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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第23話

 ――ドクターケイがその最後の作品として研究を進めていた”転移装置”

 ジェフリーは言った。その研究を引き継ぐことは不可能ではないと。

 年単位の時間はかかるだろうが、研究を進めることさえできると言ってみせた。


(つくづく、あの人をトリシャ教授が見込んでいるのがよく分かる)


 ニコレット殿下が持ち掛けた話だ。ジェフリーがそう言えばギルドを騙せると思っている。

 最低、彼女がそう思うだけの実力を持っているということになる。荒唐無稽の話ではないんだ。


「それではシェリー様、クリス様、ここで控えていてくださいませ。必要とあればお呼びします」


 シルキーテリア家の侍女、ベータさんがボクらに告げる。

 屋敷の2階、豪奢な応接室を見下ろせながらも死角となっている場所にボクらは通されていた。

 交渉を見届けられるように。


「――ありがとう。ベータさん」

「ふふ、これが仕事ですから」


 浮かべる微笑、その中にどこか感じる冷たさ。

 ……独特な雰囲気を持つ人だ。

 そう思いながら、彼女を見送り眼下を見つめる。


「……交渉、するんだよね」

「ええ、矢面に立つのはニコレット殿下。エルトさんは”見届け人”です」


 ジェフはドクターケイの代理なのはともかくとして、まさかエルトさんが中立の調停役に座るとはな。

 外から来た貴族だから立場としては申し分ないということなんだろう。


『――あっちに姉さんたちが?』

『ええ、ギルドが来たら見ちゃダメよ。ジェフ』


 一瞬こちら側を見つめてくるジェフとニコレット殿下。

 シェリーさんが手を振っているのに反応がないのを見ると本当に見えていないようだ。

 こちら側からは透けて見えるが、あちら側からは見えないカーテン。マジックミラーみたいなものがあるとは恐れ入る。

 それにあちらの音を拾って再生しているのはいったい……これも機械魔法の産物なのだろうか。


『あっちからは誰が来るんだ?』

『先行してミハエルが。遅れてバトーが来るわ』

『ふぅん。今回一度で終わる話だと?』


 2人の視線が火花を散らしている。今回の事件がなければ仲が良いんだろうか。

 ジェフリーとニコレット殿下は。どうにも分からないな。


『――最低でもミハエルとバトーを味方に着けなきゃ始まらないわ、何も』

『最悪の状況として想定しているのはどこまでだ?』

『シェリーの身柄を奪われて、転移装置を奪われて無理に起動させられる可能性もあり得る。

 それもギルド全体の意思じゃなく、1人2人の抜け駆けによって』


 ストライダーズ・ギルドのシルキーテリア支部。その組織を抑えること自体はそう難しいことではないのかもしれない。

 先ほどニコレット殿下が言っていた通り、一度に帰還できる人数に制限があるのだから、ギルド全体としては無茶な真似はしない。

 問題は、ストライダー個々人の方だ。他の誰を差し置いてでも自分だけ帰ろうと抜け駆けする者。それがいないはずはないのだから。


「……来た、みたいだね」


 ボクの隣でシェリーさんが呟いた。その言葉につられて、ボクは見つめた。

 応接室の扉が開かれるのを。逆光の中から現れた1人の青年を。


『――お招きいただき感謝する。ニコレット殿下』

『よく来てくれたわね、ミハエル・ロッドフォード』


 ミハエル・ロッドフォード、そう呼ばれた青年の顔を見てボクは違和感を覚えた。

 ……スカーレット王国人の顔立ちじゃない。

 いや、ギルドのストライダーなんだから当たり前なんだけれど、ミハエルなんて名前の欧米人にさえ見えない。

 だって、彼は――


「どうしたの? 何かあった? クリスちゃん」

「いえ、あのミハエルって人、独特な顔立ちだなと思って」


 ――あの顔、どう見たって日本人じゃないか。

 偽名でないとすれば、日系人か? それとも偽名を使っているんだろうか。


「そうだね、ミハエルくんは典型的な”さすらい人”の顔だよね」

「ええ、王国人とは違う顔立ちです」


 思えばこれが初めてか。ボクがボク以外のストライダーを目の前にするのは。


『……殿下、今朝の事、本当に残念でした』

『ッ、そうね……私たちは偉大な魔術師を失くしたわ』


 白々しいと思ったほうが良いのだろうか。けれど、ジェフと話し合った通りおかしいんだ。

 ギルドがドクターケイを殺すなんて。

 ならばこのミハエルという人の反応も当然なのか、それとも社交辞令か。


『なぁ、ミハエル』

『なんだい? ジェフリー』

『――ケイを殺したのさ、お前らなんじゃないのか? ギルドの人間なんじゃないのか?』


 ッ、とんでもない直球を投げるものだな。あの人。


『……まさか、あり得ないよ。ケイが死んだら転移装置を誰が完成させる?』

『未完成だと認識してるのか? お前ら』

『そうだ。あれは起動できても一度切りだろう? あっち側に行ってしまえば戻って来れない』


 あのミハエルという人はニコレット殿下と同じ認識を持っているらしい。

 交渉相手として選んだだけのことはあるようだ。


『一度だけでも良いから戻りたいと思ってるんじゃないのか?』

『だとしてもケイを殺す理由が無い。彼がいなきゃ転移装置の起動さえ安全にやれるか分からないのに』

『ギルドの奴らは全員がお前ほどの考えを持っているか?』


 ジェフリーの繰り広げる猛攻にミハエルさんの口が止まる。


『……焦り症の人間がいないわけじゃない。ここのギルドは人数が多いから』

『やっぱりそうだよな、お前ら以外にいないよな、ケイを狙う人間なんて』

『――待ちなさいジェフリー。実行犯がいたとしてもそれは組織の総意じゃない。そうね? ミハエル』


 ニコレット殿下の言葉に頷くミハエルさん。


『だからもしその実行犯が、組織の中にいるのなら――』

『……それは交渉次第ですね、殿下。僕らの目的はあくまで帰還だ、それも1人や2人じゃない。全員の帰還だ』

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