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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第31話

「――ベータの正体、いったいいつ誰から聞いたのでしょう? 昔から知っていたのですか? それとも」


 この質問にどう答えるかで話が変わってくる。

 ニコレット・シルキーテリアは言っていた。両親や兄弟は機械魔法に詳しくないから全権を任されたと。その話が変わる。

 そして仮に、昔から知っていたというのならば何故ベータが侍女をやることを許していたのか。ここは確認しなければいけない。


「……ケイが、何かしらの技術の塊を握っていることは昔から知っていた」


 一瞬、場の空気に静寂が訪れる。何かしらの質問を投げかけようかと思ったが、それは出来なかった。

 ブルーノという重鎮の纏う空気がそれを許さなかった。


「彼の機械魔法の根源が機械人形であること、その名がベータタイプ・ウェブドールであること、そしてそれが我がニコレットに取り入っていること。

 全てを知ったのは、つい先ほどのことだ。我が領地に戻ってきたばかりのことだ」


 やはり、そうなのか。知っているとは思っていなかった。知っているのならそもそもベータと近づいたニコを重用したりはしない。

 けれど誰だ。ギルド側におけるケイの側近であったバトー・ストレングスでさえ知らなかったことをブルーノ陛下に伝えたのは、いったい。


「誰から聞いたのですか? どうやって知ったのです……?」

「――ドクターケイ、私が抱える魔術師。彼本人から聞いたのだ」


 ッ――?! どういうことだ、ドクターケイが生きていると……?


「生きている……? ケイが……?」

「ああ、そうだよ、ジェフ。考えてもみたまえ、あれは前回の人竜戦争を生き抜いた怪物だぞ。殺したって死ぬものか」


 ブルーノ陛下の回答に乾いた笑みを零すジェフリー。


「……なるほどな。死んだふりでもして逃げたって訳かよ」

「そうだ。ベータとニコに襲われたケイは、自らの身体が燃えたように見せかけて逃げ延びていたのだ。

 彼の身柄はアマテイト教会に保護されている。だから私にその報せが伝えられた」


 ……ふむ、見せかけの死亡か。だから”身体が燃え尽きた”なんて無茶な状況になったんだ。

 しかもそれを伝えたのが実行犯のニコレットだから情報が歪んで、こちらの推測が立てられなかった。


「陛下。ケイはこの事態、どう収束させるつもりなんでしょう?」

「そういう君はどう考えている? ストライダーズ・ギルドの人間として」


 交差するバトーさんとブルーノ陛下の視線。張り詰めた空気にゾクリとした感覚が走る。


「……恥ずかしながら、身内の中に抜け駆けを企む者が出てくることは予想していました。

 だからこそ、その者への処罰を徹底するしかないと。ですが陛下、まさかシルキーテリア家のご令嬢がこう動くとなると」

「言いたいことは分かる。引き締めも何もできないと言いたいのだろう?」


 ストライダーズ・ギルド内部の規律、数人の帰還のために全員が帰還できる可能性を摘んでしまうこと。

 シェリー・サーヴォという現状唯一の鍵を連れてあちら側へと行ってしまうこと。

 それはギルド全体としては封じたい動きなんだ。だからバトーという男の人がこう考えていることは自然なことだ。

 ましてや、咄嗟にジェフリーを庇うくらいのお人好しならば信頼に足るのだろう。


「――ケイは”転移装置”の核を破壊するつもりだ。万能鉱石を壊す」

「ッ……?! それでは我々の帰還が……!!」


 ……転移装置の破壊か。これまた大胆な一手を打つつもりみたいだな。

 バトーさんの愕然とした表情も当然だろう。

 ボクとしても、そこまで覚悟を決めているとなると肝が冷える。 


「……あちら側への帰還は、ケイの悲願だ。

 彼はよく”もう自分が帰っても仕方がない”と言ってはいたが、胸の底からそう言っているとは思ってはいない。

 特に、しばらく昔のケイのことを思い出すとそうだった」


 ならば……!と一歩踏み出すバトー・ストレングス。

 彼の前に領兵が立ちはだかり、ブルーノ陛下は静かに彼らを制した。


「……私は”さすらい人”ではない。真の意味で君たちの悲願を理解しているとは言えないだろう。

 だが、私の恩師がその悲願にかける思いを知らない訳ではない。そして他ならぬ彼の考えなんだよ。

 ドクターケイは”転移装置”を、自らの最後の研究を、破壊するつもりなんだ」


 シェリーさんに危険が及ばないように、全てをご破算にするか。

 なんて、なんて覚悟を……


「ッ……! 待て、待ってくれ……! あれは唯一の希望なんだ、あれ無しで帰れるものか、私たちが……ッ!」


 ……バトーさんの叫びが胸に刺さる。

 ボクとしては、シェリーさんを守りたいボクやジェフリーとしては、ドクターケイの考えは歓迎すべきものだ。

 シェリーさんが狙われる原因である転移装置さえ破壊できたのならば、彼女が狙われることはもうないのだから。


「――陛下、ケイに会いたい。あいつと話さないと何も決まらない」

「そう来ると思っていた。最寄りの教会に彼は居る。今、君たちが行けば教会の人間が通してくれる手筈になっている」


 ……ジェフリーさんはどう考えているのだろう。

 転移装置を破壊することを、どう考えて。


「……分かった。それと、領軍はどう動くつもりだ? ケイや俺たちの動きとは別に、ニコレットをあちら側へ行かせるつもりはないはずだ」

「領軍をもってドクターケイの研究所を制圧する。転移装置を押さえてしまえばニコレットを失うことはない」

「表向きはベータが黒幕、ニコは被害者で落ち着けるか」


 そう告げるジェフリー・サーヴォの表情は読めなかった。

 完全に表情が動いていなくて、何を考えているのか全く分からなかった。


「そういうことになる。手早く済ませてくれ、敵は機械魔法使いたちだ、君たちの戦力は欲しい」

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