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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第59話

「いらっしゃいませ。お連れ様は2階でお待ちです――」


 指定された店、指定された時間。そこに足を踏み入れただけで店主は私が誰なのかさえ確認せずに誘導してくれた。

 既に話が通っているのか。それで褐色の女など私以外には来ないだろうと高をくくっているのか。

 どちらにせよ確認するまでもないことだ。


「――案内ありがとう」


 客ごとに個室が用意されているその店で、店主に案内されるまま部屋の前に立つ。

 そして開かれた扉の先、そこには机の上にちょこんと乗せられた少女趣味のぬいぐるみが置かれている。


「あれ……? さきほどまでお連れ様がいらっしゃったはずなのですが」

「構わないわ。追加の注文はないから、席を外して頂戴」


 いぶかしげにこちらを見つめながら席を外す店主。

 それを眺めながら私は腰を下ろす。少女趣味のぬいぐるみと向かい合うように。


『――頼みたいものがあるのなら、頼めばいいじゃないか』

「いやよ、お人形と食事する変人と見られたくないもの」

『そうかい。今日は呼び立てて悪かったね』


 ぬいぐるみ越しに声が響く。

 いったいどういう原理かは知らないけど魔法の類であることだけは確実。


「別に。私もさっさとこれを手放したかったし、遅いくらいじゃない?」


 机の上に”フランセルの日記”を置く。

 私が、あのジェフリー・サーヴォから奪い取った決定的な証拠を。


『ああ、それが報告にあった”フランセルの日記”かい』

「冒頭の初期魔法文字にはベースメント・オルガンの記載がある。それ以外にも竜化の魔術式と死霊化の術式について克明に記載されているわ」

『資料的な価値が高いと言うことだね。その証拠からベースメント・オルガンの名前にたどり着いた人間はいるのかな?』


 動きのない人形から紡がれていく言葉。

 この言葉の主は今、どこにいて何をどう感じ取っているのでしょうね。


「いないわ。あの現場には初期魔法文字を読解できた人間なんていなかった」

『――それは本当かい? もしウソでも読解できた人間がいたと答えてくれれば、君に次の仕事をあげられるのだけど』


 顔は見えないけれど、今、こいつはほくそ笑んでいる。

 私を手玉に取ったつもりでいる。つくづく腹の立つ相手だ。

 顔を見せない魔術師め。


「冗談じゃないわ。あの場所で生き残ったのは誰も彼もが実力者。

 いくら積まれたってあいつらの暗殺なんてごめんよ」

『珍しく弱気だね。誰かに惚れたかい? カーフィステインのお坊ちゃんとか』


 わざとらしく首を横に振る。


「どうせ惚れるならリリィが良いわ。あの娘が一番強かったもの」

『それで、本当にベースメント・オルガンに辿り着いた人間は居なかったんだね』

「フランセルもバルトサールも殺した。証拠も奪った。そして今、アマテイト教会はバルトサールの動機を”王国への復讐”で済ませようとしている。これで私を疑う理由、あるの?」


 こちらの言葉に頷いてみせるぬいぐるみ。


「――けれど、バルトサールたちはどうやってアンタらにたどり着いたわけ? 大本の情報源を探っておかなきゃまた漏れるんじゃないかしら?」

『まぁ、10年前の政変が原因だろうね。あのとき、こちらにたどり着こうとした人間がいたんだ。バルトサールにはそれを追わせていた。アマテイト神官として』


 ベースメント・オルガンとして糸を引いて邪魔者をアマテイト教会に追わせていたと言ったところか。

 それでアマテイト教会の神官にも情報が漏れた、と。


「始末屋に核心まで踏み込まれたってところなわけね」

『そういうことになる。10年もよく沈黙を貫いていたと思うよ』

「……10年前、歴史に残るような大規模な事件を操っておいてアンタたちいつまで正体を伏せておくつもりなの? 名前を知った人間を始末するなんて馬鹿げたことまで徹底して」


 それなりの組織が、大規模なことを起こそうとして、その名前が知れ渡らないはずはない。

 複数の貴族を没落させるなんていう大政変を仕組んでおいて未だにその名前を隠そうだなんて、いったい今日までにどれほどの血を流させてきたのか。

 想像するだけでおぞましい。


『――機が熟すまでさ。僕たちはか弱い。この王国では真っ先に殺されるような弱者の互助組織だ』


 その弱者が、バルトサールの家を、ジェフリーの両親を奪ったというのか。

 下らない。見え透いたウソだ。こいつらが弱者だというのなら、この世に強者など存在しない。


「それでこの日記はどうするの? これをどうにかしてくれないと私の仕事、終わらないのだけど」

『分かった。良いだろう――』


 フランセルの日記を基点に魔術式が展開される。

 青白い光が広がって、日記を燃やしていく。


「いいの? 資料的な価値があるって聞いてなかったわけじゃないでしょ?」

『ふふ、情報は抜き取ってある。これはそういう術式だ』


 燃やすことで記載されていた情報を”抜き取る”なんて。

 つくづくふざけた魔術師ね。


『それでアティーファ・ランディール、次の仕事を紹介したいのだけれど』

「金額と内容次第ね。殺しは御免よ、今回ので酷く疲れたもの」

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