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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
第2章「機械仕掛けのストライダー」
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第3話

「あー、でも良かった。ジュース販売機の前にいたのがクリスちゃんで」


 シェリーさんは、遠い田舎からトリシャ教授とジェフリーさんを訪ねて来たらしい。

 それでアカデミアに着いたまでは良かったんだけれど、予定よりも1日早く着いてしまってブラブラしていたのだそうだ。

 トリシャ教授の教授室もジェフリーさんの居場所も分からず大変だったと言っていた。


「ふふっ、世の中狭いですね。ボクもトリシャ教授のお客さんを案内できてうれしい」

「んー、良い子だね、クリスちゃんは」


 簡単に頭を撫でてくれるシェリーさん。まったく、ボクは弟さんじゃないのに。


「今回はどうしてアカデミアに? 観光ですか?」

「うん。ジェフの生活を見たかったんだ。あとちょうど良く切符も手に入ってね」

「乗り合いの?」


 こちらの言葉に対し明るく頷いてくれるシェリーさん。

 そっか。乗り合い馬車での長旅か。さぞ疲れたことだろう。


「どう? この街って。やっぱり進んでる? 楽しい?」

「――ええ、やはり知識の集積地ですからね。学べるものは多いです」

「ジェフを見たことがあるんだよね? 楽しそうに、してた?」


 ――ここで気休めに”していた”と答えるのは容易い。

 けれど、どうだろう?

 実際、数度ばかり見たことがある彼は楽しそうに……していただろうか?


「……正直、いつも不機嫌そうに見えました」

「ふふっ、やっぱりそっか。そうだよねえ。あいつ、私がいないといつもそうなの」


 くすくすと微笑むシェリーさん。本当のことを言って良かったみたいだ。

 下手に楽しそうなんて答えていたら、どう楽しそうだった?と深堀されていたと思う。


「でも無人の販売機械を造るくらいですから、全く楽しんでいないということはないと思いますよ」

「だよね? なんか他のことでも活躍しているみたいだし」


 他のこと? ジェフリーさんの活躍……いったいなんだっただろう。

 それを少し考えて、思い出す。死霊に落ちた都市を浄化した事件のことを。

 ああ、そうだ。タンミレフトの英雄、その1人じゃないか。あの人は。


「――おお! ここがトリシャの研究室!」


 タンミレフトの話をしようかと思った。けれど、その前にボクらは到着していた。

 目的の場所、トリシャ教授の研究室へと。


「――失礼します、トリシャ教授」

「ん? クリスかい。入りな」


 扉の向こう、ビーカーに入ったコーヒーを片手にトリシャ教授が座っていた。

 かなりラフな姿だけど、彼女が奥の個室に籠もっている時間でなくて良かったと思う。

 一息入れていたのだろう。何かの研究が佳境だと聞いているし。


「トリシャ! 久しぶり~♪」

「シェリー……あんた、到着は明日だって」

「んー、長旅だから詰めれるとこ詰めてったら早くついたんだよね」


 どうしてクリスと一緒に?という質問に、先ほどの出会いを説明するシェリーさん。

 それを聞きながらトリシャ教授はビーカーではなく、きれいな紅茶セットを用意し始める。

 ボクもそれを手伝った。学院生だから。


「おー、ありがと。クリスちゃん」

「いえいえ、これくらいは」


 ごちゃごちゃしていた研究室を整えて、トリシャ教授とシェリーさんとボクらは紅茶を囲む。


「――とりあえず、長旅ご苦労さん。シェリー」

「ありがと。いやぁ、やっぱり人込みは疲れちゃうね……」


 そう言いながらサングラスを外すシェリーさん。

 彼女の黄金色の瞳がボクを見つめ、ニコリと微笑む。

 ……ああ、なんか本当に”お姉さん”って感じの人だ。温かい表情、してる。


「だろうね。そこも含めて本当にお疲れさん。ゆっくり休んでくれ」

「うん。ゆっくりしちゃおうかな。でも、その前にジェフに会いたい。あいつ、どこにいるの?」

「……んー、確か今日まで仕事だったはずだよ」


 仕事……? ジュース販売機の開発者にしてタンミレフトの英雄、同時に機械魔法科の学院生である彼が働いているのだろうか。

 いったい何の仕事をしているのだろう。


「――あー、えっと、シャープシューターズだったっけ?」

「ああ、一言でいえば傭兵稼業さ」

「んー……どうして止めてくれないの、トリシャ? 貴女は私のジェフを勉強のために連れてきたんでしょ、ここに」


 シェリーさんの瞳が鋭利なものへと変わる。今までの柔和な印象とは違うそれにゾクリとする。


「あれが言うことを聞くタマだと思うか? 私だって止めたさ」

「……だって私、ジェフの才能が輝くと思って進学を許したんだよ。もしものことがあったら、恨むよ」

「うっ……た、タンミレフトの時は上手くやった。私が、助けた……」


 ――え、なんだこれ。あのトリシャ・ブランテッドが完全に押し負けている。

 ボクといくつも違わないような小娘に完全に負けている。言葉のやり取りにおいてここまで追い詰められたトリシャ教授は初めて見た。

 いったいこの2人がどういう関係なのか知らないけど、相当親密で独特なんだろうな。シェリーさんもトリシャ教授も今までのイメージとは真逆になっている。


「まぁ、そうだよね……トリシャがジェフのこと悪くするはずないって分かってるんだけど」

「いいや、アンタの心配も当然さ。……私も正直、あいつがあそこまで頑固と思ってなかった」

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