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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第4話

「――それでジェフはいつ戻ってくるの?」


 紅茶を嗜みつつ、トリシャ教授に質問をするシェリーさん。

 その瞳がとても色気を帯びていて、ドキドキする。綺麗な人だ、なんて素直に思ってしまう。


「明日の昼までには。アンタの到着、夕方の予定だったろう?」

「合わせてくれてたんだ」

「そりゃあいつがアンタに気を遣わないはずはないさ。最初はアンタのためにアカデミアで最高のホテルを押さえるって言ってたくらいだ」


 ……傭兵稼業なんて危険な仕事をしてまでお金を集めている人が、ホテルを押さえようとしてる。

 それだけで弟さんがシェリーさんをどれだけ想っているのか分かってしまう。


「ふふっ、もうあいつ本当に大げさなんだから」

「まぁ、実際には私の家に一部屋空けた。好きに使えばいい」

「……ジェフは来る? あいつ今、相部屋に住んでるんでしょ? トリシャの部屋貸してあげなかったの?」


 矢継ぎ早に質問をしていくシェリーさん。場の空気を完全に彼女が支配している。

 強いな、この人。


「ジェフは来させる。そもそもあいつが相部屋に住んでるのは私の誘いを断ったからだ」

「どうして?」

「早く土地を買い戻してやるってうるさいから、部屋代を吹っ掛けたら逃げられた」

「……はー、もう……それであれでしょ? 相部屋の人と一緒に傭兵でしょ? 何やってるの、トリシャ」


 ……完全に見知らぬ人の事情を聴きまくってるな、ボク。

 いや、見たことはあるんだけどほとんど知らない人だ。


「……うっ、そんなこと言われたって、分かるわけないだろう。相部屋にあんなヤバい奴が住むなんて」

「ヤバいの……?」

「タンミレフトの事件、概要は知ってるね? あの時にそいつは言った”貴族の次男坊は替えが利く、これくらいの無茶はした方が良い”って」


 ――貴族の次男坊は替えが利くか。とんでもないことを言う人だ。

 おそらく自分自身を指してそれを言っているんだろうから、きっと本当に凄まじい人なんだろうな。

 自分のことを家のための道具だと割り切っているんだ。


「うっわ、ジェフと気が合いそう……」

「――だろう? 私もまさかあんなに相性のいい男と相部屋になるとは思ってなかった。すぐに音を上げると思ってたんだけどねえ」

「見知らぬ他人との共同生活なんて普通なら無理だろうしね、あいつ」


 頷き合うトリシャ教授とシェリーさん。

 なんか、見知らぬ人の陰口聞いてていいんだろうか、ボク。


「でも、それだけ良い友人を得たってことだよね」

「それは間違いないね。あいつらは良い相棒同士だよ」


 頷き合う2人。見知らぬ人たちの評価が下がって上がる光景はなかなか面白い。


「それで私は今晩、トリシャの部屋に行けばいいんだよね?」

「ああ、私は帰れないけどね。研究を仕上げなきゃいけないからさ」

「じゃあ、私1人なんだ……」


 そう言いながらシェリーさんの黄金色の瞳が動く。ボクを見つめて。


「とりあえず晩ご飯、一緒に行こうよ。クリスちゃん!」

「え、ええ、良いですけど……」

「――クリス、悪いけどシェリーと一緒にいてもらっても良いかい? 私の部屋に来ても良い」


 ……? なんだろう。別におかしなことを言われたわけじゃないんだけれど、トリシャ教授の表情がやけに真剣なのは何故だ?


「泊まるってことですか? 良いですけど、どうして……?」

「良いの? やったー♪ 今晩はよろしくね、クリスちゃん♪」


 スッとボクを抱き寄せるシェリーさん。柔らかな体温と華やかな匂いが心地いい……。


「は、はい……よろしくお願いします」

「決まりだね」

「決まりなのは良いんですけど、質問をしても良いですか? トリシャ教授」


 ボクの身体に絡むシェリーさんの肩に腕を回す。実際、この人の体温は本当に温かくて癖になる。

 でも、それに流されるボクじゃない。


「質問?」

「どうして貴女がボクにシェリーさんと一緒にいろって言うんです? 何か、あるんですか?」

「――いいや、強いて言うのなら女の子を1人にしておくのは危ないからさ」


 ……そうだろうか。アカデミアは治安の良い場所だ。

 それに魔法使いが異様に多いから、女の子が1人で歩いていたって何も仕掛けられない。

 一皮むけば化け物みたいなのがごろごろしてるところで仕掛けるバカはここにいない。


「それを言えばボクはいつもそうだ」

「アンタは強いだろ?」

「……ボク、貴女と腹の探り合い、したくないんですよね。何もないというのなら信じますけれど」


 ――これでもなお何も言わないのなら、考えなきゃいけないんだろう。

 でも、答えてくれるんじゃないかという安心があった。トリシャさんは、こういうところで誠実な人だから。


「――シェリー、話しても?」

「……今回のこと?」


 シェリーさんの言葉に頷くトリシャ教授。そしてシェリーさんもまた頷いてくれる。


「これは低い可能性だが、シェリーが狙われる可能性があるのさ。だからこっちへ避難させた」


 ……これまた、不穏な話だな。


「狙われる? 誰に、どうして……?」

「それはだね――」


 トリシャさんが答えようとした、まさにその時だった。

 研究室をノックする音が響いたのは。


「――なんだい?」

「失礼します、ブランテッド教授。自警団の件で」

「ああ、もうそんな時間か……」


 そう言いながら外套を羽織るトリシャさん。


「すまないクリス。細かいことはシェリーから聞いてくれ」

「……これ、貸しで良いですか? 高くつけますよ」

「それでシェリーを守ってくれるなら構わないよ。あとから言い値で払うさ。”死竜殺しのクリスティーナ”?」


 ッ、まったく人を乗せるのがうまいな、この人。

 実際、ボクはこのシェリーという人に既に借りがある。梨のジュースの借りが。


「……クリスちゃん」

「ああ、そんなにかしこまらないでください。とりあえず場所、変えましょうか」

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