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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第47話

「流石にバテてきたんじゃないのか? 1対1で死霊術師と戦うのは初めての経験だろう?」


 ついさっき私がへし折った右腕を再生させながら筆頭がほくそ笑む。

 ……彼の言っていることは事実だ。私は、竜族とも死霊とも戦ってきた。

 この歳にしては破格の経験を積んできたと自負している。けれど、それでも、これは初めてだ。

 再生力の底が見えない怪物と1対1で戦うのは……ッ!


「――いや、1対1よりなお悪いよな?」


 漆黒の太陽が滑空する。狙いはどこか? そんなもの、考えるまでもない。


「やらせない……ッ!」


 再び展開するは炎の壁、ジェフリーという少年を守るため、私は死力を尽くす。

 私は、アマテイト神官だ。信徒を守る義務がある。守りたいという意思があるんだ。


「くくっ、無理はするもんじゃないぞ? 限界が近いんだろう? 足が震えているぞ――」


 距離を詰めてくる筆頭――ここに来て初めて、私が受けに回った。

 筆頭が近接戦闘において主導権を、握ってきたのだ。


「ッ、教えろ! バルトサール! 何が貴方を突き動かした?! 貴方にとって”アマテイト”とはなんだ!!」


 放たれる打撃を受け流しながら、私は言葉を紡ぐ。

 別に本当の意味で、バルトサール・ライティカイネンの回答を求めているわけではない。

 これはこちらの呼吸を整えるための時間稼ぎ、そして事後報告のための情報収集だ。


「――フン、復讐だよ。私の両親を死に追いやった者への復讐だ」

「ライティカイネン家の仇討ちのために、タンミレフトの全てを殺したと? 元々はライティカイネンの領民なのに?!」


 地方都市の領主など所詮は”王族・貴族”の政治によって変わる存在に過ぎない。

 頭がライティカイネン家からタンミレフト家に変わろうとも、その中身は領民の大多数は同じ人間のままだ。

 それなのにバルトサール筆頭は、その全てを殺してこれほどの莫大な穢れを手に入れようとしている。


「知ったことかよ、ライティカイネンのために戦わなかった者たちのことなど――」


 苛立ちが隠せていない。彼の中でも今のような割り切りはしているのだろう。

 それでも僅かばかりの罪悪感がある。だからこそ苛立つんだ。自己正当化が完璧でないから、図星を突かれると腹が立つ。


「……じゃあ、取り戻すべき土地も民も生贄に、何に復讐するつもりなんです!」

「この国の根幹に巣食う者。地下からスカーレット王国を操る者たち。

 それが私のライティカイネンを殺した、その少年の家も奪った。私が狙うのは、奴らだ――」


 この国に巣食う者たち……? ベインカーテンか? ドラコ・ストーカーか? 闇夜の盾か? それとも……

 いくつもの候補が浮かんでは消える。浮かぶところまでは簡単だった。

 私は今日までそういう奴らとの戦いを重ねてきたから。消えていったのは、それを倒すためにこんなことをする意味が見い出せないから。

 どの組織への復讐を果たしたいのかは知らない。それでも確実に言えるのは、アマテイト教会の中で上り詰めて急進的に敵対組織への対抗策を打った方が手っ取り早いということ。

 確かに、今ここでバルトサールが手に入れつつある力は絶大。けれど所詮は1人のそれだ。アマテイト教会とスカーレット王国軍、その全てから弓を引かれる可能性を飲み込んでまで欲するものじゃない。


「この国で陰謀を張り巡らせている者と戦うのなら、アマテイト教会に背を向ける必要はないはずです。違いますか? バルトサール!」

「フン、これだからお前は生娘みたいで嫌なんだ。2年前のあの事件を忘れたか? 俺たちの作戦が打ち切られたあの戦いを」


 ッ、ベインカーテンと繋がりをもった王族お抱え魔術師を追ったあの事件、か。

 私たちはかなり粘り強く、そして途方もない危険と背中を合わせながら地道に証拠を固めていった。

 あと一歩だった。あと一歩で強制突入だというところで横槍が入った。入ったと思ったら、その3日後に捜査の対象者が事故死した。


「……忘れてなど、いませんよ。あの時の屈辱は。

 私がアマテイト神官であることを、アマテイト教会に邪魔された、あの屈辱は……!」


 おそらくあの時、捜査対象者の身柄を確保できていれば、そこから芋づる式で死霊呪術に手を染めた者たちを炙り出せたんだろう。

 それが、阻まれた。王族内部の”私刑”という形で。そして教会もまたそれを追認した。私たちの動きを封じることによって。

 あと数日の時間があれば、私たちが主導権を握り返していた。けど間に合わなかった。間に、合わなかったんだ……ッ!


「よく覚えておくといい。これが最期の教えだ、リリィ――私たちのアマテイト教会は、そういう組織なんだよ。

 10年前の政変で、私はジェフリー・サーヴォの”父親”を追わされた。”奴ら”が仕組んだことの一端を担わされていたんだ!

 俺の両親を追いやった”あいつら”の思惑の”実働部隊”に使われていたんだ……ッ!」


 片や私刑で済ませるからと捜査を打ち切られ、片や政治闘争のために徹底的に追わされる。

 そういう”恣意”が働いていると。女神の代行者であるはずの私たちが、人間の政治に振り回されていると。


「――貴方は、それを倒すためにこの惨状を産み出したというんですか。バルトサール、アマテイト……ッ!」

「そうだと答えれば、お前はどうする? 私の大義が善であれば、この悪を見逃すのか? お前にそんな器用な真似ができるか? リリィ・アマテイト――?」

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