知らされる。

 クラーケンの触手が無秩序に暴れ出して、こちらに襲い掛かってきたのだ。

 別に狙いを定めてきたというわけではない。8本は存在する触手が、デタラメに攻撃をしてきて、それがちょうど俺たちのいた場所にも届いてきた。

 ……回避すればよかった。ただ後ろに飛び退けばよかった。そう思った時には既に遅い。

 俺はとっさに水の盾を造って防いでしまっていた。盾をぶつけて、触手を減速させて逃れてしまったのだ。


「クソ、気付かれた……俺の失敗だ……ッ!!」

『気にしないでロバート、ひとつの間違いにこだわる必要はありません!』


 こちらの存在に気づいた触手が、複数迫ってくる。

 焼け焦げた本体から、どうやって命令を受けているのか分からないが、触手は触手で健在なのだ。

 ……本体を倒せば終わるという思惑が外れたのか、それとも倒し切れていないのか。

 どちらにせよ、最初の一撃で勝利を掴むことは出来なかった。ここからは、より困難な戦いとなる。


「ッ……!!」


 迫る触手をリーチルが爆破して防ぐ。

 炎の力を使ったのだ。本当に多彩な攻撃を繰り出してくれる。

 しかし、別方向からも触手が振り下ろされる。

 まだ風による滑空は続いているから、何とか避けられたが、キリがないぞ、これは……。


『ッ、危うい……ッ!』


 次々と迫る触手、それを爆破し続けるリーチル。

 こちらも水を操り攻撃を試みるが、戦闘の中では氷の形成もままならず、そこまでの攻撃力が出ない。

 マズい、マズい、これは押し負ける……ッ!!


「――伏せろ、ロブ……ッ!!」

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