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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第25話

「抵抗はしないほうが良い。こちらにあなたたちを傷つける意図はない。下手な抵抗はケイと同じ末路を招きます――」


 侍女の衣服、メイド服に包まれていたベータの右腕が変わる。

 一振りの刃へと変貌していく。


「ッ……ドクターケイを殺したのは、お前だったのか! ベータッ!!」


 こちらの言葉に口元を釣り上げるベータ。

 その表情がどこか”人形”に見えた。

 ……そもそも、あの右腕はなんだ? 機械魔法の産物か? それとも。


「構えを解きなさい。貴女に勝ち目はない。クリスティーナ・ウィングフィールド」


 振り上げられた右腕の刃を前に槍を引き抜く。

 けれど、そもそも部屋が狭すぎた。

 そのすべてを引き抜くことはできず、半端に槍を引き出して刃を防ぐことしかできなかった。


「……ボクは、死竜殺しだぞ」

「フフッ、ならばその力、見せてもらいましょうか」


 ぶつかり合った槍と刃、その拮抗状態を崩すようにベータの右足が放たれる。

 槍を引き戻しながら、身を下げてその足を回避する。


「素晴らしい身体能力ですね。でも、どこまで続きます――?」


 放たれる足技と斬撃、その全てを間一髪のところで避けていく。

 クソッ、慈悲の王冠さえ起動できれば避ける必要なんてないのに……ッ!


「ほら、もう、後がないですよ?」


 シェリーさんを後ろに、ボクは完全に追いつめられた。

 あと少しでも後退すれば、ボクらは落ちることになるだろう。

 先ほどまで見つめていた応接室に。ミハエル・ロッドフォードが支配する空間に。


「――それは、どうかな?」


 余裕の表情を見せながら、こちらに最後の攻撃を仕掛けてきたベータ。

 その動きよりも一瞬だけ速くボクは構えた。ジェフリーから預けられていた魔法銃を。


「ッ――?!」


 そのまま躊躇無くベータの胸元に向けて3発、銃弾を放つ。

 弾丸を受けた彼女の身体が吹き飛び、地面を転がる。

 ――勝った? 殺した……? ボクは、人間を――ッ!!


「フフ、その表情、貴女は戦士に向いていない――」


 地面に転がっていたベータの身体が、独りでに立ち上がる。

 腕を使わず、足首の動きだけで立ち上がってくる。

 な、んだ、なんなんだこれは。人間じゃない、人間はこんな動きをしない。


「――以前に私を殺した男はもっと超然とした表情だった。貴女のような怯えはなかった」


 完全に立ち上がったベータが静かに笑っていた。


「お前、死体か……? サータイトの――ッ!」

「違うよ、この人、そういうのじゃない。それどころか人じゃない……ッ!」


 シェリーさんの言葉が響く。

 そうか、魔力を見れる彼女なら分かるのか。サングラスを外した彼女なら。

 死霊呪術の使い手かどうかくらい。でも、なんだ、人じゃないっていうのは……?


「――良い瞳をお持ちのようだ。シェリー・サーヴォ、ますます我が主が欲しがることでしょう」


 そう言いながら焼け焦げた胸を開くベータ。

 露出した肌が見える、かと思った。けれど違った。彼女の胸の奥には……


「……機械の、身体」


 あるのか、この世界に、スカーレット王国に、機械の身体が――


「ええ、そういうことです。その拳銃では私を殺すことは出来ません」

「ッ――!!」


 今一度、弾丸を放つ。けれどそれは全て切り落とされた。

 常軌を逸した反射防御によって。右腕の刃で。


「何者だ、ギルドの発明か、ベータ、君はいったい……!?」

「違いますね。私の名は”ベータタイプ・ウェブドール”言うなればドクターケイの”同輩”です」


 ドクターケイの同輩……?

 その言葉の意味を、考えている暇はなかった。

 既にベータタイプが眼前にまで迫っていたからだ。

 彼女の言葉はこちらの意識を分散させるためのエサだったんだ。


「ッ、シェリーさん、掴まって――!!」


 シェリーさんの身体を抱きしめ、ボクは飛んだ。

 カーテンの向こう側に、落ちることを選んだ。


「思い切りの良い――ッ!」


 加速のついた落下、その中でボクは槍を引き抜いた。

 落下地点に人がいないこと、それだけを見極め、ボクは槍を突き立てた。

 そのまま衝撃を吸収させて床に降り立つ。


「――作戦は失敗かい。ベータ」


 落下した先、ミハエル・ロッドフォードが吐き捨てる。


「いいえ、ここからが本番です。”役者が揃った”というべきかと」


 ボクと同じように、ボクよりも涼しげに飛び降りてくるベータタイプ。

 そうだ、彼女の言うように揃ったのだ。全員が。

 この場に関わる者たちが全員――

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