第43話
「ッ……な、に――?」
針の穴を通すような一瞬。それを飛び跳ね続けながら行うという無茶。
今、俺はそれをやり遂げた。そして、その結果がこれだ。
破れた――バルトサールの障壁はたった今、瓦解した! 宙を滑る太陽も消え去った!
「チェンジバレル・ガトリング――!」
銃身を変更、両の拳銃を殺傷弾へと戻し、回転連射する。
体勢を立て直される前に、決着をつけるんだ――ッ!
「ッ、舐めるなァ……!」
両手に炎を纏い、こちらの弾丸を防ごうとするバルトサール。
だが、その防御はあくまで両手分だけ。全く展開できていないし、焼け石に水だ。
――普通に考えれば、既に致命傷を与えている。まともな人間ならばもう生きて戻れない。
けれど、敵は太陽神官。それも死の力に手を伸ばそうとしている男。
(加減するな、ジェフリー・サーヴォ……ッ!)
ガトリングの連射を続ける。その最中だ、巨大な爆発が起きたのは。
黒煙が上がり、バルトサールの姿を見失う。
やったか……?なんて思うのは、淡い期待だ。魔力弾が人間を爆発させることなどない。
これは、間違いなくバルトサールが引き起こしたものに過ぎない。
「ッ……! 危ねえ……!」
黒煙の向こうから、火球がひとつ飛んでくる。
それは今までの太陽よりも小規模。けれど、確実にこちらを狙っていた。
「――クソ、やって、くれたな……ッ!」
純白の装束を血に染めながら、バルトサールが息を吐く。
その姿は瀕死。だが、その瞳に絶望の色はない。
「ハ――ァ、良いだろう。来い、死の女神よ……私はお前を、受け入れる」
足下の術式が輝き始める。まだ、この都市全ての”穢れ”を集めたわけではないはずだ。
それでも、こいつは取り込み始めた。ここで生き残るために、ここで確実に俺に勝つために――!
「チェンジバレット・エクスプロード!」
炸裂弾へと弾丸を変更し、バルトサール本人と同時に魔術式を狙う。
こちらの行動に対し、バルトサールは――
「――させると思うか? ジェフリー・サーヴォ!」
その距離を、詰めてきていた。至近と言えるところまで。今にも死にそうな、その身体で。
「ッ――!」
両腕をクロスさせ、バルトサールの蹴りを受け止める。
何とかその行動が間に合ったから、いや、間に合っても俺はかなりの距離を吹き飛ばされていた。
単純な力に、腕がしびれて狙いを付けるのさえ危ういほどのダメージを負う。その圧倒的な実力に、肝が冷える。
「ッ、格闘もイケる口かよ、バルトサール……ッ!」
「フン、見ていないのかね? リリィの格闘を。あの彼女を仕込んだのは、この私なんだよ――」
再び詰められる距離、大きく振りかぶった右の拳、そちらが来ると思って防御を取る。
しかし、実際に放たれるのは左。
ハッタリだ、最小限度の動作でこちらに確実な攻撃を仕掛けてくる。
こちらはその思惑にまんまとハマり、炎の拳が直撃する。
(防御を潰したと思ったら、これかよ……!)
次なる奴の蹴りを、こちらの肘で防ぐ。
防ぎながら足を奪い、地面に叩きつけようとして、逆側の足がこちらの肩に直撃する。
そこからは、そのまま地面を転がるだけ――クソッ、なんて器用な動きを!
「終わりだ――ァ!」
馬乗り、振り上げる拳、それはこちらの胸を狙っていた。
――狙いを定めている暇はない。最小限度、方向だけ合わせて引き金を引く。
「ッ……ガ、ッァァアア!!」
獣のような悲鳴が響く。それもそうだろう。
殆ど接射でガトリングの連射を叩き込まれたのだ。
まともで居られるはずもない。
「これで、終わりだ……バルトサールッ!」
血だまりの中に倒れたバルトサール、その脳天を狙い、銃口を向ける。
脳天を吹き飛ばしたら終わる。そんな安堵が、僅かにこちらの行動を遅れさせた。
その結果が、これだ。銃身を掴まれ、拳銃を弾き飛ばされた。
「ハハ、惜しかったね――時は、満ちた」
真紅の術式から、どす黒く染め上げられた赤がせり上がって、バルトサールを浸食する。
強烈な魔力がはじけて、次の瞬間、漆黒の装束に身を纏った男がそこにいた。
「傷は全快って訳かよ、バルトサール・ライティカイネン……!」
純白だった太陽神官の装束は、黒に染められ、太陽を模していた赤も乾きかけの血のようだ。
肌の色は青白く変わり、髪の色も赤から白へと変わっている。
あともう少し進めばフランセルと同じように部分部分が砕け落ちるといったところだろうか?
それとも竜化は先に済ませているから、こいつの肉体は腐らないのか?
「おかげさまでね。さて仕切り直しだ――」
漆黒の太陽が展開され、その全てがこちらを狙い宙を滑る。
そして、バルトサール本人自体も距離を詰めてくる。
太陽での遠距離攻撃、本人自体の格闘戦、バルトサールめ、完全にこちらを殺すつもりだ。他の何も考えていない。
「ッ……!」
太陽を撃ち落とし、バルトサールの拳を防ぐ。
ホーミングレイザーへと変更している暇もなかった。
声を出す間さえ、与えてはくれない。
「諦めたまえ。よく頑張ったよ、君は――」
「――やかましいぞ、ようやくてめえの”底”が分かったところじゃねえか!」
バルトサール・ライティカイネンの手札は今、全てが使われた。
これ以上は無い。だから、ここだ、ここを乗り切れれば”勝機”があるんだ!
勝ってやる。生き残ってやる。俺は死なない。ここで、死んでたまるか……ッ!
「チェンジバレット・ホーミングレイザーッ!」




