表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
159/310

第38話

「……最も知りたいのは”今のお主”が地球に戻りたがる理由じゃよ。ベータ」


 それを知ったからといってどうにかなる訳ではないのだろう。

 おそらくこやつは自分の動きを変えることはない。それでも万が一にでも戦闘なくこの場を切り抜けられるのならば、それ以上はない。

 そして何よりも本当に気になるのだ。65年も過ぎた今になって向こうに戻ったところで、こやつは何をするつもりなのだろうと。


「お互い闇の中で生まれた身、戻ったところで居場所がないのは確かですね」

「そうじゃ。ボックスシップなど残っておらんじゃろうて」

「貴方の雇い主も死んでいるでしょう」


 冗談を交わすように笑い合う。そう、ワシらはお互いに時代に取り残された遺物に過ぎない。

 今さらあちらに戻ったところで何の身分もない、何の身寄りもない。


「ワシは、若きストライダーを返してやりたいだけじゃ。自分自身の帰還に興味はない」

「あら、相変わらずのお人好しですね。別に私だってボックスシップへの義理立てなんて考えている訳じゃありませんが」

「ほう? では何故?」


 てっきり、帰還するようにプログラムされているから帰還するだけだと思っていた。

 前回、こちらに降り立ったばかりのベータを封印した時の戦いでは、より強く帰還への願望を訴えていたしな。

 ”お前も私も帰れる、文句がありますか?”と言われていたのを覚えている。


「――今のマスターが望んでいるから」

「ニコレットが……」


 こちらの確認に頷くベータ。


「彼女の渇望は本当に鮮烈です、たったひとりの人間が抱えているものとは思えないくらいに。

 ニコレットが私を呼び覚ましてくれた。ケイ、貴方の用意した封印を越えて」


 ……ベータタイプ・ウェブドールというのは、万能鉱石を核にしている。

 だからこそ、それを起動させられる人間がいない限りエネルギーが切れて動けなくなる。

 そういう状態にして半世紀も経っていたものだから、どこかで油断していた。もう二度と目覚めることはないのだと。


「ニコレットが向こうに行きたがっているから、それを叶えるだけじゃと?」

「そういうことになります。だからここに1つ私を置いていました。必ず来ると思っていたから。

 表のジェフリーとクリスは陽動、本命は貴方。違いますか?」


 さて、どうじゃろうか。あの2人が陽動程度で収まる器じゃろうか。


「どっちが本命じゃろうかね……なぁ、ベータよ。お主、あちら側のことについてどこまで教えた? ニコレットにどう教えた?」

「ふふっ、あちらにある科学技術については知る限りを教えました。彼女は本当に呑み込みが早かった。人間の学習能力は素晴らしいですね」


 ニコレットが喜びそうな話ばかり、か。


「自分の出自は? ワシの出自は? あの世界が楽園でないとは教えたかね?」

「もちろん。けれど私とニコでなら生きていける場所だとは言いました」


 ――これまた絶妙に嘘ではない話をしているものだ。

 確かにニコレットとベータが揃っていれば、あの世界でも生きていけるじゃろう。

 65年を経たあの世界がどうなっているかは知らないが。


「ふむ、正直なところを言おう。お主とニコレットが地球に行くだけならば、ワシは止めるつもりはないのじゃ」

「ほう? じゃあ、貴方も来ますか? 死ぬ時くらい地球の土に帰っても良いでしょう」


 まさか。ワシはこの大地に眠る。ついぞ家族というものを得ることはなかったが、弟子には恵まれた。

 それに最初に自分の意思で忠誠を誓ったあの方が眠るこの世界で死ぬのだ。そのことに何の迷いもない。


「――今のワシは、シルキーテリアの人間、アマテイト様の信徒じゃよ」

「そう。だから邪魔をすると? 私とニコレットの道を、邪魔するんですね」

「違うな、ワシがお主らの邪魔をするのはひとえにシェリーを犠牲にする道だからじゃ」


 そこまで言い切ったところで、拳銃を抜いていた。

 ワシもベータも、そしてバトーも。

 ……そうか、ここにある身体は戦闘機能が薄いものか。戦闘用は別に回したな。妥当な判断じゃ。


「――やめておけ、ベータ。ワシらは2人、お主は1人。勝ち目はない」

「あら、そうと言い切れますか? ここにいる私は予備に過ぎないと分かっているはず」

「それでも他からここに回せるほどのスペアは無かろう?」


 ワシかバトー、どちらかを殺したとして、その間に残りが眼前のベータを倒す。

 増援を呼べるほどの余裕があれば、ワシらは背後からやられるじゃろうが、それほどの戦力があるはずはない。


「そうでしょうか? 私たちにはミハエルもカーフィステインもいます」

「それを呼んでいたら、ジェフ達は防げまい?」

「なら、賭けてみましょうか。私はどちらに転ぼうが構いませんが――」


 この余裕の態度、増援が呼べるからという訳ではないじゃろうな。

 おそらくはジェフ達を退けながらも、転移装置を起動し、地球へと逃げ出す算段があるのだ。

 だからワシたちの前でこれほどの余裕を見せている。つまり眼前のベータの目的は、時間稼ぎだけだ。


「――やれやれ、初心に帰った気分だよ。また君と戦うことになろうとは」

「それは私を破壊しなかった貴方のミスです。まぁ、その分いい思いしたのです、せいぜいそのツケを払っていただきましょう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=801327974&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ