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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第35話

「なんだ、ここは……」


 ビッグタートルという防壁を乗り越えて、ドクターケイの研究所へと突入したボクらを待ち受けていたのは、一寸先の闇だった。

 どこまで続いているのかも分からない、無限の暗闇。

 明らかにまともじゃなかったけれど、ジェフリーの呟きでドクターケイの研究所は元々がこういう構造なのだという可能性もなくなった。


「いったいどこまで続いているんですか、こんなに広いなんて聞いてない……」

「俺も知らねえ、どういう芸当だよ、こいつは……」


 チェンジバレット・フラッシュバン。そう呟いたジェフさんが閃光弾を放つ。

 強烈な光に目が眩まないように、逸らしてから見つめた先、1人の人影が立っていた。

 漆黒の長髪を湛えた女性が立っていた。


「……ニコ、レット」


 次の瞬間だ、この暗闇が若干薄くなった。

 何も見えないほどの闇ではなく、周囲が見えるようになった。

 それでもまだ果ては見えない。ただ、ボクらの先に立つのが誰なのかはハッキリと分かるようになった。


「来たわね、ジェフリー。そしてクリスティーナ」


 ――ニコレット・シルキーテリア、この事件の首謀者。

 シェリーさんを奪い、地球への転移を目論む貴族令嬢。彼女がそこに立っていた。


「よう、ニコ。返してもらうぜ、姉さんを」

「残念だけどそれはできない。私は行くのよ、あちら側の世界へ」


 そうかい――たったそれだけ告げたジェフリーが引き金を引いた。

 炸裂弾を放った。それを前にニコレットは1発の弾丸を放った。

 瞬間、空気が音を立てて凍り付く。ジェフリーのエクスプロードは爆ぜる前に無力化された。


「……冷却弾、だと?」

「ご名答、発明が貴方の専売特許だとでも思った? ジェフリー!」


 放たれる弾丸、ジェフリーを狙ったそれを庇うようにボクは前に出る。

 相手の力は冷却、それもジェフの弾丸を無力化するほどの力だ。

 だからボクが前に出る。ニコレットの弾丸を斬り払う。この太陽の力で。


「チッ、邪魔をしてくれるわね、旧世代の遺物が……ッ!」

「チェンジバレット・ホーミングレイザー!」

 

 間髪入れずに追尾弾を放つジェフ。けれどニコレットは動じない。

 ただ静かに何かひとつの球体を放り投げ、自分の近くで爆発させる。

 そしてそこから散らばった金属片に阻まれ、ホーミングレイザーはその力を失った。


「ッ……てめえ、完全に対策してきたな。よくこの短時間で」

「ふふっ、当たり前じゃない。私ね、ずっと越えたかったのよ、あなたのことを」


 地面を滑るように走り出すニコレット、同時に2丁の拳銃を引き抜く。

 何か仕掛けのある靴を使っているらしく、その速度は生身の人間のそれじゃない。

 けれど、敵は1人だ。こちらは2人、勝てない戦いではない。


「――おっと、流石ですね。これを防がれるとは」


 首筋に放たれた一撃、咄嗟の判断だった。何か嫌な予感がした。

 だから防いでいた。ボクの黒槍で、ベータの放った一撃を防いでいたんだ。


「衣装持ちだね、さっきとは腕が違うか……」

「――ええ、先ほどは潜入用のボディでしたがッ!」


 デタラメな軌道で放たれる右足、つくづく人間離れした構造だ。それに威力が桁違いに上がっている。

 ……なるほど、1対1に持ち込んで確実に倒すつもりという訳か。

 良いだろう、相手をしてやろうじゃないか。ベータタイプ・ウェブドール!


「ウマタロウ! 久しぶりの実戦だ、行けるね?」

「ヒヒンヒンヒン」


 今さら何言ってやがるとでも言いたげに笑うウマタロウ。

 ふふっ、相変わらず心強い子だ。


「一度ばかり私を追い詰めたくらいで、勝てるとは思わないことだ――」


 暗闇の中、その宙に立ったベータが銃口をこちらに向けてくる。

 左腕が変形したガトリング砲、それ自体は先ほどの戦闘でも同じものを見たから驚きはない。

 けれど、問題なのはその威力だ。かなり強化されていて、数秒ばかり砲火を喰らったら、鎧をぶち抜かれるぞ、これ。


「……なるほど、戦闘用の身体ってことかい」


 放たれる弾丸を斬り払っていく。同時にウマタロウを動かす。

 とにかく止まらないことだ。どういう原理かは知らないが、ベータは宙を歩いている。

 こちらよりも若干高い空中を闊歩している。今はどうやって上への攻撃をするかを考えつつ、とにかく止まらない。

 あの弾丸の雨を喰らったら負けだ。


「ッ、なぁ、ベータ! 君が65年前に開発されてたって本当かい?」


 突破口が見えなかった。だから少しばかり会話を仕掛けてみた。

 単なる時間稼ぎだ。相手は乗ってくるだろうか。


「ええ、当時は最高機密でしたが、貴女の代でも知っている者はいなさそうですね。

 やはり歴史の影に埋もれて消えましたか」


 言葉を紡ぎながらも追撃を続けるベータ。けれども、連射の速度は若干緩んだ。

 こちらの作戦が通じたのか、それとも残段数を意識してか。どちらにせよ、相手の攻撃は無限ではない。


「ああ、少なくともベータタイプなんて名前、聞いたことがない。いったいどこが開発していたのかな?」

「ふふっ、それは機密事項です。回答することができません。今さら役に立つ禁則でもないと思いますが、破れないように造られているのであしからず」


 まぁ、それもそうか。65年も経っているのだからもう時効のような気もするけれど、そう造られている以上破れないか。

 つくづく機械なんだと感じる。けれど、これほどのものがそんな昔に造られていたなんて、どうやらボクはボクの世界の歴史すらまともに知らなかったらしい。


「では、こちらからも質問良いですか? クリスティーナ」

「なんだい? バンバン撃ちまくりながら聞きたいことって!」

「――貴女もまたストライダーなのでしょう? こちらに着く気はありませんか? 故郷に帰りたいはずだ、貴女も」

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