第42話
――刻一刻と部屋の温度は上がっていく。太陽を砕くたびに強烈な熱が広がり、呼吸すら辛くなっていく。
今、こちらが出来ているのは防御だけ。次々と放たれてくる”太陽”の相殺だけ。
何度かホーミングレイザーをバルトサール本人に向けて放っているが、最初に戦った時と同じだ。
ぶ厚い障壁に全てが阻まれるし、そもそも追尾弾では太陽の方を優先的に追ってしまう。
「チェンジバレット・エクスプロード、チェンジバレル・ガトリング」
2丁拳銃のうち、片方だけを変更する。
呟くのは2つの言葉、炸裂弾の回転連射――こちらの最大火力だ。試してやるぜ、バルトサール! お前の防御を、その障壁の厚さを。
「フン、多少火力を上げたところで無意味だよ、ジェフリー君」
こちらの最大火力を受け止めながら、余裕そうにほくそ笑むバルトサール。
ッ、やはりか。やはり俺の最大火力をもってしても破れないのか……ッ!
「ではまず、君から殺してあげようか――」
太陽が再びその軌道を変える。意識をこちらに向けた。
バルトサールは、手早く俺を殺し、その後でリリィたちに対処すると覚悟を決めたのだ。
……時間稼ぎ役としては僥倖。思惑通り。だが、おかげで俺が生き残れる確率はガクリと下がった。
(……クソッ、考えろ、考えろ、ジェフリー・サーヴォ!)
こちらの用意しているエクスプロード・ガトリングは、生半可な火力じゃない。
強固な岩壁だって打ち砕けるような力がある。
普通に考えて、それを完全に防ぎ切るだけの障壁を全方向に常時展開するのは不可能だ。人間の意識と魔力には限度がある。
神官の力だって無限じゃない――必ず”穴”がある。ならばまずはそれを、探る!
「さぁ、君はどこまで踊れるのかな? 楽しませてくれよ、そうでなければ死んでしまうのだから」
太陽の動きがその速度を増す。避けるために常に跳躍を重ね、動き続ける。
……時間の問題だ。こちらの限界が来るのは。
だが、だからといって、がむしゃらに最大火力をぶつけたって、勝てない……ッ!
「チェンジバレット・ペイントイット」
相殺のためのホーミングレイザーは残しつつ、片側、弾丸の種類を変更する。
ペイント弾、それ自体に殺傷能力はないが、見えるはずだ。相手の障壁の実態が。
太陽の雫で強化された視覚をもってしても捉えきれない障壁が、どのように展開されているのか。その一端が……!
「ッ――目潰しの、つもりかね……?」
ペイント弾が障壁にぶつかり、塗料が弾ける。
それはバルトサールの視界を奪い、そして俺は理解する。
……あの障壁は、巨大なひとつの術式が展開されているのではない。無数の中規模の障壁を重ねて展開しているのだ。
そして、その繋ぎ目には隙間がある……ッ!
(チッ、ホーミングレイザーの設定を変更している暇はねえか……!)
最も近い魔力を追うように設定しているもんだから、襲い来る太陽に向かって行ってしまう。
とてもじゃないが、あの障壁の隙間を狙っている暇はない。
そして、1度目のペイント弾は弾かれた。障壁に力を通し直したのだろう。一瞬だ、ペイント弾によってその繋ぎ目が見えるのは、あくまで一瞬。
「私の視界を数秒奪ったところで、何の意味もない。――いい加減に、終わりにしようか。私には次もあるのだから」
太陽が加速する。避けているだけで精一杯になる。
ああ、畜生、ようやく、ようやく突破口が見えたのに……!!
「女神よ、我が闘争に祝福を……ッ!」
呟くはあの言葉。リリィと同じ言葉。太陽の雫から力を引き出すための引き金。
そう、今の俺は、太陽神官だ。リリィと同じ、力がある……ッ!
「うぉおおお!!」
柄にもなく大声を張り上げる。それもそうだろう。
だって俺は今、迫り来る太陽を右足で蹴り砕こうとしているのだ。
既にホーミングレイザーでは間に合わないと、そこまで追い詰められたのだと、分かっているから。
「――フン、それが”太陽の雫”の力か。つくづくしぶとい男だな、君も」
「生き汚いのが俺の強みでね……しぶとくなければとっくの昔に死んでるさ」
それこそ親父と一緒に、あるいは母親に取り殺されていただろうか。
でも俺は生きてきた。今日の今日まで。
「ならばそれも今日で終わりだ」
降り注ぐ太陽、そのひとつひとつを手足で砕く。
太陽の雫というアーティファクトで強化された全身をもって、叩き潰す。
「――チェンジバレット・キリングイット」
迫り来る太陽を避け、あるいは砕く。そんな死線の中で俺は弾丸を変更する。
――防御は手足で出来る。ならば、この拳銃は攻撃のために使う。
左に塗料弾、右に殺傷弾……これで狙う。バルトサール・アマテイトを、撃ち殺す……ッ!
「苦し紛れの魔力弾、撃ってみせろよ、ジェフリー・サーヴォ……ッ!」
降り注ぐ太陽を砕きながら、俺は狙いを定める。
動きながらの狙い撃ち――経験がない訳じゃない。ドクターと行った狩りの中で狼に追われながら狼を撃ち殺したことくらいはある。
まぁ、あの時は的がもっと大きかったけれどな。こんな針の穴を通すような射撃は求められなかった。
「フン、また目潰しか――?」
放つペイント弾、広がる塗料。そして本命は、この1発――
「ッ、な、に……?」




