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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第49話

 ――バルトサール・ライティカイネンの死。

 リリィ・アマテイトの勝利、それを見届けた俺は、床に倒れそうになった彼女を、何とか抱き抱えていた。

 よくこのふらついた意識の中で、間に合ったものだ。彼女にこれ以上のケガをさせずに済んだ。


「リリィ……?」

「――力を、使いすぎました。少し、休みます」


 その言葉を最後に眠りにつくリリィ。

 そんな彼女を見つめながら、俺はひとつの現実に気づき始めていた。

 ――あと数刻みで、この夜が明ける。”太陽落とし”の時間が近づいている。


「……最後の最後まで窮地は続くってか」


 腕の中で静かに呼吸を繰り返すリリィ。彼女を見つめながら、考える。

 夜が明けるまでにここから脱出することが可能なのか?

 ……ここまでやったんだ、全てを終わらせた。それなのに死にたくない。リリィを死なせたくない。彼女には名誉が与えられるべきだ、自らの師を、敬愛する相手を打ち倒してみせたのだから。

 生きて報われなければいけない。それ以外の結末など、あってはならない。


「――生きてる? ジェフ、リリィ?」


 背後から”彼女”の声が聞こえた。

 この俺を最も初めにタンミレフトへと導いた暗殺者アティーファ・ランディールの声が。

 その疲れ切った声から、彼女も彼女で激戦を潜り抜けてきたのだと分かる。


「ああ、生きてるぜ。エルトの奴もおねんねか?」

「ええ、激戦だったもの。”泥人形”だらけでね。ごめんなさい。魔術式、破壊しきれなくて」

「あれだけ均等に編み上げられた魔術式だ、たった2人で破壊できるはずもないさ」


 そう言いながら俺の上着を枕代わりにリリィを床に眠らせ、立ち上がる。

 ここからどう脱出するか? それをアティと話し合いたかったから。

 けれど、そう穏やかには行かなかった。……行かなかったのだ。


「――何のつもりだ? アティーファ、ランディール」


 彼女も彼女で抱き抱えていたエルトを床に眠らせていた。それは問題じゃない。

 問題は、彼女がクロスボウをこちらに向けていたこと。

 彼女の矢が、俺の胸元を、狙っていること。


「ふふ、悪いわね、ジェフリー。私の仕事がバルトサールの暗殺だったのは覚えてるでしょ?」

「それはついさっき終わった。リリィが殺してくれたぞ」


 両手を上げる素振りを見せながら、考える。

 腰から拳銃を引き抜くためには、どうすればいいのかを。


「ええ、その通りね。けれど私の仕事はもうひとつ。

 バルトサールが持っていた情報を握りつぶす必要があるの。たとえば貴方の持っている”証拠”とかね」


 なるほど、そう来るかい。こうなるなら”証拠”の存在を伏せておいた方が良かったという訳か。

 ……しかし、そんなものは結果論だ。すでにアティは俺が決定的なものを持っていると知っている。

 ならば、もう止まらないのだろう。証拠を確実に奪うまで。彼女が仕事に手を抜く人間とは思えない。


「そいつは困るな、俺たちはそれだけのためにこんな死地へ飛び込んできたんだから」

「あら、貴方に選択の余地があると思う? エルハルトくんもリリィちゃんも今の貴方を助けてはくれないわよ」


 ニヤリと笑みを浮かべるアティーファ。

 ……こいつ、エルトを眠らせたのだろうか。

 まぁ、エルトが意識を失っている原因が何であれ、俺の窮地は変わらない。


「それもそうだな、持って行け――「待ちなさい。貴方は、動かない!」


 ”フランセルの日記”は、腰巻きに仕込んでいた。

 それを取り出す――ふりをして拳銃を引き抜こうとした、したんだが、どうやらダメらしい。


「おいおい、せっかく人が大人しく差し出そうとしているってのに、なんで止める?」

「貴方みたいな類の人間が大人しく私に従うわけないでしょ。よく知ってるわ」


 クロスボウを構えたまま、こちらに近づいてくるアティ。

 彼女の右手が、腰巻きに伸びたとき、矢先が俺の身体から外れた。

 ――瞬間、左手首への手刀、叩き落とすクロスボウ。そこから数度、拳を交差させ、組み合ったところで静止する。……拮抗状態へと、陥った。


「ハァ……ほんと、面倒ね、あなた。黒幕は倒したんだもの、別にもう証拠なんて要らないでしょ? 特にあなたにとっては」

「かもな。だが、タダでお前に乗せられるのは我慢ならないし、何よりリリィを不利にしたくない」


 アティの両腕は押さえている。

 ただ相手は凄腕の暗殺者だ、いつ返されるか分かったもんじゃない。


「対価が欲しいの? なら”太陽の雫”をくれてあげるわ。それでどう?」

「……俺は傭兵だ。依頼主を、リリィを裏切れない」


 深い溜め息を吐くアティ。次の瞬間、俺は床に身体を叩きつけられていた。

 いや、叩きつけられる直前に止められて、そのうえでゆっくりと床に押さえつけられた。

 ……相手を押さえつけるときにでさえ、こんな心遣いができるなんて、なんて凄まじい実力を持っているんだ、この女。


「ナイフとは、穏やかじゃないな――」

「……問答無用で殺してないだけ、穏やかだと思いなさい」


 アティは俺に馬乗りになって、こちらの首筋に鋭利なナイフを突きつけていた。

 完全に押し負けた。実力負けだ。彼女の方が上手だった。


「……証拠なら、フランセルの日記なら、腰巻きの中にある」

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