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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第18話

「――ボクがシェリーさんを犠牲にしてでも生まれ故郷に帰ろうする。あなたはそれを疑っているんだ」


 こちらの言葉に静かに頷くジェフリー・サーヴォ。

 ……だというのなら、この机に置かれた拳銃の意味は何なんだろうな。


「ならこの机の上に置いた拳銃をさっさとしまったほうが良い。あなたはボクを敵だと考えているのだから」

「……どうかな。ここで俺と戦ったところで君の目的は果たせない」

「ッ、……ジェフリー、あなたはいったい何がしたいんだ……?」


 この人は利害で全てを考える人だ。ボクがシェリーさんを好きになったから首を突っ込んだんだなんて言っても信じないだろう。

 だからボクには分からない。いったい何をどう説明すればこの人が納得するのかを。

 だって、ボクの中にはそれしかないんだから。シェリーさんを守りたいと思った、その感情が全てなんだから。


「――君の嘘偽りない気持ちを教えてほしい」

「それを言って信じますか? とてもそうとは思えない」

「……どうかな。俺にも分からない。聞いてみるまで」


 答えるジェフリーさんの表情が苦悩に満ちていた。

 いったい何を悩んでいるのだろうか。ボクを敵だと認識したんじゃないのか? この人は。

 ならばいったい何を悩む?


「――俺は、君のことを信用したいと思っている。理由はいくつもある。

 シェリーは人を見る目がある。偶発的とはいえ彼女が選んだ君がシェリーを利用するとは思いたくない。

 それにトリシャが大切にしている相手でもある」


 信用したい、だって……? ここまでストレートに疑念をぶつけてきて、信用したいだと?

 確かにボクらはトリシャ・ブランテッドという人を基点に繋がってはいる。

 けれど今、彼の手持ちの情報としてはボクを疑わないなんてありえない選択肢だ。


「ッ、傭兵らしくないですね……」

「自覚はしてるよ、最初からそうなんだ。疑うべき人間を疑えないから墓穴を掘った。けれど、そのおかげで生きているとも言える」


 フッと遠くを見るジェフさん。その瞳には、いったい誰が映っているんだろうか。


「素直に言いましょう。ボクはシェリーさんが好きだ。だから今回の件に首を突っ込んだ。

 シルキーテリアに行けば帰れるかもしれないなんて思いつきもしなかった。自分でもバカだと思います」


 普通なら絶対に至ったはずの思考だ。けれどボクの頭はそこまで回らなかった。


「君ほど聡明な女が、なぜ? 思い至らないはずはない――」

「……帰れない事情があるから、ですかね」

「どういうことだ……?」


 ――ここから先は、ボク自身も深いところを知らない話だ。

 最小限の情報しか与えられていない。


「ボクは、父親の都合で”あちら側”からアカデミアへの転入を余儀なくされた」

「父親の都合……?」

「詳しいことは教えられてません。なんでも、あちら側でボクたちを狙う敵がいたらしい」


 ボクと母さんを狙う敵がいる。だからボクを逃がすんだ。ボクの元に送り込まれた護衛のお姉さんはそれだけ説明してくれた。

 彼女自身もそれ以上の情報は与えられていなかったみたいで、結局深いところは何も知らない。


「だから、帰れない、と?」

「ええ、今ボクが帰ったら父親の努力が無駄になる」

「でも帰りたいと思ったことがない訳じゃ、ないんだろ……?」


 ジェフさんの言葉に頷く。本当に急にこちらに来る羽目になったんだ。

 高校生活が始まった直後くらいに。そりゃ帰りたいと思わないはずもない。


「けれど帰ってはいけないと分かっていますから。だから思いつかなかったんですよ、シルキーテリアに行けば帰れるかもなんて」

「……俺は眠れる獅子を起こしたって訳か」

「そうですね。あなたに教えられた方法で帰っちゃおうかな、なんて♪」


 酔いが回ってきたんだろうか。身体が温まってきた。


「ッ……悪い冗談だな。にしても、君は何に狙われてるんだ?」

「知りません。父親の都合みたいなことは言ってましたけど、それ以上は何も」

「何も教えられずに見知らぬ世界に来たって訳かよ……」


 ジェフさんの言葉に頷く。


「ええ、だからボクは決めてるんです。父親に再会したら一発殴ります」

「ふふっ、それが叶うと良いな……なるほど、そういう事情か……いや、待てよ、君の父親はトリシャの旧友なんだろ……?」


 ジェフさんの確認に頷く。

 いったいどういう関係なのかは知らないけど、ボクの父親とトリシャさんは長い付き合いらしい。

 母さんのことも知っているみたいだった。特別仲がいい訳じゃなさそうだったけれど。


「……君は、ストライダーなんだよな?」

「ええ、物心ついたときには”あちらの世界”に居ましたし、スカーレット王国なんて聞いたこともなかった」


 神官様がいて、魔術師がいて、竜族がいる世界なんて絵物語でしか見たことがない。

 別にボクは特別そういう作品群に詳しい訳でもなかった。


「――君の生い立ち、詳しく聞かせてくれないか……?」

「良いですよ、その代わりと言っては何ですがあなたのことも教えてほしい。次世代の機械魔法使いのことをね――」

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