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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第45話

「いいね、君のそういう顔を見るのは、本当に久しぶりだ……ッ!」


 虚を突かれたこちらの表情を認め、ほくそ笑む”筆頭”

 けれど、こんなものはコケ脅しに過ぎない。奴の左腕が私の右手を捕らえたとしても、体勢を崩されなければ問題ない。

 奴との力比べに負けなければ良いだけの話だ。


「――ッ!」


 空いている左拳で、奴の顔面を抉る。抉るように拳を叩き込む。

 そして生まれた一瞬の隙に、私は右手に炎を灯し、筆頭の左腕を燃やして落とす。


「驚かせたくらいで、勝てるとでも?」


 仕切り直して再びバルトサール筆頭を攻め立てる。近接戦闘においては完全に上手に立っている。

 あと気にしなければいけないのは小型の太陽だけれど、それも相殺できる。

 そう、今のように。


「相変わらず射撃が雑だな、体力を無駄に消耗するぞ?」

「――心配ご無用、今の私には”太陽の雫”がありますから」


 精密に狙い、最小限度の炎で”狙い撃つ”ということが下手なのが私だ。

 だから幼いころの私は劣等生だった。神官という才能にこそ恵まれていたが戦いには向いていない。

 将来は戦いの少ない地域に配属されるんだろうな、なんて心のどこかで思っていた。


『――ねえ、もう一度やってくれないかな? その組手』


 ……バルトサール・アマテイトという人に、初めて出会った時のことはよく覚えている。

 あの時から胸のどこかで、胡散臭い人だなと感じていた。けれど同時に、私の胸は高鳴ってもいた。

 初めてだったから。私の技を見せてくれなんて言われたのが。初めてだったから。良い筋をしているなんて認められたのが。


(……ああ、本当に”良い上司”だって感じて、いたのに)


 バルトサール・アマテイトが私を引き上げてくれなかったら、私を見初めた彼が支部筆頭の椅子に座っていなかったら、今の私はないだろう。

 学術都市アカデミアの学院生として、多くの事を学ぶ機会なんて得られなかった。

 遠い地方の末端教会で下働きをしながら、適度に経験を積んだら1人で教会を運営するなんていう凡百な神官として終わっていたはずだ。

 何を学ぶこともなく、ひとつの街で病人や怪我人を癒しながら死んでいく。それだけの人間で、終わるはずだった……!


「残念ですよ、筆頭……あなたが居たから、今の私があるというのに」

「だと思うのならばこちらに来てくれたまえよ、リリィ。君が口裏を合わせてくれれば、何の問題もなく元通りだ」


 ――彼が、こんなことを言い出すだなんて、相当に追い詰めているんだろうな。

 追い詰めることができているんだ。私の実力は、そこまで届いているということになる。


「……私がそれに乗らないという確信があったから、私を殺そうとしたんでしょう?」

「フッ、その通りだ――お前ほどの敬虔なアマテイト神官は、他にいないからな……!」


 放ってきたのは、あの”太陽光線”だった。彼の得意とする力の集約、その極致だ。

 避けることは困難。それでも防ぐことは不可能ではない。一瞬ばかり防いであとはこちらの身体をズラせば、回避できる。

 不意打ちでない限りは、そうそう遅れは取らない。いや、戦いの中で確かに注意するべき攻撃ではある。けれど、それだけだ。


「ええ、そうですね。私は師と認めた貴方でさえ殺せる。その事に迷いはありません。このタンミレフトの惨状を見ましたから――」


 ――あのジェフリー・サーヴォが泣いていたんだ。

 私は彼のことを金にうるさい冷血漢だと思っていた。そんな男が、泣いていた。

 簡単に食事を取っただけの場所のために、そこで出会った少女のために、彼女たちの死に、瞳を滲ませていた。

 あの時、私は思い出した。


 ”都市が滅ぼされた” ”アマテイト教会は察知できなかった” ”歴史に残る大惨事だ”

 ”どう対処する?” ”打つべき手立ては?” ”放置すれば死の汚染が拡散する” ”後がない”


 ――そんなことばかりを考えて、アマテイトの戦士として考えるべきことだけを考えて、私は忘れていたんだ。

 タンミレフトという都市が滅んだということを。そこで失われた”人命”の重さを。人間として抱くべき当然の怒りを。

 この胸に燃える怒りがあるからこそ、神官としての使命がある。人々を守るという使命がある。私はそれを、忘れていた!


「……それが気に入らないのさ、リリィ。お前は、ベインカーテンやドラコ・ストーカーとの泥仕合を繰り返してもなお、生娘のように純真だ。

 ”私”が裏切ったんだぞ? 少しは動揺したらどうだ? どうしてアマテイトのことを信じられる? 私でなく、アマテイトを! 私たちに力を与えただけの、あやふやな女神を!」


 力を与えただけの”あやふやな女神”か。

 ふふっ、台無しだ。それをアマテイト神官が言ってしまっては、台無しなんだ……!


「――聞こえているからですよ。私には彼女の声が聞こえる。私の成すべきことは、彼女の光が照らしている。

 だから何の迷いもなく、私は常にアマテイト神官だ。それは貴方の裏切り程度で揺るぎはしない――!」


 今の私に迷いがあるとしたら、それは1つだ。これほどの有力な情報源を、殺さなければ無力化できないこと。

 捕らえることが、できないこと。教会の名のもとに公に裁くことができない。

 そしてこの結果があの”アティ”の思惑通りだということ。それだけが私の心残りだ。


(彼女、私を止めなかったものな――)


 ――あのフランセルの仕掛けた多重防御術式の中で、ジェフの消えかけの命を”見て”彼を助けに行くと言った私を、彼女は止めなかった。

 それどころか命を張って手助けしてくれた。だからこそ私は今、ここにいる。

 彼女の思惑は、いったいどちらなのだろう? 私がバルトサールを殺すことなのか、私がジェフリーを助けることなのか。それともその両方か。


(けれど、それがどうした? 私のやるべきことは変わらない)


 アティの思惑など今はどうでも良い。彼女は後で追及する。

 今はただ、倒すだけだ。数多の人々の命を奪い、これからも奪うであろう男を。この大惨事の元凶を。

 バルトサール・アマテイト、いいや、バルトサール・ライティカイネンを、ここで、殺す……!

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