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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第6話

 ――ドクターケイ。

 その人を、一言で認識するとしたら、ボクにとっては『トリシャ・ブランテッドの師匠』というのが一番楽だろう。

 機械魔法の開祖として認知されているトリシャさんに機械魔法を教え込んだ最初の男にして、65年前にこちらに来てしまった”さすらい人”


(65年前か、なんて途方もない時間を……)


 半世紀以上前にスカーレット王国に降り立ったドクターケイは、シルキーテリア家に拾われた。

 そして人竜戦争に参加し、その名前を絶対のものとした。

 トリシャさんは彼に育てられていて、今はシェリーさんとジェフリーさんの身元引受人でもあるらしい。


「……そのドクターケイって人が”転移装置”を研究していたんですね?」

「うん。シルキーテリア家お抱え魔術師としての最後の仕事。それが完成したら引退するっていつも言ってたの」


 まぁ、そうだろうな。

 10代後半のころに来たと聞くから、もう80歳を超えているということだ。

 普通ならとっくの昔に引退していてもおかしくない。


「その研究の中で、転移装置起動の鍵がシェリーさんだと分かった」

「うん。なんか特殊な鉱石を使うみたいでね。それの起動には才能がいるんだって」

「魔法とかとは別なんですか?」


 こちらの確認に頷くシェリーさん。なるほど、鉱石の起動にシェリーさんの才能が必要か。

 狙われる理由はよく分かった。そりゃあ、そうだ。あちらとこちらを行き来する技術を確立できるのなら、その才能は欲しい。

 誰だって欲しがる。でも、今の問題は――


「狙っているのは、誰です? 貴女が鍵だと知っているのは?」

「シルキーテリア家の関係者さんたちと”ストライダーズ・ギルド”の人かな」


 ――ストライダーズ、ギルド!


「さすらい人の、互助組織、ですよね……ドクターケイという人は……」

「その一員なんだ。ケイが転移装置の開発に躍起になっているのも、若いさすらい人を返してあげたいからだし」


 シルキーテリアのお抱え魔術師が、自分の属する組織と共に開発を進めていたという訳か。

 これは予想以上に敵は多いだろうな。致命的なのはストライダーズ・ギルドに知られているということ。

 あいつら、帰るためなら何でもやるぞ。


「……ちょっと確認して良いですか?」

「良いよ? 何でも聞いて」

「転移装置って完成したんですか? 完成していたのなら、シェリーさん狙われないんじゃ?」


 少なくともギルドに狙われることはないだろう。だって最高の協力者なんだから。


「……してない。ケイが凍結したの。これは片道切符にしかならないって」

「片道、切符……」

「そうなんだよ。ストライダーさんたちだけなら片道でも良いんだろうけど、鍵になる私も行かなきゃいけないからさ」


 ――それで、凍結か。それでシェリーさんが狙われる可能性があるということか。

 状況は理解した。シェリーさんがアカデミアに来た理由も分かった。

 逆に良く一人で移動させたなと思うくらいだ。


「それで狙われているって訳なんですね」

「うん。まぁ、ここまで誰にも襲われてないし、まだ大丈夫かなとは思うんだけどね」

「……しかし近いうちに情報が出回ってしまえば」


 ボクの言葉に曖昧な笑みを浮かべるシェリーさん。

 ……しかし、これは厄介なことになったな。非常に厄介だ。

 さすらい人というものは、ストライダーというものは、その大半が不慮の事故でこちら側に来てしまっている。

 そもそも能動的に行き来する技術など存在しない。だから、死に物狂いだぞ。あちらに何か残している奴らは全員が。


「かなりヤバいだろうねえ……」

「――ふふ、それでボクか。トリシャ教授め」


 自然と笑みが零れてしまう。随分とボクも高く買われたものだなと思うし、この貸しは高くつけてやろう。

 あの人は言い値で払うと言ったのだから。


「……クリスちゃん?」

「良いですよ、ボクが護衛をしましょう。その程度の腕はあるつもりですから」


 ボクの言葉にきょとんとした表情をするシェリーさん。


「トリシャも言ってたけど、クリスちゃんって魔法使いなの……? いや、違うよね、そうじゃない……」


 サングラスを外したシェリーさんの瞳がボクを見つめている。


「ええ、ボクは魔術師じゃありません。もちろん神官でも」

「じゃあ、どうして……? 単純に喧嘩に強いみたいな……?」

「ええ、単純に言えばそうですね。ボクは喧嘩に強いんです」


 冗談めかして答えているけど、本気の言葉であることは伝わったように見える。

 けれどまだ確信は持てていないみたいだ。


「今年の夏、グリューネバルト領で起きた事件、知っていますか?」

「……えっと、そういえばケイたちがそんな話してたかな。さっき、トリシャが言ってた”死竜殺し”って」


 シェリーさんの瞳が動く。ボクを見つめる。


「――死竜殺しのクリスティーナ。随分と大げさな二つ名を与えられたと思っています」

「じゃあ、クリスちゃんが、その事件を解決した人、なんだ……」

「ええ、ボクの実力、ご理解いただけましたかね――?」


 なんてカッコつけてはいるものの、あれ以来”慈悲の王冠”を起動させられていないんだよな。

 ベアトの奴は然るべき時、然るべき場所、必ずこれはお前に応えるって言ってくれていたけれど。


「あはは……私、凄い人に声、かけちゃってたんだね」

「いえいえ、嬉しかったですよ。あの梨のジュース、本当においしかった」

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