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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 前編」
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第6話

『みんなが揃うのって久しぶりだね?』

「だよなぁ、うちのお姫様が外に出るなんて数年ぶりだぜ」

「大げさに話さないでください。先月はバネッサのところに昼食に行きました」


 ドロップがアドリアーノとクラリーチェの間を飛び回っている。

 ……確かにこの光景を見るのは結構久しぶりだ。

 どこか懐かしく感じる。


「――しかし、ベルの奴は4人集めても”話を聞く”だけなんだろ?」

「ああ、着いてきてくれることの確約は貰ってないな」

「相変わらずせこい奴だね。人に条件を出すのなら、その見返りくらい約束すればいいのに」


 バネッサの話も分からなくはない。けれど、俺には分かっていた。

 ああ言いながらベルの兄貴は着いてきてくれる。必ず。


「まぁ、そう言うなよ。兄貴には弟も妹もいるのさ」

「……それを言ったらアンタも同じじゃないか。ロバート」


 そんな雑談の最中だった。

 ドラーツィオ家が見えてきて、木刀がぶつかる音が聞こえてきたのは。

 

「あ、みなさん。お久しぶりです。すみません、兄は今、見ての通りでして」


 エミリー・ドラーツィオ。ドラーツィオ家の長女、ベルの妹。

 確か今年で10歳になると聞いていた。


「弟たちと剣術稽古か。兄貴らしい」

「ええ、兄は優秀な剣士ですから。それで皆さまはどのようなご用事で? 全員で来られるなんて珍しいですね」

「誘いに来たのさ。君のお兄さんをな」


 ――ベルの兄貴が、弟たち3人を相手に器用に立ち回りながら、彼らの木刀を叩き落していく。

 そのあまりにも華麗な剣捌きに惚れ惚れする。


「だいぶ良くなってきたね。けど、まだ負けてあげられるほどじゃないな」

「あー、こんどは勝つからな!」

「そうだそうだ!」


 弟たちがベルにじゃれつく。本当に微笑ましい光景だ。


「――兄さん! みなさんが”誘い”に来たようですよ!」

「ロブ……みんな……そうか、集めたんだね」


 ベルの兄貴の視線が突き刺さる。

 ふん、流石にその日のうちに全員が揃うなんて思っていなかったか。


「さそいってなに?」

「アレだろ、しまのそとだよ」

「マリアのねーちゃんを追うんだ!」

「にーちゃんが、ねーちゃんをおう!」


 3人の弟たちが盛り上がっている。ベルの兄貴に”行け”と言わんばかりに。

 そんな彼らの頭を撫でるベルザリオ。本当に良い兄貴だ。


「――ごめん、みんな。ちょっと離れる。エミリー、皆を頼む」

「はい。兄さん……兄さんは兄さんの人生を歩んでください。私たちのことを重りにしなくても大丈夫ですから」

「……ありがとう、エミリー」


 エミリーを抱き寄せ、軽く頭を撫でるベルの兄貴。

 その表情を見ていると、少しだけ心が痛んだ。

 俺は、彼ら彼女らから唯一の兄を奪おうとしているのだ。そう思ってしまったから。


「――場所を変えよう。ついてきてくれるね? みんな」


 ベルの兄貴に頷き、場所を変える。

 幼なじみの5人、俺が集めた仲間が全員でそろって歩く最初の時間は、果てしない無言だった。

 そして、夕日が照らす明色に染められた海岸で、俺たちは向かい合った。


「……まずは、流石だよ。ロバート。まさか今日のうちに全員を集めるなんて思っていなかった。

 そしてバネッサ、君はやっぱり行くんだね。外に」

「当り前さ。サルーアは食い飽きてるんだ、別の魚を食ってみたい」


 バネッサの言葉に、軽い笑みで返すベルの兄貴。そして彼は続ける。


「クラリーチェ、まさか君も来るとはね」

「……まぁ、別に行かなくても良いんですけど、気になっているのは事実ですから。

 外の世界に、スカーレット王国に、どういう魔法があって、どういう機械があって、どういう先駆者がいるのか。それを知るための人生も悪くはありません」


 眼鏡の下の優しげな視線に、俺は安堵する。

 クラリーチェは本気で外に興味を持ってくれている。

 俺が強引に誘ったからとかじゃなく、彼女自身の目的があるのだと。


「アドリアーノ、君は……」

「ハッ、俺はクラリーチェの、いいや、お前ら全員の護衛役だからよ。お前らの行く道、一緒に行かない訳ないだろ?」

「……僕の、行く道は、」


 ベルザリオの瞳に、迷いが見えた。

 だから俺は口を開いた。

 これが最後だ。俺が彼を誘うのは、これで最後にする。


「なぁ、兄貴。結局のところ決めるのはアンタだ。

 マリアンナを追うにせよ、ここに残るにせよ、どっちかを選ぶしかない。

 あの人を取り戻すか、家族と共に生きていくか。……いいや、あの人を選んだところで取り戻せる保証もない。

 何を選んだって十全にはならないだろう。だから、アンタ自身が決めてくれ。でも兄貴が着いてきてくれれば、俺は嬉しい」


 俺もバネッサもクラリーチェも、外に求める夢がある。

 アドリアーノはそんな俺たちに着いて来てくれると言っている。

 ベルの兄貴だけだ。ベルの兄貴だけが”マリアンナという恋人”を取り戻すための旅になる。

 明確な成否が存在し、そして成功する保証のない賭けに出なければいけない。


「――この1年間、僕に心休まる日はなかった。ずっと気になっていた。

 外に傷つけられてここに流れ着いた彼女が、外に戻ったことが。外なんてろくな場所じゃないと言っていた彼女が、そこに戻ったことが。

 僕は一度、彼女を見捨てた身だ。愛想をつかされているかもしれない。それでも僕は、彼女の力になりたい。

 ……いいや、ただ、もう一度、会いたいんだ。マリアに、マリアンナ・ヴィアネロに」


 告げたベルの兄貴の肩を抱く。


「俺たちが、その力になる――行こうぜ、スカーレット王国に」


 今、この時をもって俺たちはひとつの仲間になった。

 まだ名前もない集まりだが、冬の島に生まれた同世代の幼なじみは今、島の外を目指す仲間となったのだ。

 俺たちの夢のため、目的のために全てが動き始めた。全てが。

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