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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第15話

「――クリスちゃんって馬にも乗れるんだね」


 シルキーテリアへの旅路、中継地点でとった宿。そこでボクはシェリーさんと同じ部屋にいた。

 エルトさんとジェフリーさん含めての4人旅、男女で分けて部屋を取ったんだ。

 シェリーさんは弟さんと一緒に寝られないことを残念がっていた。


「ええ、ちょっと色々とありましてね。あの子と仲良くなったんですよ」

「ウマタロウだっけ? 珍しい名前だよね」

「ボクもそう思います」


 まぁ、名付け親はボクなんだけれどね。


「……ねぇ、本当に良かったの?」


 窓、宵闇に沈んだ街を見下ろしながらシェリーさんがボクに語り掛けてくる。

 ガラスに映るその表情が色っぽい。ボクよりもお姉さんなんだろうか。そんな気がする。


「着いてきたことですか?」

「うん、ジュースの借りなんて本気じゃないんでしょ?」


 ……本気じゃない、か。別に本気じゃないという訳じゃない。

 ただ、ジュースを奢ってもらったからというだけの話でもないのは確かかな。


「まぁ、それだけって訳じゃないですけど、本気じゃないって訳でもありません」

「……? どういうこと?」

「簡単な話ですよ、このまま放っておくと危ないだろうなと思ったんです。エルトさんとジェフリーさんは険悪だし、シェリーさんはエルトさんに着いていくと言うし」


 シャープシューターズという傭兵コンビの実力はきっと凄まじいものなんだろう。

 タンミレフトの英雄だと聞くだけでよく分かる。

 ただ、今の2人は完全に思惑が割れてしまっている。意思の共有は望めない。だからシェリーさんを任せるには危うい。


「……あはは、ダメだった?」

「ダメじゃありません。ただ貴女がシルキーテリアに行かなければ、ボクからそれを進言することはなかった」


 窓から外を見つめているシェリーさんの肩に掌を乗せる。

 ……細い肩だ。

 とても女性らしくて、折れてしまいそう。


「……シェリーさん、どうして戻ろうと思ったんですか?」

「ニコが、呼んでるって言うからさ」

「ニコレット、シルキーテリアさんですか」


 2人の幼なじみ、貴族のご令嬢ということだけは聞いている。

 けれど、いったいどういう人なんだろうか。


「うん。あの娘が今回の件に関わってくるって思ってなかったからさ」

「それはどうして? いったいどういう人なんですか?」

「……なんて言えばいいのかな。機械魔法に憧れているんだよ、でも家にそれを禁じられている」


 ――政魔分離の原則か。


「周囲に魔法使いだと思われると、貴族の地位を追われてしまうからですかね」

「うん。やっぱり詳しいね、クリスちゃんは」

「魔術史学生なら当然ですよ。貴族と魔法の対立は根深いですから」


 まだ機械魔法は広まっていないから論じられる機会は少ないけれど、確かに後々問題になっていくんだろうな。

 誰にでも使える機械魔法を使うということが、政魔分離の原則とぶつかるか、否かについては。

 けれどまだその過渡期どころか黎明期に過ぎないから、ニコレットという人も禁じられている訳だ。機械魔法に触れることそのものを。


「だからさ、不思議なんだよ。ニコが今回の事件に関わっているのが」

「そこが気になったからですか。シルキーテリアに向かうのは」

「うん。それに確かに私という交渉材料がいないと、そもそも交渉のテーブルにさえ着けないってのは本当だし」


 ……機械魔法から遠ざけられているはずの令嬢がエルトという貴族を使ってシェリーさんを呼び戻した、か。

 シェリーさんがアカデミアに向かっているということを知っているのなら、恐らくドクターケイという人との距離も近い。

 というよりも、ドクターケイはシルキーテリア家のお抱え魔術師だ。そこから情報を手に入れたのだろう。


「まさかドクターケイさんも送り出したシェリーさんが、よりにもよって自分のところの令嬢に呼び戻されているとは思わないでしょうね」

「ふふっ、そうだね。ケイには怒られちゃいそう」


 ……本当に状況としては入り組んでいるな。ケイとジェフリーさんがシェリーさんを逃がそうとして、ニコとエルトさんがシェリーさんを呼び戻した。

 どちらも理が通っているように感じるし、シェリーさんが狙われているということは変わらない。

 さて、ここから先、ボクはどう立ち回っていくべきなんだろうか。


「はぁ~……疲れちゃったなぁ……」


 ぽふんとベッドから音がする。シェリーさんがベッドに飛び込んでいた。

 そして彼女の両手がボクを招く。


「一緒に寝よう? クリスちゃん」

「……ベッドは2つありますよ? ボクの部屋とは違います」

「関係ないよ、そんなこと♪」


 ……きっとこの人、このノリで弟さんにも接しているんだろうなぁ。


「お邪魔します……」

「ようこそ、クリスちゃん♪」


 グイっとベッドの中にボクを引き込むシェリーさん。

 その腕が細い割には力強くてドキリとさせられる。


「……ねぇ、シェリーさん」

「なに? クリスちゃん」

「”あっち側”に興味ってあります……?」


 この人はどう思っているんだろう? ストライダーたちの世界のことを。


「ないわけじゃないけれど、ジェフのいないところに行きたくないかな」

「ふふっ、なるほど。それはそうでしょうね」

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