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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第51話

 ――フランセルの日記を奪い、去っていったアティ。

 視界は彼女の放った煙に遮られ、追うことは出来なかった。

 そして、空は白み始めていた。


「おい、起きろエルト!」


 地面に横たわったままのエルトの肩を叩く。それだけでビクリと身体が動き、エルトは目を覚ます。

 ……やはり、ごく簡単な魔術式を掛けられていたように見える。

 アティめ、不確定要素は減らしておいたというわけか。


「ッ、ランディールは……?! 彼女は裏切り者だ!」

「知ってるよ、そして手遅れだ。”フランセルの日記”は奪われた」


 若干の錯乱状態にあったエルトをなだめる。


「……ッ、すまない、ジェフ。僕が甘かった」

「気にするな。それよりも嘆いている暇はないぜ? まもなく夜明けだ」


 エルトの顔が青ざめるのが分かる。

 そりゃそうだろう。”太陽落とし”が近いのだ。

 まもなくこのタンミレフトは”焦土”と化す。


「リリィを連れて逃げるぞ、タンミレフトの外まで」

「――間に合いますか? 今から」

「さぁな。何なら地下水道に逃げ込むか? 気休めにはなるかもしれないぜ」


 意識を失っているリリィの身体を抱き上げようとして、俺の身体にそこまでの体力が残っていないことに気づかされる。

 自分ごと倒れ込んでしまうな――そう思ったときだ。エルトが俺たちの身体を支えてくれたのは。


「貴方も貴方でボロボロですね?」

「ああ、だが、生きてる。俺たちはまだ生きている」


 リリィの身体を2人で支えながら、屋敷を後にする。

 そして夜明け前の薄暗闇が支配する外へと踏み出して、思い出してしまう。

 今は、太陽神・アマテイトの光が存在しない時間。”霊体”が何の制約もなく動ける時間なのだと。


(――戦えます? 奴らと)

(フン、無理に決まってんだろ。ヤバいぜ、これは……)


 最初から覚悟していたことではある。だが、首都の外に出ようという長距離戦だ。

 なのに、もはや魔力弾の1発も放てない。つまりだ。見つかったら終わりだ。隠れながら移動するしかない。

 ……これは、思っていた以上に厳しい戦いになる。


(音を立てるな――まぁ、死体みたいに音で反応するかも知らねえけど)


 幸い、霊体たちはまだこちらに気づいていない。

 ただ青白く輝きながら一振りのロングソードを握っているだけだ。

 ……あのリリィでさえ、彼女のあの炎でさえ、逃げるだけが精一杯だった敵が複数。

 それらを視界に収めながら、音を立てずに移動する。


(ッ――!)


 近くをすれ違っていく”霊体”

 それがこちらに気づかないことに安堵しながら、息を漏らす。

 だが、そのせいで気づかなかった。前方からもう1体、別の霊体が、その刃を振り下ろそうとしていることに。


「フッ――!!」


 浅く息を吐いたエルトが前に出る。その手には、矢。

 霊体の右腕に自らの矢を突き立てながら、蹴り飛ばし、距離を取る。

 次の瞬間には弓矢を引き絞り、放つ。だが、それはあくまで足止めにしかならない。霊体相手に弓矢では致命傷にはならない。


「逃げて――!」


 自らが前に出たことと引き替えに俺とリリィを逃がそうとするエルト。

 ッ――おいおいおい、冗談じゃねえ! ここでお前を見捨てて逃げろって言うのか?! この俺に!


「――――!」


 2体の霊体を相手に、器用に動き回りながら弓矢を引くエルト。

 その身体捌きは、生半可な技量ではない。

 だが、それでも勝てない。霊体というのは、そういう相手なのだ。


「エルト……ッ!」


 声を出したらいけない。そんなことは分かっていた。

 それでも、こぼれてしまった。悲鳴のようなものだった。

 なんで、何でこんな時に、俺は何も、何もできないんだ……!

 目の前で友が殺されそうだというのに――ッ!


『……女神よ、我が闘争に祝福を』


 すぐ隣で声が聞こえた。掠れた声で、それでも確かに。

 真紅の瞳が輝くのが見えて、次の瞬間には駆け出していた。

 ――エルトに振り下ろされた剣、それを蹴り飛ばしてみせたのは”リリィ・アマテイト”まさにその人だった。


「まだ、やれますね? エルハルト――」

「――もちろん。そっちこそ目覚めたてで大丈夫かな? リリィ」


 簡単に言葉を交わし、戦い始めるリリィとエルト。

 2人の動きは流麗の一言であり、2体の霊体に引けを取らない。

 そして、リリィの放った極大の炎が1体もう1体と、霊体を霧散させていく。


「ッ――やはり、こうなりますか」


 眼前の敵は倒した。

 だが、それは”霊体たち”にこちらの居場所を知らせる行為となった。

 ……囲まれたのだ。リリィとエルトは完全に複数体の霊体に囲まれていた。


「――ッ!」


 自分の魔力が既に枯渇していることは知っている。

 ”太陽の雫”もリリィに預けたままだ。

 それでも、1発くらい撃てるはずだ。それくらいできなきゃ、ここにいる意味がない。


「な、に……?」


 覚悟を決めて拳銃を引き抜き、構えた直後だった。

 天空に巨大な火炎の球体が現れたのは。

 それはさながら”太陽”のようで”太陽落とし”が実行されるときが来たのだと理解する。


「そんな――ッ!」


 だが、疑似的な太陽では、霊体の動きは止まらない。

 俺たちの窮地は変わらない。それなのに、天空には太陽が燃えさかっている。

 ああ、終わりだ、もう、打つ手がない……!


{キュルルルル――ッ!}


 諦めかけた、まさにその時だった。

 聞き慣れた音が、耳に飛び込んできたのは。


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