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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第44話

『――貴女もまたストライダーなのでしょう? こちらに着く気はありませんか? 故郷に帰りたいはずだ、貴女も』


 無限に続くようにさえ思える暗闇の中、眼前のベータに向けて槍を振り下ろす。

 彼女が用意する漆黒の壁に阻まれようとも、それごと破壊していく。

 地面を再び用意されない限り、馬に乗ったこちらの方が有利だ。


『……お前は、帰りたくないのか? あの世界に。

 そういう人間には見えないが、そうすることが当然の立場だ』


 ……今回の事件、ボクの目の前に提示された地球への帰還という可能性。

 ジェフリーさんに言われて、ベータに誘われて、否定し続けてきたそれが、幾度となく脳裏を過ぎる。

 シェリーさんを犠牲にして帰るつもりはない。そう思っているのは事実だ。

 けれど、転移装置の核を壊してしまって”帰還の可能性”が遠のく事実をボクは受け入れられているのだろうか。


(父さんがしてくれたことを、無為にしたくないから、か――)


 ――ジェフさんにはそう答えた。父さんが何かからボクを逃がしてくれたからこそボクは安易に帰るつもりはないのだと。

 けれど今、こうしていると思うのだ。ボクは戦える、ベータタイプ・ウェブドールという戦闘用の機械人形を相手に。それどころか勝てるだろう。

 相手の用意した、相手にとって有利な環境下でさえも。


(……こちら側に来たばかりのボクと、今のボクは違うんだ)


 慈悲の王冠を再び起動して実感した。

 これほどの力を持っていて倒せない敵なんて数えるほどしかいない。

 あのビルコ・ビバルディだってもしかしたら倒せるかもしれない。


(――今のボクなら、並大抵の敵なら倒せる、はずなんだ)


 ならば父さんの思惑なんて守る必要があるのだろうか。

 ボクが地球に戻って、父さんが戦っている敵と戦った方が早いんじゃないか。

 そう思わずには居られない。けれどだ、その片道の移動にシェリーさんを巻き込むわけには行かない。

 この一点において、ボクの想いは揺るがない!


「ッ――クリス、ティーナ……!!」


 放たれる弾丸を斬り払い、ウマタロウの蹄を叩き込む。

 生み出される漆黒の壁が盾となるが、やはりそれごと攻撃すれば済む話だ。

 一撃で壊せる。相手にもならない。


「諦めた方がいい。君に勝ち目はないよ、ベータ」

「ふふっ、それはどうでしょうね……」


 存外に粘るものだ。彼女が機械だからなのか、それとも本当に勝算があるのか。

 ――いいや、そういうことか。そもそもベータにとっては時間稼ぎさえ出来れば勝ちなんだ。

 先ほどジェフリーはニコレットを追って出て行ったけれど、ボクにそうさせていない時点でベータの目的は達成されているんだ。


「なるほどね、時間稼ぎか」

「そういうことです。それに、私を倒せばここから出ることはできなくなる」


 この暗闇の中に囚われ続けるということか。

 あり得そうな話だ。けれど――


「――嘘だね。ボクを閉じこめられるのなら、そもそも君たちが先制攻撃を仕掛けてくる理由がない」


 ボクら2人を閉じこめてしまえば、それだけで勝ちなんだ。

 なのにニコレットもベータも直接攻撃を仕掛けてきた。

 となれば、そうせざるを得なかったと考えるのが自然だ。

 だからまずこの空間には最低ベータがいなきゃいけないんだろうし、無限に広がっているように見えてそう距離が取れるほど自由な空間でもないんだ。


「……試してみますか? 賭けに負けたら貴女はここで一生を終えることになりますよ」

「分の悪い賭けだね。普通にここから出して欲しいんだけれど、何か条件はないのかな」

「そうですね、ニコレットたちがあっちに行った後なら出してあげますよ」


 ――ふむ、彼女はニコレットと共に地球に行かなくても良いと考えているのか。

 これは厄介だな。転移の瞬間にはベータも出るはずだという当てが外れた。


「悪いけど、それは飲めないな。遅すぎるよ――」

「……そうですか。それは残念です」


 再び宙に立つベータ。

 ――無駄話が過ぎたか。相手に時間を与えてしまった。


「ッ……いきなり連射とは、出し惜しみは無しかい」


 宙に立ち、後ろに向けて走りながら距離を離していくベータ。

 そうやって一定の距離を保ちながら弾丸を連射してくる。こちらの太陽騎士の鎧を削るような弾丸を。


「ヒヒーン!!」


 怯むボクを鼓舞するように吠えるウマタロウ。

 その力強い振る舞いに闘志が燃える。

 ――無傷では勝てないのかもしれない。

 けれど、この鎧の再生が続く限り相手との距離は詰められる。


「ああ、行こう! 正面突破だ!」

「ヒヒーン!」


 弾丸の雨に向かって真っ正面から突っ込んでいく。

 幾度か槍で切り払うけれど、焼け石に水のような気もする。

 けれど押し切れればいい。それだけでいいんだ。


「ッ、真っ正面から、ですか――!!」


 進む先、僅かばかり視界が歪む。

 嫌な予感がして、ボクは槍を構えた。


「やはり”壁”か――!」

「負けません。貴女まで通すわけにはいかない……!!」

「いいや、押し通らせてもらう! 君たちの悲願は、このボクが打ち砕く!」

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