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序文
――人は、知恵を得たことで楽園を追放されたという。
時の流れを知り、命の有限さを自覚し、
死というものを直視したとき、この世界は幕を開けた。
そう、どの世界においても時と死が、始まりだ。
命ある限り抜け出せぬ絶対的な規則、
それを自覚するに足る存在が現れたとき、世界は認識され、幕を開ける。
それは人生においても変わらない。
母という庇護者に抱かれているだけでは、
真の意味でその者の人生は始まりはしない。
他のすべてと同じように、自分自身が、
自分の知る者が、それらの命が有限であると、時が死をもたらすのだと、
そんな単純なルールを思い知るその時まで、
人生というものの幕が開けることはないのだ。
これは、そんな明快にして絶対の法則に挑んだ人間と、
かの者が求めた“彼女”の物語である――




