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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第29話

「……これが”死竜殺し”というわけね」


 ニコレットが吐き捨てるように呟く。

 ほう、ボクに脅しはかけてこないのか。賢明な判断だ。

 ボクはニコレットの言葉をブラフだと認識しているのだから。


「ッ――! 先ほどまでとは別人ですか……ッ?!」

「機械のくせに”驚け”るんだね。よくできている」


 放たれる弾丸を黒槍を持って斬り払う。

 払う必要もないのだろうけど、鎧に直に攻撃を受け続けるのも癪だ。


「――アクティベート、ビッグナックル」


 ミハエル・ロッドフォードの声が響く。

 瞬間、右腕を覆うように巨大な拳が形成された。

 機械魔法というのは、ここまでやれるのか。とんでもない技術力だ。


「それが魔法時代のアーティファクトですか」


 加速の直後、こちらに巨大な拳を直撃させてくるミハエル。

 なるほど、今までの弾丸のように無意味というわけにはいかないらしい。

 少なくともボクの動きは止められてしまった。


「そういう君のは機械魔法かな――」

「――ええ、あちらの技術も混ざってはいますがね」


 あちらの右腕を殴り返し、よろけさせる。

 このまま彼の身体側を狙えば勝てるんだろうな。

 けれど、この鎧だ。加減を間違えば容易に殺してしまうぞ。


「ねぇ、君さ。日本人だろう――?」

「……それが分かるとは。同郷ですか、貴女も」

「なんでミハエルなんて名乗ってる?」


 こちらが加減してやった隙を突いて再び放たれる右腕、それを左の拳で押し返す。

 ……右腕だけこの慈悲の王冠に追いついている程度の力か。実力差は把握した。


「――そりゃスカーレット王国では浮きますからね、僕の本名」

「もっともらしい理由だね」


 それだけか? ストライダーズ・ギルドという組織に身をおいておきながら、名前だけ王国風にする意味があるのだろうか。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。ここまでの時間で”加減”は分かったのだから。


「ッ……なに――ッ?!」


 右腕をつかみ取り、両足を払いのける。

 そして地面に叩きつけ、機械仕掛けの右腕・ビッグナックルだけを焼き払う。


「冗談、でしょう……?」


 こちらの炎によって崩壊したビッグナックルから引き抜かれる無傷の右腕を見て、おののくミハエル。


「実力差は理解したね――」


 別に腕の1本くらいもぎ落としてやってもよかった。

 けれどまぁ、そこまでやることもないだろうと思ってしまったんだ。


「――さて、ニコレット、ベータ。覚悟は良いかな」


 ニコレットの前に立つベータタイプ。

 殊勝な心がけだ。流石は従者ということか。


「マスター、前回と同じように。大丈夫、貴女には才能がある」

「うん……頼むわ、ベータ」


 ――なんだ? 何か分からないけれど嫌な予感がする。

 そう思った時には既にベータは至近まで迫っていた。

 右腕に刃、左腕をガトリングへと変形させ、こちらに迫っていた。


「ッ――!」


 弾丸の方は大して効果はなかった。ダメージらしいダメージは通らなかった。

 けれど、危うかったのは刃だ。首元を狙われた。僅かばかり、皮膚が裂けるのを感じた。

 王冠の力ですぐに治癒したけれど、あと僅かに反応が遅れていたら命取りだった。


「やはり、無敵の鎧など存在しないようですね――?」


 クルリと動く機械人形が笑う。

 ――既に決した勝負だと思っていたけれど、これは思っていた以上に骨が折れそうだ。


「無敵じゃなくたって、負けないさ。お前には――」


 弾丸を切り払いながら、距離を詰める。

 そしてそのままの勢いで刺突を放つ。簡単に胴体を貫けるはずだった。けれど、避けられた。

 90度よりも深く曲がったんだ。彼女の背中が。こちらの槍が届く場所には何もなかった。


「ッ……!」

「この程度で驚いてもらっては困りますね――」


 地面を這うように動き出すベータ、その全身がボクの身体に絡みつく。

 ――クソッ、こいつ、どういう構造をしているんだ!


「……取りました」


 見下ろすように笑うベータ。実際ボクは地面に叩きつけられた。

 慈悲の王冠というアーティファクトがありながら、機械の産物に地を舐めさせられたのだ。


「勝った、つもりかい……?」


 馬乗りになったベータがボクの首を掴む。

 そして、流れ込んでくる電流に激痛が走る。


「勝ちましたね。これで終わりですよ、クリスティーナ・ウィングフィールド」


 痛みを感じるほどに心臓のあたりに渦巻く炎を感じる。

 慈悲の王冠から流れ込む力とボク自身の力が呼応していくのが分かる。

 これが、魔術師の感覚なんだろうか。そんな事を思いながら、ボクはベータの両腕を掴んだ。


「ッ……!」

「君の負けだ、ベータタイプ・ウェブドール」


 全身にたぎる炎、その一端を解放する。

 瞬間、ベータの両腕が砕けたのが分かる。

 しかし、それゆえにベータは自由になった――逃がすか、トドメを刺してやる!


「ベータ、こっちへ――ッ!!」


 逃げ出したベータ、それを追おうとしたボクに対し、ニコレットが弾丸を放ってくる。

 それも普通の弾丸じゃない。かなり濃い煙幕が広がり始めた。


(なんて古典的な……!)


 けれど効果的だ。こちらの眼は、完全に潰された。

 追う手立てがない!


「――チェンジバレット・ホーミングレイザー!」


 煙幕の向こう側へ、ジェフさんが弾丸を放つ。

 3つばかりの光がうねり、何かを狙うように動いていく。

 そして何かに当たったような音がした。けれど……


「誰も、いないだと……」


 ジェフリーさんが吐き捨てるように呟く。

 煙幕を張った。逃げるための一手なのだろう。

 そこまでは分かっていた。けれど、実際に煙の向こう、5人もの人間が姿を消していた。その異様さは尋常じゃなかった。


「隠し扉も、地下通路もない、ですね……」


 王冠による鎧が解除されていくのを感じながら、ボクは周囲を探った。

 けれど収穫はなかった。何の痕跡もなく忽然と姿を消していたのだ。


「ッ……どういうカラクリかは知らないが、完全にしてやられたみたいだな。俺たちは」

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