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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第43話

「――チェンジバレル・ワイヤーガン、チェンジバレル・スタンガン」


 ミハエルの首元、素肌にワイヤーガンを撃ち込む。

 そして引き抜く暇を与えずに、スタンガンから流し込む。強烈な魔力を。

 こいつの衣服がスタンガンを防ぐ構造であることは知っている。だが、素肌までもがそうであるはずがない。


「ッ、ジェフ……リー……ッ!!」


 倒れ込んだミハエルが足を踏み外す。転移装置が掲げられた頂上から一気に滑り落ちていく。

 ……ならば、ワイヤーを回収させてもらうだけ、ッ?!


「離すわけ、ないだろ……ッ!」

「ッ、てめえの本気のツラ、初めて見た気がするぜ、ミハエル……ッ!」


 だが、これはヤバイ。ミハエルに引きずられた!

 なんとかワイヤーは回収したが、既にこちらも足を踏み外している。

 ッ……クソ、ワイヤーガンを放ち直す暇さえないとは。つくづく情けないな。


「ジェフ! 大丈夫かい……?」


 転がり落ちた俺を受け止めてくれるエルト。その左腕が凍り付いていることが分かる。

 やれやれ、お互い手負いかよ。なかなか情けないザマだな。


「――お前こそ、ニコにやられたな?」

「そういうことだ。君が降りてきてくれて助かったよ」

「こういうのは降りたとは言わねえ、落ちたって言うのさ」


 なんて言いながらエルトの腕を治し、俺の怪我も治す。全くもって”太陽の雫”さまさまだ。


「あら、相打ち? ミハエル」

「……ちょっと甘く見過ぎたかな」


 ニコレットとミハエルが並ぶ。ミハエルの奴、深手は負っていないか。

 厄介だな。そしてベータの方は2人の奥で立っているだけ。

 どうにも分からないが、戦闘には参加してこない……? 拳銃くらい回収してはいるんだろうが。


「ジェフ、もう僕らには時間がありません」


 エルトの耳打ちとほぼ同時、転移装置の立てる音が変わる。

 ……ああ、そうだ。ニコレットたちは時間さえ稼げれば勝ちなのだ。どこかそれを認識し切れていなかったような気がする。

 さて、こちらにも後がない。腕の1本や2本、奪い取る覚悟を決めなければいけないだろう。


「――チェンジバレル・ガトリング、チェンジバレット・スモークボム――」


 ケイとバトーがどこまで進んでいるのか。クリスはどう戦っているのか。

 ……いいや、他のことなど考えるな。俺たちが越えるのだ。

 俺たちがニコレットたちを乗り越えて、この転移装置から取り戻す。シェリー姉さんを。


「なるほど、そういうつもりだね?」

「俺たちの最大目的は、姉さんの奪還だ」


 銃口をミハエルとニコレットに向ける。それを”本気の殺し合い”の合図だと受け取る2人。

 それも当然だろう。だが、そんなことに興味はない。それで時間を食うつもりはないのだ。


「了解、シャープシューターズの力――」

「――見せてやろうぜ」


 ガトリングを用いてスモークボムを連射する。一瞬で相手の視界を白く染める。

 そして、そのまま俺たちは再び駆け上がる。今度こそ姉さんを奪還する!


「撃ってきたよ!」

「そうそう当たるもんかよ」


 視界は潰してる。たとえ階段だと分かっていても大まかな狙いしかつけられまい。

 それで当たる確率など皆無だ。


「ッ――なに……っ?!」


 足首に激痛が走る。倒れ込んだところで理解する。煙幕から放たれる弾丸の正確さに。

 ……ふざけやがって、位置すら変えてないだと! それでどうやって! 煙幕の中だぞ!

 そう思いながら迫り来る弾丸に対し、まず炎の右手で防ぐ。そこから――


「チェンジバレット、リード、ショット……ッ!!」


 散弾をもって撃ち落としていく。それと同時に受けた傷を治癒させていく。

 ……ヤバイな、やはり、あいつらを殺さずにこの場を切り抜けることは、できないのか。


「ジェフ、仕掛け人はあいつだよ」


 エルトの言葉、瞬間、パチンコから煙球が飛んでいく。ベータの方向に向かって。

 それ自体は撃ち落とされるものの、爆ぜた時点で視界は潰せた。

 なるほどベータがニコに位置を伝えていたということか。だからここまで正確な射撃ができた。だが、それもこれで……ッ!


「駆け上がれ、エルト!」


 ――この隙だ、恐らくあいつらは再びこの頂上へと転移してくる。

 それよりも速く姉さんを助け出さなきゃ、本当に殺すしかなくなるだろうし、そもそも相手も殺す気満々になっているはずだ。


「エルト、後ろ任せた!」

「分かった、手早く頼むよ……!」


 表面が歪んだガラス、そこに再び手を重ねる。

 そして太陽の雫をもって炎を灯す。さぁ、壊れろ、早く、早く、早く……ッ!


「――そのガラスは人智魔法で組み上げられた代物よ。並大抵の火力じゃ破れはしないわ」


 響く銃声、直後にパチンコ玉が空を裂く音がする。


「残念ながら、同じ手を2度も食わないな」

「ミハエル、ロッドフォード……ッ!」


 ガラスを溶かしながらも、後ろを振り返る。

 やはり暗闇を潜っての転移を用いてミハエルとニコレットが頂上に登ってきていた。

 ……クソ、相変わらずふざけた能力だ。もう少し時間を稼げると思ったのに。


「ふふ、悪いね。エルハルト、君に負けてやるわけにはいかない」


 一瞬のうちに距離を詰め、その盾をもってエルトを地面に抑え込むミハエル。

 クソ、やはりこうなるか……!!

 エルトの方も盾や剣を装備していれば話は変わったんだろうが、手持ちの武器がパチンコだけでは……。


「あら、よそ見している余裕、あるのかしら?」


 向けられる銃口、放たれる冷却弾。それが爆ぜるよりも先にリードショットを放つ。

 至近で爆発されるよりはよほどマシだ。しかし、多少距離があっても空気が凍り付く音はよく聞こえるし、周囲の温度は一気に下がった。

 融けかけていたガラスが凍り付いたんじゃないか、そう思うくらいだ。


「……チェンジバレット、エクスプロード」

「それは役に立たないと分かってないのかしら?」


 さて、それはどうだろうな。これは賭けだが確信があるのだ。

 太陽の雫で強化したエクスプロードを、通常弾で撃ち抜けばこの冷却弾の中でも起爆させられる。

 そういう確信がある。それが実現した場合、ほぼ確実にニコレットを殺すことになる。軽くても重傷は免れない。


「今の俺は、アマテイト神官だ」

「ハッ、そんなハッタリ……」


 ハッタリ、か。そう思いたいのもよく分かる。


「この髪の色を見ているのにそう言い切れるか? 怪我を治癒させてなきゃそもそもお前を追ってここに来れなかった」

「ッ……そんなわけ、ないじゃない。後天的に神官に成れるなんて聞いたことがない!」

「――太陽の雫というアーティファクト。それこそ俺がタンミレフトで手に入れたものだよ、ニコレット」


 さぁ、どうする。ここで乗ってくるというのなら、俺はもう覚悟を決める。

 お前を殺してでも、動きを封じて姉さんを助けることに注力する。

 ……降りろ、降りろ、降りるんだ、ニコレット!


「なんで今更そんな脅しを……やってみなさいよ、試してあげるわ、貴方の力を!」


 畜生……! 撃ちやがった、こいつ冷却弾を、撃ちやがった……!

 一瞬の躊躇いをしている暇もなかった。引き金を引いた。まずは1発目の炸裂弾。

 そして2発目を狙った、その瞬間だった――

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