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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第10話

 ――クリスティーナ・ウィングフィールド。

 彼女を初めて見たのは、春の終わりごろの話だ。タンミレフトの事件が終わり、シャープシューターズとしての傭兵稼業が軌道に乗り始めたころ。

 トリシャが『戦友の娘を招くんだ』と笑っていたのをよく覚えている。


(……これが”死竜殺しのクリスティーナ”か)


 彼女を見かけたことはほんの数回しかない。トリシャの教授室に居たのを見かけたり、それくらいの話だ。

 物静かとまではいかないが思慮深い人間であることが滲み出ていて、戦いというものからは疎遠な人間だと感じていた。

 闘争本能を持ち合わせていないとまで言うと他人への分析としては大げさだが、今でも覚えている。彼女の異名を聞いたときの違和感を。


「……知っているのか? 俺のことを」

「もちろん。トリシャさんのお弟子さんでしょう?」

「そういう君はトリシャとはどういう関係なのかな? グリューネバルトでの話を聞いたときのあいつ、今までに見たことないくらい青ざめていてさ」


 ――まぁ、あれだけ青ざめたのも当然だろう。

 トリシャに入ってきた一報は”グリューネバルトで死竜が暴れた”というものだけだった。

 クリスがその事件に関わっているかどうかさえも知らなかったのだ。


「なんかボクのお父さんとトリシャさんが戦友らしいですよ、古い友達なんだって」

「戦友か……ルビア・アマテイトってのも戦友なんだよな、トリシャの」

「どなた様です? なんか、偉い人っぽいですけど」


 クリスの質問に頷き、ルビアのことを教えてみる。

 聖都直属の大神官ルビア・アマテイトもまたトリシャの”戦友”なのだ。

 彼女の父親と3人合わせて同じ戦いでの友なのかどうかは知らない。どうせトリシャのことだ。何度も事件に巻き込まれてきただろうから。


「神官、教授……ボクのお父さんって……」

「同時期の戦友かは知らないけどな。あいつも色々経験してきてるはずだし」


 そう言いながら教授室のソファに腰を下ろす。

 隣に来てくれた姉さんから紅茶を受け取り、口の中で踊らせる。

 ……ここでビーカーからのコーヒー以外の飲み物を飲むのは久しぶりだ。


「――ところで2人はどうして一緒に? いつの間に仲良くなったんだ?」

「昨日、ジェフのジュース販売機の前で出会ってね。私が梨のジュースをおごってあげたんだ」


 俺のプレゼントしたサングラスを掛けたままクスクスと笑うシェリー姉さん。

 姉さんのことだ、たぶん人を見る目に間違いはないんだろうが、それでも行動的に過ぎる。


「それでここまで? 相手が身内だったから良かったものを、あまり見知らぬ相手にグイグイ行くなよ」

「ふふっ、だってジェフの発明の前でこんな可愛い女の子が立ってたんだよ? 声を掛けたくなるよ」


 まぁ、確かにクリスティーナという少女は人を惹きつける容姿を持っている。

 それは最初に見たときから思っていたことだ。なんというか可憐という言葉が似合う少女だと思う。


「それにしたって翌日の真昼間から一緒にいてくれるとは、ありがとう」

「ええ、頼まれましたからね。トリシャ教授から。シェリーさんを護衛してほしいって」


 そう言いながら胸を張るクリス。

 ……護衛か。実際、彼女にはそれだけの実力があるのだろう。人を守るだけの力を持っていると思う。

 しかし、なんだ、護衛って、なんだ……?


「護衛……? ちょっと待ってくれ、どういうことだ……?」

「……えっと、聞いてないんですか? ジェフリーさん」


 クリスの瞳が動く。姉さんの表情を伺うように。

 ――つまり、姉さんは知ってる。いや、当たり前か。クリスが知っているのだから。

 しかし、なんだ? 護衛というのは。今の姉さんには護衛が必要なのか?


「姉さん――」

「怖い顔しないの♪ ジェフ」


 俺の頬を掴み、口元を無理やり吊り上げさせる姉さん。

 これをやられると色々と反論する気が消えてなくなるんだ。


「分かったよ、とりあえず説明してくれ」


 ――ああ、失敗だった。

 そもそも姉さんが学術都市アカデミアなんていう大都会に出てくるという時点で疑うべきだったんだ。

 生半可な理由でシェリー姉さんが人混みに出てくるはずがない。ケイが用意した乗り合いの切符でアカデミアに来るという時点で何かあるはずだと疑っていれば良かった。

 クソ、それなのにただの旅行だと思ってリリィの依頼を受けるなんて……!


「完成させたんだよ、ケイが。最後の発明を」

「転移装置を……?」


 こちらの確認に頷く姉さん。そうか。あいつ、とうとう完成させたのか。

 さすらい人の世界へと帰るための道具を。


「”万能鉱石”はどうやって起動させた? あれが最大のネックだったはずだ」

「――私」

「はい……?」


 こちらの質問を前に自分を親指で指す姉さん。


「あれを目覚めさせるのには魔法使いみたいな”才能”が必要だって言ってたでしょ? ケイ」

「その才能の持ち主が、姉さんだと……?」


 静かに頷く姉さん。


「それで姉さんが狙われるってことは、誰だ? 誰に嗅ぎ付けられた?」

「――違いますよ、ジェフリーさん。ドクターケイの発明が部外者に狙われている訳じゃない」


 割って入ってくるクリス。こちらの推測が外れていることを把握したうえで切り込んでくるとは。

 やはり頭はキレるらしいな。


「ドクターケイが開発した転移装置は片道切符だ。起動にシェリーさんが必要で、シェリーさんごと”あちら”に行ってしまう代物」

「となると姉さんを狙っているのは、ストライダーズ・ギルドか」

「その前にケイは私を逃がしたんだけどね。まぁ、けれど時間稼ぎ程度かな」


 ケイが開発した片道の転移装置、それを使って何としてでも帰還を目指すストライダー。

 そのために必要なのはシェリー姉さんの身柄。

 なるほど、状況は理解した。のっぴきならない状況だ。深刻極まりない。


「――ヤバイな、途方もなく」

「ええ、さすらい人は何でもやりますよ。あちら側に帰るためなら」

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