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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第13話

「ニコ、ニコレット・シルキーテリアだな……?」


 ジェフリーさんが出した名前、もちろんボクにはそれが誰かなのかなんて分からない。

 分かるのはせいぜい貴族であることとジェフリーさんたちの幼なじみであることくらいだ。


「――ご名答、彼女から教えてもらったんだ。いいや、頼まれたと言ったほうが良いか」


 エルトさんとジェフリーさんの瞳が交差する。

 色素の薄い赤と、緑玉の瞳が静かにぶつかり合っている。

 しかし、この2人はどういう関係なんだろうか。シェリーさんに向かってエルトさんは弟さんにお世話になっていると言っていたけれど。


「頼まれた? 仕事でも受けたっていうのか?」

「まぁね。シェリーさんを連れてきてほしい、そう頼まれたんだ」


 既に硬直していた場の空気が一気に張り詰めるのが分かる。

 ジェフリーさんなんて今にも殴り掛かりそうな勢いだ。


「……シェリーを連れていく、だと?」

「そうだ。ニコレットの元へと。彼女には今、お姉さんの力が必要なんだ」

「冗談じゃない。話にもならないな――」


 一蹴。話を打ち切ろうとするジェフリーさん。

 それに怯むことなくエルトさんは、シェリーさんにその言葉を向ける。


「今、シルキーテリアは一触即発の状態だ。まだ情報は拡散してはいない。

 けれどシルキーテリア家とストライダーズ・ギルド、この2者の緊張状態がいつ抗争に発展してもおかしくない」

「……ああ、やっぱりそうなっているんだね」


 シェリーさんの表情を見ていると彼女が一種の責任を感じていることが分かる。


「ええ、それだけドクターケイは懸命に貴女を守ろうとしています。

 さすらい人の悲願と片道の旅に貴女を巻き込むこと。その天秤は傾き切っている」

「だからケイがシェリーをこっちに寄こしたんだろうが! それを連れ戻すってのはどういう了見だ? エルト」


 胸倉を掴み上げるジェフリーさん。

 エルトという人は静かにそれを捻り返す。

 ……ああ、これ2人とも実力者だな。相当に経験を積んでいる者同士だ。


「ニコはギルドとの交渉を望んでいるんだ。そのためには手札が必要だ。最低でも近くに交渉材料となる彼女がいなければならない」

「……シルキーテリアの戦力じゃ守り切れない。それがケイの判断だ」

「それが早計だったんだよ、ジェフ。シェリーさんがいない現状では、シルキーテリア家はギルドとの交渉にさえ入れないんだ」


 そう言いながらエルトさんはジェフリーさんから視線を外す。

 なるほど、あくまで狙いはシェリーさんの方という訳か。


「だから、シェリー・サーヴォさん。シルキーテリアについてきてほしい。僕が守ります、貴女への危害は加えさせない」


 スッと膝をついて白い指先を握るエルトさん。

 このままキスでもしそうな勢いだ。こんな動きが様になっているなんて本当になんて人だろう。


「……エルトくん」


 頑ななジェフリーさんに対して、シェリーさんは折れるだろう。

 ボクはそう感じた。


「おい、エルト。あまりふざけたことばかり言ってんじゃねえぞ」

「――ふざけたこと? じゃあ、逆に教えてほしいな、君はこの事態をどう解決するつもりなのかを」

「俺が今からシルキーテリアに向かう。ケイと共にギルドを叩く」


 ……エルトさんもエルトさんで無茶を言っているけど、ジェフリーさんもジェフリーさんで無茶を言っている。

 まぁ、それも仕方ないか。そもそもの状況が”さすらい人の帰還”なんていう無茶苦茶を巡る話なんだから。


「君はシルキーテリアを焼くつもりかい?」

「必要とあれば――」

「――やめて。ジェフ」


 スッと立ち上がるシェリーさん。彼女はエルトさんの手を取った。

 ……やっぱりな。この人はこう動くと思った。


「ニコが呼んでるんだよね? エルトくん」

「ええ、彼女が貴女を呼んでいます」

「分かった。行くよ、君が私を守ってくれるのなら」


 そしてシェリーさんがこう動いたとしても、ジェフリーという人は納得しない。


「――待ってくれ、姉さん! 相手はストライダーズ・ギルドなんだぞ!? こいつとシルキーテリアで守り切れるはずがない!」

「ならさ、君も来れば良いじゃないか。ジェフリー・サーヴォ。僕とシルキーテリアで守れないとしても、僕たちならできるはずだ、僕たちシャープシューターズなら」


 シャープシューターズ。そうか、このエルハルトという男がジェフリーさんの相部屋の相手。傭兵としての相棒。

 ”貴族の次男坊は替えが効く”と死地に飛び込むあの人なんだ。

 なるほど、ここまでの会話を見ていると腑に落ちるな。そういう人なんだって何となく伝わってくる。


「ッ……ふざけんなよ、エルト……ッ!」

「どっちみちギルドを叩くんだろう? なら交渉が決裂してからでも遅くないはずだ」


 ジェフリーさんの歯噛みが聞こえてきたのは幻聴だろうか。

 2人の議論はすでに決着がついている。シェリーさんが傾いたときに。

 だから今のボクにできることは――


「――ボクも行きますよ。これで戦力は3人になります。タンミレフトの英雄が2人に、グリューネバルトのが1人だ」

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