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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第48話

 ――あの時から始まった私の戦い。自分の人生を取り戻すための賭け。

 その答えは出た。負けたのだ、私は。もはや退路は無い。

 ここまでの事態を引き起こした。ケイの研究所に立て籠った。私は罪人になるだろう、父が手を回したとしても未来は変わらない。

 罪人としてか、貴族の花嫁としてか、どちらにせよ望まない人生を歩むしかない。私はもう、負けたんだ。


(……クリスティーナ、ウィングフィールド、か)


 あの娘がいなければ勝てていたのかもしれない。それほどまでに魔法王のアーティファクトは別格だった。

 あるいはジェフリーを殺していれば……足を撃ち抜いたのに、それを治してくるなんて、完全に甘く見ていた。

 あいつもあいつでアーティファクトを持っているなんて、考えてもいなかった。


(……殺せばよかったんだ、ケイを殺した時のように、クリスもジェフも、先に殺しておけばよかった)


 ふふっ、無理かな。そんなことは。ケイさえ殺せてなかった私なんだから。

 まぁ、どちらにせよ、これで終わりだ。私の人生を取り戻すための賭けは終わった。

 ここで負けた以上、私の人生はもう、戻って来ない。だから、終わらせる。お父様たちに私の命をくれてやるくらいなら、私の命は私のものにする。


(ああ、嬉しかったな。あのジェフリーが、私のことを認めてくれたのは――)


 飄々とした態度だけは気に入らなかったけれど、私が自分を越えたのだと言ったこと自体は嬉しかった。

 1か月足らずで用意したものだけれど、この魔法銃は私の傑作だ。これで終わるのなら、悔いはない――

 ――カチャリと金属が揺れる音を楽しみながら、私は、私の耳元に銃口を突き付けた。


「言ったはずだよ、ニコレット。君の才能、カーフィステイン家が雇わせてもらうと」


 声が聞こえて、右手に衝撃が走った。放ったはずの弾丸は、あらぬ方向に飛んで行った。

 エルトだ、あいつにやられた。あいつのパチンコが私の拳銃を撃ち抜いたのだ。

 っ……転移で拾い直せば、そう思いながらベータから預かっている端末を操作する。けれど……


「……ダメだ、ニコ。今の貴女に、私の力は使わせない……!」

「どうして?! もう終わりなのよ、私は負けたの……!」

「ッ……私は貴女の力です、貴女の望みを叶える者だ。けれど、自死なんて、認めるはずがない! でも、まだ戦うというのなら、私は……!」


 ベータがこんなに感情をむき出しにしているのは、初めて見た。

 彼女の言葉が、私の決意を鈍らせる。


「――この場で戦うことはないでしょう。そして君が死ぬこともない。

 転移装置は破壊された。僕らの戦う理由も消えた。今、考えるべきはこの先のことだ。違うかな、ニコレット」

「先なんてないわ。ないのよ、エルハルト……!」


 こちらの言葉に軽い笑みを返すエルト。その見透かしたような面構えが気に入らない。


「まるで初めて負けた後の新兵みたいだね、ニコレット。僕もかつてはそうだった。

 目の前の勝利のために全てを賭ける覚悟が必要な時はある。今の君はまさにそれだったのだろう。

 敵ではあったけれど、その覚悟だけは称えよう。君は確かに戦った。強い意志を持つ有能な人材だ」


 ……ドラゴニアとの国境線、戦いが日常であるが故なんだろう。

 妙な説得力がある。そう思ってしまう自分がいる。


「――けれどもだ、ニコレット。戦いというのは勝ちもある、負けもある。

 全てを賭けて挑んだつもりでも、命を落とさない限り次が来るんだ。勝って万歳で終われない、負けて全てを失くすわけじゃない。

 勝ちを維持するために、負けを広げないために、”これで終わりだと思った戦いの次”を考えなきゃいけない。それが僕ら貴族の、いいや、戦い始めた者すべての宿命だ」


 負けを広げないために……? 私に、どうしろというの。

 シェリーとの友情さえ賭けに出したこの私に……!


「――ニコレット・シルキーテリア、僕は君が好きだ。君の中の野心を好いている。

 たった一度の負けが何だ? 次の戦いを用意してやる。そのために僕が力を貸そう。

 君は機械魔法が禁じられているから、新天地を求めたんだろう? 新天地への道は僕らが潰した。

 けれど僕が用意しよう。君が機械魔法使いとなる道を」


 ……あの話か。私を雇うという、あの話だ。


「……ねぇ、貴方、本気で言ってるの? エルハルト」

「おいおい、僕が気休めを言っているとでも思ったかい? あの場を収めるために、君を自殺させないために、偽りの希望をぶら下げていると?

 そんなわけないだろう。カーフィステインには必要なんだよ、誰でも使える魔法が、優秀な機械魔法使いが――」


 この男とは長い付き合いだ。嘘偽りでここまで口が回る男じゃないことくらいは分かってる。分かっていたのに……。

 ああ、本当だな。全てを賭けて負けたから、全てを失くしたんだって思い込んでいた。悔しいけれど、こいつの言うとおりだ。


「……私が機械魔法使いだと大々的に知らせる」

「そうやって退路を断った後にカーフィステイン家が迎え入れる。地球へはいけないが、君にとっては次善の策だと思う」

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