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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第57話

「――ふふ、ニコと買い食いなんて何年ぶりだっけ?」


 街の外れ、変装したニコに焼き芋の半分を手渡す。

 2つに割った焼き芋はまるで黄金みたいに輝いていて、湯気がもくもくと上がってくる。

 凄く美味しそうだ。


「……3年くらいかしら」

「忙しかったもんね、ニコちゃん」


 私の言葉にニコが何も言い返してこない。

 いつもなら”貴女が田舎に住んでいるのが悪い”とか”こっちに出て来ればいいのに”とか言ってくるのに。


「どうしたの、ニコ? 元気、なさそうだけど」


 日陰の中、ニコレットの顔が儚げに見える。

 ケイに弟子入りしてからだいぶ元気を取り戻したと思っていたのだけれど、やはり自分の夢を断たれたことが効いているのだろうか。

 さすらい人の世界への転移が、果てしなく遠のいたことが。


「……シェリー、怒っていないの? 私のことを」


 ニコの声色がわずかに震えていた。

 ……ああ、そうか。まぁ、そうだよね。こういう責任感の強い娘だから、ニコレットは追い詰められたんだ。

 エルトくんの言ったような無茶を思いつくこともなく、自分に課せられた役割を全うしようとして胸の中の夢に引き裂かれた。


「ふふっ、だから今日は全部ニコレットに色々とご馳走してもらってるんじゃない。朝からありがとね」

「……こんなの、穴埋めにもならないわ。私は、貴女を利用しようとしたのよ」


 ジェフも言っていたな。ニコのこと、怒っていないのか?って。

 ……まぁ、確かに怒るべきなのかもしれない。あと少し何かが変わっていれば、私はここにいなかったかもしれない。

 誰かが命を落としていたかもしれない。だから、私はニコレットのことを怒るべきなのかもしれない。


「――知ってるから。ニコの立場も、夢も」


 ニコレットが私を呼んでいると聞いたとき、ニコがこうするつもりなんじゃないかと全く思わなかったと言えば嘘になる。

 信じられなかったのは、そのためにケイを殺したという話で、それを聞いたときに私は後悔したんだ。

 エルトくんの誘いに乗ったことを。ジェフを、クリスちゃんを巻き込んだことを。


「でも、今回の件で誰かが死んでいたのなら、許さなかったかもしれない。ニコのこと」

「……結果論よ。私は確かに、殺すつもりだったわ。ジェフだってクリスだって殺すつもりで、」

「嘘だね。ジェフから聞いたよ、加減されてたって。ケイからも聞いた、あの馬車の爆発は逃げるためにケイが起こしたんだって」


 ニコが意地になったのは、ケイが自爆なんてしたからじゃないかなと思うんだけど、まぁ、それは過ぎたことだ。

 結果論でも何でも、今この形に落ち着いたのだから私としてはもう思うところはない。


「ッ、それでも私はシェリーを連れていくつもりだった。あちらの世界へ、望まない場所へ」

「……ニコの夢を叶えるために」


 私は、昔から知っていた。ニコが抱える夢を。機械魔法への憧れを。

 ジェフリーのように、トリシャやケイに教えられたいのだと分かっていた。


「そうよ、私は私のために貴女を……」


 ニコの手を引く。そして彼女の身体を強く抱きしめた。

 ……夕日の眩しさが瞳に焼き付く。


「シェ、リー……?」


 震えていた、私よりも小柄なニコの身体が震えていた。

 こんな小さな身体で、あんな大それたことを願い、実行したんだ。

 凄いなぁ、ニコレットって。


「……良かった、ニコが無事で」

「え……?」

「私、怖かったんだ。ニコを見ていると、死んだお母さんみたいで」


 抱きしめたまま、彼女の黒髪を撫でる。


「シェリーの、お母さん……?」

「うん。なんか、自分の願いに憑りつかれているみたいで、願いのためならどんな危ういこともやりそうで、怖かった」

「……そう、だったと思う。私は間違いなくそうだったんだよ、だからシェリーのことも、」


 言葉に詰まるニコの背中を撫でる。

 ああ、一度冷静になってしまえばここまで自責の念を抱くような真似をやっていたんだから、本当にニコレットは追い詰められていたんだろう。

 彼女の心情を思うと胸が痛む。


「良いの、良いんだよ、ニコ。事は終わった、全てが丸く収まったんだから、気にしなくて良いんだよ。

 ニコが無事で良かった。おめでとう、機械魔法使いになれて。憧れに手が届いたんだね」


 ニコの両腕に力がこもる。こんなに強く抱きしめられるのは久しぶりだ。

 最近は、ジェフとも離れてしまっていたから。なんて思う。


「……シェリー、ごめんなさい、わたし、わたし……っ!」

「もー、泣かないの。……いいや、良いか、今日くらい」


 泣きじゃくるニコの背を撫でる。この娘のこんな姿、いったいいつぶりだろう。

 本当にニコは大人になるたびに強くなっていったから、こんな姿を見たのは久しぶりなんだ。

 こうして頼ってもらえるのは、嬉しい。私は、お姉ちゃんだから。


「……よく頑張ったね、ニコ。辛かったでしょう? 今まで」

「うん……私、ずっとしたいことは分かってたのに、何もできなくて、どうすればいいのか、分からなくて……」

「……もう、ニコは自由なんだよ。祝福する、友人として。そして、頑張ってね、ここからもきっと色んなことがあるはずだから」


 ニコレットのことだ。こと機械魔法について折れる日が来るなんて思っていない。

 けれど、それでも応援したかった。新しい夢に向かい始めた親友のことを。

 ……ああ、自分でも不思議なくらい、怒っていなかったのだ。今回のこと、ニコレットのことを。

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