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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第9話

「――ありがとう、ジェフ。ここまでで構いません。行ってあげてください、お姉さんのところへ」


 数刻みに渡り、バイクに揺られて俺たちはアカデミアに到着していた。

 背中にリリィの体温を感じながらの長旅はそれなりに心地の良いものだった。


「良いよ、どうせ夕方到着なんだ。送ってくよ、教会まで」

「……あら、何も出せませんよ。これ以上良くしてもらっても」

「ふん、流石にそこまで守銭奴じゃないさ」


 ある程度、舗装された道を進んでいく。これまでの道に比べてだいぶ運転が楽だ。


「しかし、これは便利な乗り物ですね。食費のかからない馬だとは」

「魔力は食うけどな。半分請け負ってくれてありがとよ」

「……いえ、ただ、私が魔法を使っているだなんていまだに信じられません」


 そいつが機械魔法の特性なのさと答える。

 しかし、確かにそうだ。敬虔な神官であるリリィまでもが使える魔法なんだ。

 確かに特異だとは思うし、なんというか背信的だ。神官でも魔法が使えるなんて。


「誰にでも魔法が使える時代が、来るんでしょうね」

「……アンタら神官の手も空くようになるはずだ」

「ふふっ、それは楽しみですね」


 柔和に笑うリリィ。神官としての激務に耐える彼女ならば、この言葉の意味を分かってくれるはずだ。

 ……しかし、それを実現するためには、トリシャだけに任せていては未来がないのだろうな。

 彼女の発想は学者でしかない。いや、違うか。彼女は機械魔法の先駆けでありながら、それが広がることを恐れている。

 特に拳銃などの火器類が広がることを、恐れている。


(……どこかでトリシャとぶつかる日が来るかもしれないな。このまま続けていると)


 アカデミアにあるアマテイト教会。その前にバイクを止める。

 久方ぶりのリリィとの時間もこれで終わりか。


「――到着だな、リリィ」

「ええ、快い旅でした。また会いましょう? ジェフリー。あなたに太陽の加護があらんことを」

「うん。またのご用命をお待ちしてるぜ? シャープシューターズはお前からの依頼はいつでも受ける」


 こちらの言葉に笑いながら、リリィが去っていく。

 彼女の背中を見つめつつ、次の行動を考える。シェリー姉さんがアカデミアに着くのは夕方。

 今は昼前、とりあえずトリシャから鍵を預かって、空けてもらっているという部屋の準備をしようか。

 そしてその後に乗合馬車の駅に移動する。姉さんはそこに到着するはずだから。……うん、これで行こう。まずはトリシャのところだ、研究室に向かう。


(……そうか、会えるのか。姉さんと)


 バイクをアカデミアに止めて研究室に向かう。そうして扉の前に辿り着いたころだ。

 僅かばかり開かれた扉の向こう側から複数人の声が漏れていた。

 女の声、それもトリシャ世代よりももっと若い子供のような声が聞こえてきた。


『じゃあ、ジェフリーさんって5歳から機械に触れていたんですか?』

『うんうん。トリシャとケイの見様見真似だって言ってたけどね。7歳で拳銃は組み立てたんだよ』


 ――俺の話をしている。そして片方の声に聞き覚えがある。

 いいや、その程度の話じゃない。俺がこの声を聞き間違えるなんてことはあり得ない。あり得ない相手の声なんだ。

 ……だが、どうして? どうして今、ここに……?


『それでトリシャさんが彼を引き込んだ』

『そうなんだよね。あいつの才能が田舎で埋もれていくのが我慢できなかったんだと思う』

『当のジェフリーさんはお姉さんと一緒に農家として生きてくつもりだった』


 ……完全に、俺の話をしてる。


『そうそう。そりゃお姉ちゃんとしては嬉しいけどね。あいつとは一緒にいたいと思うし』

『……じゃあ、トリシャさんのこと恨んだりしてます?』

『いいや、恨んでない。分かるんだよ。トリシャがあいつを引っ張り出したがる理由も。あのジュース販売機を見て余計にそう思った』


 ――ああ、姉さんの口からこの話を聞くのは初めてかもしれない。

 俺がアカデミアに行くことに対して、彼女からは”頑張ってね”としか言われていないから。

 だから、どう思っているのかを聞くのは、初めてだ。


『……ボクも彼の発明は時代を変えていくと思っています。前に話した通り』

『私は、そこまで考えていたわけじゃないんだけど、単純に機械を弄ってる時のジェフって楽しそうなんだ。

 けれど私との生活にそれは無かった。せいぜい目覚まし用のカラクリを弄るくらいでさ』


 ッ……そうか、姉さんは、


『本当はずっと一緒にいたかった。だけど、あいつにはあいつの才能を活かして欲しいと思うんだ。私は』

『……強いですね、シェリーさんは』

『いいや、強くなんてないよ。だって、あいつに着いていけなかったんだからさ』


 ――これ以上、聞いていられるか。

 こんな、本人に聞かれると思っていない話を、いつまでも盗み聞きなんてしていられるものか。


「――トリシャ、居るか?」

「っ?! ジェフ? ジェフリーっ!」


 扉を開けた瞬間にこちらに飛び込んでくる姉さん。彼女の身体を抱き留めて、柔らかな香りを感じる。

 ……半年としばらくぶりのそれに心が安らぐ。

 ああ、姉さん。俺にはあなたが居れば何も要らない。


「……来てたんだね、姉さん」

「うん、ちょっと早く着いてね。昨日の昼には来てたんだ」


 ッ、そういうことか。それでトリシャの研究室にいたのか。

 では、姉さんと話してくれていたこの金髪の少女は――


「――クリスティーナ、ウィングフィールドさん。だよな? 君は」

「ええ、こうして話すのは初めてですね。ジェフリー・サーヴォさん」

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