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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第45話

 ――爆ぜた冷却弾、その冷気に凍らされて起爆を阻まれている炸裂弾。

 それを狙った通常弾。これで撃ち抜けば、問題なく起爆するだろう。

 そして同時にニコレットに一生治らない深手を負わせることになるのだ。


「っ……うぉおおお!!!」


 2発目の引き金を引いた。まさにその瞬間だった。景色が崩れるように暗闇が広がって、そこから飛び出してきた。

 地面を転がるように人型の何かが。更に続け様に黄金の騎士が。


「クリス――!! 危ないッ!!」

「ッ、戦場のど真ん中……?!」


 よりにもよって俺とニコレットの間に飛び出してくるとは。左右からの挟撃になるぞ……ッ!


「耐えるよ、ウマタロウ!」

「ヒヒン……!」


 黄金の炎が燃え盛る。馬まで展開されている鎧が輝く。

 そして、冷却弾と炸裂弾、2つの弾丸を完全に防いでみせた。

 ……これが”慈悲の王冠”か。古の魔法王が愛用したアーティファクトなのか。


「クリス! 頼む、姉さんを助けてくれ……ッ!」

「うん、分かった! あっちか――!」


 馬を走らせ、ガラスの前に降り立つクリス。

 彼女ならばきっと俺よりも速くあれを壊してくれる。


「っ、ベータ! 無事……?」

「……私にはまだ別の身体があります。それよりもニコ、もう少しです。まもなく転移装置は起動します!」

「分かってる……止めるわ、あいつらを」


 拳銃を握り直し、立ち上がるニコレット。

 その前に俺は立ちはだかる。


「チェンジバレル・スタンガン――」

「……この期に及んで私を殺すつもりもないの? ジェフ、今あなたがどれだけ追い詰められているか自覚してる?」


 分かっている。そんなことは分かっている。

 一歩間違えればこの場にいる全員でストライダーの世界への片道旅行だ。

 けれど、なんだろうな。ここでお前を殺してスカーレット王国に留まるくらいなら、そっちの方がマシだ。


「ふん、お前なんか殺さなくたって無力化できるさ」

「気に入らないわね、その舐めた態度……!」


 駆け出して距離を詰める。それよりも速く1撃の弾丸が放たれてくる。

 直撃コースだ。これを避ければ、避けた後に追撃を喰らうのは目に見えている。

 だから――!


「……応えろ、”太陽の雫”――ッ!」


 右手に炎を起こす。太陽神の炎を。そしてそのままニコレットの冷却弾を握り締める。

 ――起爆せずとも肉に食い込んでくるか。だが、この程度ならば治せる!


「なっ……! 正気?!」

「正気も正気だぜ、ニコレット!」


 2発目を撃たせる暇は与えない。既に距離は詰めた。

 こちらの銃身はニコレットの身体に接触している。


「っぁぁあああああ!!!!」


 ニコレットの悲鳴が聞こえる。どうやらスタンガンへの対処はしていなかったらしい。

 そのまま意識を失ったところまで確認する。


「ジェフリー! こっちへ来て欲しい!」


 クリスが呼ぶ声がした。彼女の両腕に、姉さんが抱きかかえられていることを確認する。

 姉さんはかなりぐったりしていて、危うい状態なんじゃないかとさえ思わされる。


「ジェフ、君なら治せるんだろう? 怪我人を」

「……あ、ああ、だが、毒なんて治したことないぞ」


 言っている場合でもないか。やれるだけのことをやらねば。

 意識を失っている姉さんをまずは地面に横にさせる。頭を怪我しないように俺の上着を下敷きにして。

 ……脈はある。怪我の場合は、患部に掌を当ててこちらの生命力を送り込むのだけれど、そもそも患部はどこだ?


(――リリィから神官聖術、もっと教えてもらうべきだったな)


 とにかくだ。まずは心臓なんだろうな。人間の核になっているのはそこなんだから。

 姉さんの胸に掌を重ね、熱量を注ぎ込む。生命力を分け与える神官の奇跡、それと同じものを起こす。

 ……脈は強くなった。けれどまだ呼吸が浅い。となれば、喉元が患部なのだろうか。何か飲まされた……?


「……っ、けふっ、」

「姉さん! 大丈夫……?」

「……ジェフ、来て、くれたんだ……」


 意識を取り戻したシェリー姉さんを抱きしめる。

 ああ、良かった……これで俺たちの、勝ちだ……っ!


「……ありがとう。それとごめんね、無理させちゃったよね……?」

「気にするな。このツケはたっぷりとニコレットに請求してやるからさ」

「無事、なの……? ニコは」


 姉さんの問いに頷く。そして彼女の肩を抱えて、俺は立ち上がった。


「……クリスちゃん、ありがとね」

「いえ、ボクの方こそすみませんでした、守り切れなくて……」

「……謝らないで。助けてもらったのは私のほう、だから」


 ――さて、あとはここを出るだけ、か。


「おっと、シェリーさんを奪われましたか」

「残念だったね、ミハエル。決着はまたの機会にしよう」

「……僕はそれでも良いんだけど、さて、彼女らがどう言うか」


 ニヤリと微笑んだミハエルの視線の先に、ベータとニコレットが立っていた。

 ベータは、先ほどまで傍観を決め込んでいた方だ。クリスと一緒に飛び出してきた方はまだ地面を転がっている。

 修理しないとどうにもならないのだろうな。


「……逃がすと、思う?」

「やめろよ、ニコ。もう息も絶え絶えって感じじゃないか。無理はするもんじゃないぜ」


 おそらくは無傷のベータがニコを無理に目覚めさせたのだろう。

 こちらのような治癒能力は無いから、体力は消耗しきったままというわけだ。

 スタンガンの直撃を受けているのだから、身体もしばらくは自由に動かせない。


「ここで無理しないで、いつ無理をするっていうの……?」

「……照準も定められないのに、銃なんて使うな」


 俺の軽口に応えるようにベータがニコの腕を支えた。銃口をこちら側へとむけて。


「……お前だよな。お前がニコレットの野心に火をつけた」

「ええ、彼女の渇望が私を呼び覚ましたのでね」

「じゃあ、お前がいなくなればニコの野望も潰えるか」


 再び銃を構える。ベータとニコは密着している。片方だけを狙うには――


「――チェンジバレット・ホーミングレイザー」


 これで狙える。人間と機械だ。動力が違う。より魔力の少ない熱を狙うように設定すればいい。


「ッ……ベータは、やらせない!」

「なら銃を仕舞いな、ニコ。こっちはベータを確実に倒せる戦力が味方に居るんだ」


 ニコレットが息を呑むのが分かる。戦力としてはクリスがここに来てくれた時点で、こちらの勝ちなんだ。

 それほどまでに”慈悲の王冠”を扱える騎士というのは別格に強い。

 俺たちみたいな機械魔法使いでは話にならないくらいに。


「――私のことを気遣う必要はありません。ニコ、貴女は貴女の望みを果たすべきだ」

「ベータ……私は……」


 銃口を構えるニコレット。なるほど、そっちがそういうつもりならばこちらも――


「――必要ありません。ボクが、取り押さえます」

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