表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
147/310

第26話

「もしも君が”あちら側”に行ってしまった姉を取り戻すためなら、5年もかけないはずだ。そうだろう? ジェフリー」


 ミハエルが銃を抜いた。

 それもかなり改造を施された機械魔法の産物を引き抜いた。


「ッ、ミハエル、てめえ……ッ!」


 こちらも銃を引き抜きはする。けれど敵の銃口は4つ。

 すでにこの場にいる全ての人間に対して向けられている。

 交渉相手である俺とニコはもちろん、調停役のエルト、そしてあろうことか味方であるはずのバトーにまでも。


「……なんのつもりだ、ミハエル」

「察しが悪いですね、バトー。あなたの言う”急進派”というのは僕のことなんですよ」


 ミハエルとバトー、両者の瞳がせめぎ合う。

 しかし、だからといってこちらが何かしらの攻撃を仕掛けるほどの隙はない。

 流石はミハエル・ロッドフォード、やはり実力者だ。


「――お前が、殺したのか。ケイを」

「いいえ、実行犯は僕ではない。しかしその仲間であることは認めよう」


 ミハエルの顔を見つめ、バトーもまた拳銃を引き抜く。

 これで3者が武器を見せたことになる。

 だというのに撃ち合いに発展しないのは、ここにいる全員が顔見知りであるから故なのだろう。


「ッ、何のために、ケイを殺した!!」


 バトーの怒りを見ていると、本当に彼は”急進派”でなかったことが分かる。

 演技でこれが出来るほどバトーというのは達者な人間ではないはずだ。


「彼に協力を取り付けるはずだったんですよ。そのための脅しを仕掛けた。だが、抵抗されてしまった」

「だから、殺したのか? 唯一無二の才能を……我々があの人からどれだけの恩義を受けてきたと思っている!」

「だが、結局はシェリー1人のために帰還計画を凍結した男に過ぎない――」


 ミハエルの言葉、いいや、声色から怒りを感じなかった。

 そもそもこの男から強烈な帰還への願望を聞いたことがないのだ、今の今まで。

 

「なぁ、ミハエル。お前、シェリーがあっちに行ったら俺はもっと早く転移装置を開発するはずだって言ったよな?」

「そうだよ、ジェフリー。5年もかけるのは君にとってあちら側への移動が”他人事”だからだろう?」

「そういうお前はどうなんだ? 自分自身の帰還が問題なら、俺が何年でシェリーなしの帰還装置を完成させるかなんて気にする意味がない。違うか?」


 こちらの問いに口元を釣り上げるミハエル。

 その表情の意図は、読めない。


「君が死に物狂いで転移装置を開発してくれれば、それこそが残るストライダーたちの希望となる。

 僕自身はシェリーと共に帰らせてもらうが、その穴埋めにはなるだろうさ」


 こちらに残ってしまった身内のため、か。

 もっともらしい理由だ。


「ならば尚のことシェリーは残すべきだ。彼女がいれば、転移装置の動力問題はなくなる」

「けれど君は彼女を使わないだろう? 知っているよ、君はそういう男だと」


 やはり見抜かれているか。こいつには俺の在り方を知られすぎている。

 下手なハッタリは通用しないと考えるべきだろう。


「――ニコレット、シェリーはここにいるんだろう? 連れてきてもらおうか」

「馬鹿なことを言わないで。誰があなたの言う事なんて――」


 ニコが、そこまで言った時だ。

 ミハエルの弾丸が、バトーの拳銃を撃ち抜いていた。


「次は、脅しでは済まないよ」


 歯噛みをするニコ、それはこちらも同じ事だ。

 こいつ、拳銃だけを撃ち抜きやがった。狡猾な脅しだ。

 実力で上回っているのだから、命を奪わずとも済むと宣言している。

 だからこそ、下手な抵抗をすれば――


「……私に友を売れと言うの? 一番の親友を!」

「選択肢はない。その親友の弟を見殺しにはしたくないだろう?」


 こちらを舐めるように見つめてくるミハエル。


「やってみろよ、ミハエル。てめえの脳天に穴あけてやるからよ」


 もはやいつ銃撃戦が始まってもおかしくはない。

 そんな緊張感のなかで俺は左手で触れる。”太陽の雫”に。

 ミハエルの用意した機械魔法は相当手の込んだ代物だ。この切り札、使わなければ切り抜けられないかもしれない。


「――待ちなさい、ミハエル」

「おい、ニコレット……ッ!」


 先に折れてくれるなよ、ニコレット……ッ!

 そんな祈りを胸の中で唱えたときだった。

 2階のカーテンを突き破り、2人の人間が飛び降りてきたのは。


(クリス……?!)


 なんだ、どうしてクリスが、シェリーを抱えて降りてくる?

 それになんだ、この異様なまでに器用な槍捌きは。

 なぜ姉さんを抱えながら無傷で着地できるんだ、こいつは。


「――作戦は失敗かい。ベータ」


 ミハエルが吐き捨てた先、2階のカーテンの向こう側、あいつが立っていた。

 シルキーテリア家の侍女であるベータが立っていた。


「いいえ、ここからが本番です。”役者が揃った”というべきかと」


 彼女もまたこの応接室に飛び降りて、涼しげに答える。

 その胸部を見て、背筋が冷える。

 なんなんだ、これは。金属じゃないか。人間じゃ、ないのか……?


「なるほど。では、始めようか。幸い、僕らの目当てもそこにいる――」


 そう、ミハエルが見つめた。シェリー姉さんを、クリスが抱える姉さんを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=801327974&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ