表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
167/310

第46話

「……良いですよ、気の済むまで撃ってもらって」


 ニコレットとベータ、2人の抵抗は想像以上に長引いた。

 慈悲の王冠との戦力差、既に手の内を晒し切った状況、他の攻撃手段を用意するだけ余裕がないこと。

 全てにおいてもはや敗北は確定している。それなのにまだ抵抗するものだから――


「ッ――アンタさえ、アンタさえ居なければ……!」


 ボクが握り締めた銃口は、ボクの胸に向けている。最も鎧が厚い部分だ。

 冷却弾がどれだけ撃たれようとも、致命傷にはならない。


「……残念ながらそんな”もしも”はありません。

 ボクが好いたシェリーを利用した時点で、貴女の負けだ。ニコレット・シルキーテリア」


 至近距離で爆ぜる冷却弾。そのたびに鎧から強烈な熱が巻き上がる。

 防御反射だ。やはり恐ろしいくらいによく出来ている。


「ハ……ァ、ッ!」

「これ以上は貴女自身を傷つけます。降参してください。ボクだって貴女を傷つけたくはない」


 ニコレットさんの瞳を見ていると分かる。

 もう戦う力が残っていないことを。けれど戦う意思を捨てていないことを。

 彼女が抱く新天地への渇望は、生半可なものではないのだ。ベータが言っていた通りに。


(そりゃそうだよね。後の事なんか考えず、全部を賭けに出してるんだ、この人は)


 まだブルーノ陛下が温情でニコレットさんが黒幕だということは伏せているけれど、もちろん彼女はそんなことを知らないだろう。

 それに知ったところで自分の父親に大きな貸しがある状態で元鞘に戻れば、政略結婚の駒になることからは余計に逃げられなくなる。

 状況はなお悪化するんだ。彼女自身が望む道を進むチャンスは永遠に訪れない。


(……どうすればいいのかな、どうすれば彼女を納得させられるんだろうか)


 そんな方法、存在しないのだろう。この場で彼女を叩きのめして屈服させることしかできないんだ、ボクには。

 少しでも彼女を自由にしたら、またシェリーさんを捕まえて転移装置に座らせるのだから。

 ……くそ、これほどの力があってもボクにはこんなことしかできないのか!


「ッ……弾丸を変えましたか」


 ボクの全身に粘着物質が纏わりつく。トリモチって奴か、これは。

 視界が一瞬潰れて、ニコレットを見失う。

 ……なるほど、流石は機械魔法使いだ。技が多い。


「ジェフリー!」

「分かってる、姉さんは守る!」


 ――少し考え事をし過ぎたかな。なんて思いながら全身に炎を起こす。

 こんなもの、若干の足止めにしかならない。

 シェリーさんもジェフリーが近くにいれば安心だ。今のニコレットでは勝てる道理がない。


「さて、どうしましょうかね……」


 そう呟いた直後だった。転移装置が大きな音を立てたのは。

 明らかに正常な音ではない。何かが爆発したような、そんな音だ。


(……やったのか。ドクターケイが)


 転移装置から数回の爆発音が響いた。完全に使い物にならなくなったのだと素人のボクでも分かった。

 つまり、これでシェリーさんを使った転移のチャンスは失われたのだ。

 これで帰還のチャンスは遠のいた。途方もなく。


「……ニコレット、申し訳ありません。止め切れませんでした」


 ニコレットの姿は、この場にはなかった。けれどベータは呟いた。まるで、そこにいるかのように。

 そして金属が落ちる音がした。拳銃が音を立てて床に落ちた。暗闇が渦を巻いて、ニコレットはそこに立っていた。

 ……起死回生の機会をうかがっていたのだろう。けれどそれももう無意味になった。


「ニコ……終わりにしよう……?」

「シェリー……私は……」


 ジェフリーがスッとシェリーさんの前に立つ。


「終わりだ、ニコレット。転移装置は破壊された、ドクターケイの手によって」

「……分かってる。分かってるわよ、ジェフ」


 こうして訪れた結果を見ると、ドクターケイが転移装置を破壊することを決断した意味が分かる。

 ニコレットは絶対に折れなかった。転移装置があって、シェリーさんという起動の鍵になる人間がいる限りは。

 ここまでの戦いでよく分かったことだ。彼女の執念、それ自体はどこか尊敬に値するほどに凄まじいものだった。

 だからケイは壊すと決めていたのだ。ニコレットを止めるために。


「……終わりね、何もかも」


 儚げに微笑んだニコさんが、落としていた拳銃を拾い上げた。

 ――カチャリと金属が揺れる音がした。彼女がその銃口を耳元に突き付けたときに。


「ニコレット……!」


 この場にいる全員が彼女を注視した。ボクもジェフさんも反射的に走り出していた。


「やめてください、ニコレット……! 貴女に死なれたら、私は……!」

「ごめんね、ベータ……夢、叶えられなかったよ……」


 ッ……何も、何も死ぬことはないだろう?! ボクらはそう思ったから殺さなかった、君だってそうのはずだ。

 ジェフリーを殺すことだって、ボクを殺すことだって、慈悲の王冠が目覚める前ならどっちだってできた。

 毒殺だって奇襲だって、もしその気なら先手を取ってボクらを殺してからシェリーさんを奪うことだってできた。でも君は、それをしなかった。

 だから、だからこっちだって殺す気になれなかったのに、死ぬって言うのか、自分自身の手で……!!


「――言ったはずだよ、ニコレット。君の才能、カーフィステイン家が雇わせてもらうと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=801327974&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ