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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第52話

「――ニコレット! どういうことなんだ、これは」


 ニコがビッグタートルを氷漬けにして打ち倒し、僕らも合流したころだった。

 ちょうどよくブルーノ陛下が、ニコレットの前に現れていた。

 ……都合がいい。このまま彼女をカーフィステインで雇うというところまで持っていければ。


「あら、お父様。私がこの場を収めたのですよ。首謀者のベータタイプ・ウェブドールの頭を書き換え、私の従僕としたのです」

「ッ……待て、待ってくれ、ニコ……これじゃあ、お前はもう……!」

「分かっております。追い詰められた私は機械魔法に手を染めた。もう貴族ではいられませんね――」


 あえて周囲の領兵たちにも聞こえるように話すニコレット。

 こちらとしてはもう笑ってしまいそうだ。完全に作戦が決まった。

 不可逆の情報が拡散した。どうやったところでこれを覆すことはできない。


「ニコ、お前……それがどういうことか分かって……」

「もちろん。けれど幸いなことに私には才能が有るみたいです。私を求めてくれている人が居りますの」

「な、に……?」


 ここら辺が頃合いだろう。そう思って僕はスッと一歩踏み出した。


「お久しぶりでございます。カーフィステインが次男坊、エルハルトでございます」

「……君が、ニコレットを?」

「ええ、僭越ながら我がカーフィステイン家はかねてより求めていたのです。優秀な機械魔法の使い手を」


 領兵たちがいる手前、控えているのだろうけれど、今にも掴みかかってきそうな勢いだ。

 ここが人々が多い場所でなければ、ニコレットが首謀者であることを追求しながらこちらを責め立ててきたんだろうな。

 ――残念だったね、ブルーノ・シルキーテリア。貴方の用意したこの状況、最大限に利用させてもらう。


「機械魔法使いとして、ニコレットを……」

「ええ、最高の待遇でお迎えしたい。そう考えています。我が父上も納得してくれるでしょう」


 静かにブルーノ陛下が近づいてくる。

 至近、そう言えるところまで。


(……君は、ニコレットを止めてくれたんだね?)

(ええ、彼女の”あちら側への転移”は止めましたよ)


 誰にも聞こえないように僕と陛下は言葉を交わした。


(そして君が焚きつけたのか。この状況を作り出した――)

(……こうでもしなければニコレット殿下は自殺しそうでしたからね。僭越ながら、彼女を追い詰めたのは貴方でもある)


 これ、この状況下じゃなかったら本当に危うかったな。

 3発は殴られていたと思う。冷や汗ものだ。


「――そうか。君にはニコレットを花嫁として欲しかったのだけれどね」

「ふふ、彼女には僕の花嫁になるよりもよほど素晴らしい才能があります。貴族でなくとも、必ずやこのスカーレット王国に多大なる利益をもたらすでしょう」

「はぁ……分かった。もう覆しようはないからね。ニコ、お前は今日から”魔法使い”だ……」


 ニコレットに歩み寄るブルーノ陛下。彼は静かに自分の娘の手を取った。


「……けれど忘れるな、ニコ。お前が魔法使いになろうとも、お前は私の娘だ。

 無事で良かった、ありがとう。帰ってきてくれて……」

「お父、様――」


 陛下は静かに抱きしめていた、自分の娘を。彼女もまた少しだけ抱き返していた、自らの父親を。

 ……どうやら僕は少し、陛下のことを誤解していたらしい。

 彼もまた娘を愛おしいと思う父親だったのだ。貴族である以上に父親だったのだ。


「エルハルトくん、君はニコレットを雇いたいのだな?」

「ええ、できることならば、彼女の才能を活かす場を提供したいと考えています」

「……回答は少し待ってもらう。良いな?」


 ここは頷かざるを得ないだろう。さて、どう転ぶか……


「――よう、ブルーノ。その件についてなんじゃか、ワシに考えがある」

「ケイ……なんです? 考えとは」

「ニコレットなのじゃが、ワシの弟子にしたい。このシルキーテリアにはワシの後継者が居らんじゃろう?」


 ッ――?! 冗談じゃない……!!


「なっ、待ってくれ、ドクターケイ! 先に声をかけたのは僕ですよ!」

「ふむ、それは一理あるのぉ。では、ニコレットに決めてもらうとするか」


 ――うっわ、そんなの決まってるじゃないか。こっちに来るわけがない。

 誰が好き好んでカーフィステインのような国境線に来るものか。

 自分の師となる人間がいる自分の故郷から離れるわけがない。


「……私?」

「そうじゃ、ニコレット。すまなかった、今まで。お主の願いに気づいていなかったわけではなかったのに」

「ケイ……私は、あなたの、弟子になりたい。機械魔法の全てを教えて欲しい!」


 ……やはりこうなるか。まぁ、当然の結果だ。仕方あるまい。


「えっと、ごめん、エルト……」

「謝る必要はないよ、ニコレット。ドクターケイの技術を吸収して後世に残すこと、確かにカーフィステインで戦う道具を造る以上に国益になることだと思う。

 スカーレット王国にとっての利益になるのならば、その行動はすべて正しい。君は胸を張ってくれ。そして僕の誘いを蹴っただけのことはある成果を残すんだ」

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