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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第24話

 ミハエル・ロッドフォードが訪れてから僅かばかりの時間が過ぎたころだった。

 もう1人の男が現れたのは。


(……あれがバトー・ストレングスか)


 壮年というには少し若いくらいだろうか。寒冷地生まれのような顔立ちをしている。

 スカーレット王国らしくは無いけれど、ミハエルほどではない。

 あれくらいの年齢であればギルドの重役ということなんだろうな。彼もこちらに来て長いのだろうか。


『……まずは、この状況下でこの席を設けていただいたことに感謝しよう。ニコレット殿下』

『いいえ、バトーさん。貴方こそよく来てくれましたね。武力に頼ることなく、この席に――』


 向かい合う2人、彼らに対し紅茶が用意されていく。

 その筆頭を務めるのがベータさんだった。本当に重用されているみたいだ。


『ドクターの事、本当にお悔やみ申し上げる。我々は偉大なる才能を失った』

『ええ、バトーさん。率直な話をしても構いませんか?』

『もちろん。我々の会話は彼が見届けてくれるのだろう? カーフィステイン家の御曹司エルハルト殿が』


 バトーさんに送られた視線を前に静かな笑みだけを返すエルトさん。

 つい先ほど彼は言っていた。『今回の自分は調停役に過ぎない。極力見届けるだけに留める』と。

 だから彼は何も発言していないのだ。今の今まで。


『――では、遠慮なく。貴方はドクターケイを殺したのは誰だと考えますか? いいえ、誰の思惑だと』


 ニコレット殿下の問いを前に一口、紅茶を飲むバトーさん。


『可能性として最も高いのは、我らの中の急進派だろう。ドクターの身柄を押さえようとして殺めてしまった。そう考えている』


 ――ほう、この回答がハッタリでなければ彼は白だ。

 彼は遺体が燃え尽きていることを知らない。身柄を押さえようとしたではすまない残忍な魔術が使用されていることを知らない。


『……身内の犯行だと』

『ああ。もちろん許すつもりはない。貴女との協力体制が築けたのならば喜んで差し出そう。

 築けなかったとしても、私が罰を下す。ケイは私にとっても恩人だ』


 そうか。敵だとばかり思っていたけれど、元々ストライダーズ・ギルドとは協力していたんだ。

 ドクターケイのことを尊敬している人間がいるのは当たり前のことだった。

 彼を殺されて怒りを感じる人間もいるんだ。


『そうね。私も協力したいと思っている。貴方たちは聡明です。

 現状の未完成の転移装置で数人ばかり帰還を果たしたとしても、残りのさすらい人は救われはしないことを理解している』


 ニコレット殿下の確認に頷くバトーさん。

 これはスムーズに話が進みそうだ。問題はその先、ギルドの中の急進派をどうするか?に移っていくのだろうな。


『……私も率直に言わせてもらおうか。こちらの要求は2つ。

 転移装置の研究再開、その際のシェリー・サーヴォの同席だ』


 前者はともかく、後者は受け入れられないだろう。それこそ身内に急進派がいる限りは。


『――ケイを殺すような奴がいるところに姉さんを放り込むわけねえだろ、バトーさんよ』

『ジェフリー……だろうな。だから言っているんだ。協力さえ約束してくれるのならば今回の実行犯ならびに首謀者、君たちに差し出してやると』


 ジェフリーとバトー、2人の間にバチバチとした空気が走る。


『前者はともかく、後者の条件は飲めないわ。それこそケイを殺した犯人が見つかるまでは』

『転移装置の研究再開は飲めると?』

『ええ、幸いこちらには優秀な機械魔法の使い手がいる。ドクターケイ最後の弟子が』


 バトーとミハエル、2人の視線がジェフリーに集中する。

 それをジェフは静かに受け止めていた。


『……今、ケイの研究を引き継げるとしたらアンタら以外には俺しかいないだろう』

『心強いね、君が力を貸してくれるのならば』


 ジェフさんに笑いかけるミハエルさん。

 彼も知っているということかジェフさんの実力を。


『――良いのか? 君はアカデミアの学院生だろう?』

『事が事だからな。ケイが最期に造ろうとした発明を捨ておくわけにもいかない』

『シェリーさん無しでどこまで出来ると考えている?』


 バトーさんの質問を前に、黙考を始めるジェフリー。

 そして彼は口を開く。


『シェリーが起動させた”万能鉱石”あれから生じているのは莫大な魔力みたいなものだよな?

 つまり、あれと同等に魔力を発生させられるようになれば第一条件は解消できる』

『人智魔法使いに依頼したこともある。魔力の提供を。それでも足りなかった。装置への変換効率が悪いというのが原因だった』


 魔力によく似た何かを使っているけれど、本物の魔力では効率が悪いというのか。

 なんか複雑な話だな。


『じゃあ、魔法王時代の真似事でもやってみるか?』

『冗談はやめろ、私たちは血塗られた道で帰るつもりはない』

『ふふっ、いいね。好きだぜ、アンタのそういうところ』


 ――そう言いながらもう一度、考え込み始めるジェフさん。


『方針程度の話だが、2つ考えてる。ひとつは変換効率の悪さの原因の解明と解消、もうひとつは複数人の魔力を流し込めるような機械魔法の確立』

『……できるのか?』

『ああ、機械魔法ってのは誰でも魔法使いにできる技術だ。殺さない程度に魔力を取り出せる。それを応用していけば……』


 純に思考を走らせているジェフリーさんを見ていると思う。

 ああ、この人、楽しんでいるなって。

 なるほど、これが機械魔法の天才ということか。トリシャさんが見込むわけだ。


『それにはどれくらいの時間がかかるのかな、ジェフリー』

『……変換効率の改善に1年、複数人による機械魔法の確立に1年、両者のすり合わせに1年、転移術式の起動実験に1年。

 4年、いいや、5年は欲しい。おそらく各工程で困難にぶち当たるはずだ。それでも5年あれば安定的にあちらへの帰還を可能にできる』


 5年か。途方もない話だ。

 いや、違うか。5年であちらへの移動を確立させようというんだ。

 もしも実現できたのならば異様なまでに速い。


『5年、か。スカーレット王国から地球への片道切符の確立で5年か――』


 紅茶を飲み終えながらフッと怜悧な笑みを浮かべるミハエル・ロッドフォード。

 その表情を見ていると背筋に寒気が走った。

 ……何か知らないけれどヤバい、ボクの直感がそう告げていた。


『――遅い、遅すぎるよ。ジェフリー・サーヴォ』


 そう告げたミハエルは胸から拳銃を引き抜いていた。

 複雑に変形した拳銃が1つと”背中から伸びた複数の砲身”がその場にいた全員を狙っていた。

 ニコレット、ジェフリー、エルハルトまではともかくバトー・ストレングスまでをも狙っていたんだ。


「ッ、シェリーさん、これはマズい……ッ!」


 彼女の手を引き、背後の扉を開けようとした。けれどその必要はなかった。

 ”開いた”んだ、ボクが開くよりも早く……ッ!!


『もしも君が”あちら側”に行ってしまった姉を取り戻すためなら、5年もかけないはずだ。そうだろう? ジェフリー』

『ッ、ミハエル、てめえ……ッ!』


 遠くで彼らのやり取りが響いていた。

 けれど、ボクはそれを聞いている暇がなかった。だって目の前にいたんだから、明確な、敵が。


「――どこに行こうというのでしょうか、クリス様? 今、我が主は求めているのですよ、シェリー様の身柄を」

「ッ……ベータ、君は、――ッ!」


 我が主、つまり、彼女の主はミハエル・ロッドフォードだったという訳か。

 まさか内通者とは……完全に出し抜かれた! どうする、どう、切り抜ける……?


「抵抗はしないほうが良い。こちらにあなたたちを傷つける意図はない。下手な抵抗はケイと同じ末路を招きます――」

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