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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第39話

「――貴女もまたストライダーなのでしょう? こちらに着く気はありませんか? 故郷に帰りたいはずだ、貴女も」


 ニコレットが私の核である”万能鉱石”を使って用意した暗闇の中で、私は誘いをかけていた。

 眼前の英雄、クリスティーナ・ウィングフィールドへと。

 そして同時にドクターケイが研究所地下へと潜入してきたことも理解する。また別の私が相手をしてくれている。


(いよいよ、大詰めと言ったところですね。これは)


 私たちの目的はただひとつ。転移装置を起動して地球へと帰還することだ。

 領兵たちはビッグタートル並びに他の遠隔兵器で足止めできている。長引けば突破されるだろうが、その前に転移することは容易い。

 それはケイも同じ。あの2人を相手に時間を稼ぐことは不可能ではない。

 問題は、今ニコレットが相手をしているジェフリー・サーヴォと、私の目の前にいるクリスティーナ・ウィングフィールド。この2人が最大の障害なのだ。


「……ああ、そっか。喋っちゃってたんだね。失敗したなぁ」

「ええ、ミハエル相手に言ったのでしょう? お前は日本人だと。

 それに私が開発されたということを”知らない”と答えた。貴女がストライダーでなければできない回答だ」


 なるほど、彼女は隠していたのか。自らがストライダーであることを。

 確かに隠していないのなら、ギルドと接触する際に真っ先に自分が身内であることを交渉材料にしていたはずですね。

 見たところ、そういうことに疎い少女という訳でもない。


「うん。そうだ。ボクはストライダーだ。日本で生まれ育ったのがボクだ」


 暗闇に用意した私の足場。そこから見下ろしているはずの少女に威圧される。

 その紅く輝く眼光が、私に突き刺さる。

 彼女から溢れ出ている膨大なエネルギーだけではない。それ以上に彼女は強いのだと感じる。


「ならば帰りたいはずだ。残しているのでしょう? 家族を、友を――」

「ふふっ、そうだね。何も残していないというのは無意味な嘘だよ」

「ならば私たちと手を組みましょう? 共に地球への帰還を果たすのです。私の中には地球の座標が記録されている。失敗はしない」


 数歩ばかり歩み寄る。さすらい人なんて誰も彼もが突発的にこちらに来てしまった人間ばかりだ。

 私とケイのように、ふいに起きた事故や転移時の記憶がないなんて人ばかりだ。

 だから帰還を欲する。その気持ちが、このクリスという少女の中に無いとは思えない。


「残念ながら、お断りするよ。逆にこっちから提案がしたいんだ」

「……ほう、提案ですか」


 断った上に、断る理由を追及させず”提案”をしてくるとは。

 やはり交渉ごとに強いタイプの人間だ。


「ニコレットを止めて欲しい。今すぐの転移に拘らなくたっていいはずだ。

 ドクターケイは生きているし、ジェフリーもいる。きっと、片道切符じゃない相互の転移だって可能になる」

「……そんな、夢物語を」


 何を言ってくるかと思えば、この程度の話か。

 それで済むのならば、ニコレットが私に願うものか。ここではない”別の世界”へ――彼女が私にそう望むはずがない。


「夢物語なんかじゃない。ジェフリーの才能は本物だし、ニコレットだってそれに追随するものを持っている。

 いいや、それ以上かもしれない。ニコレット・シルキーテリアの才能を信じるのならば、彼女に開発させればいいじゃないか。

 往復できる転移装置を。このままじゃボクらは転移装置を壊さなきゃいけない! シェリーさんの安全のために! それは損失だ、違うかい?」


 眼前の少女の表情を分析すると分かる。この娘、本気でこれを言っている。

 転移装置を破壊してしまうことを惜しいと考えているのだ。

 そのうえでそれを交渉材料に仕掛けてきている。


(……ニコレットはジェフリー・サーヴォと戦闘中、か)


 まぁ、それでもニコレットがクリスの誘いに応じることはないだろう。

 だって、そもそも彼女には与えられないのだから。

 機械魔法を研究し、その成果を世に発表できるチャンスなんて。それがないから彼女はこれを選んだのだから。


「貴女は知らないようだ。そもそもニコレットは、機械魔法に触れることを禁じられている。

 だから彼女は求めているのですよ、自由を。見知らぬ新天地での、自由を」

「ッ……! だからって他人を犠牲にするのか……! 自分の親友を……ッ!」


 ――ああ、もう少し交渉を重ねて時間を稼ぎたかったけれど、無理かな。これ以上は。


「もう彼女には後がないのですよ。成人を迎えた貴族が、あのニコレットが、他から求められないはずがないでしょう?

 あと1年もこちらにいたら、彼女は嫁がされることになる。それが分かっているから……ッ!」


 口火を切ってやろうか。そう思った時だった。

 クリスの方が槍を投げてきた。それも私の身体に向けてではない。

 私が用意していた足場に向けて、だ。


(こいつ、私がどうやってここに立っているか気づいたのか……ッ!)


 この暗闇は、私の空間だ。転移という技を実現するための狭間だ。

 ある程度までは自由に変えられる。床も壁も自由に作れる。明るさも変えられる。

 だから見えない床を作って宙を動いていた。騎兵相手に同じ地面で戦うのは不利だったから。


「やっぱり、落ちたか……ベータタイプ!」

「ッ、来ますか。クリス、ウィングフィールド……!」

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