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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第41話

「――つまり君は、ほとんど何も知らない、ということで間違いないのかな?」


 ……ヤバいぞ、この質問に頷けば確実に戦闘に入る。

 こいつは俺を殺しにかかってくる。情報源としての価値がないと判断する。


「ああ、”今の俺”は、知らないね」

「……続けろ。何が言いたい?」


 ッ、よし、まずはひとつの山場を越えた。ここからもう少し騙せれば……!


「親父の日記は、個人的な走り書きと”初期魔法文字”で暗号化された文章の2本立てだった。

 そして俺は”初期魔法文字”についての知識がない」

「ふむ、それで? 君は言ったね? 靴でも舐めようか?と。ならば君は私に何をしてくれるのかな?」


 真紅の瞳は、今もなお鋭くこちらを射抜いている。

 おそらく一瞬の間もなく攻撃に入れるのだろう。たとえばリリィの心臓を撃ち抜いた一撃だって、こいつは放てるんだ。


「……ここから帰れたのなら、親父の日記を提供しよう。アンタなら読めるはずだ、初期魔法文字だって。博識なんだろ?」

「ああ、それくらいは一般教養だよ。こちら側にいればな。ただ、どうせあの男のことだ。単純な初期魔法文字ではあるまい」


 食いついてきている。ただ、”今の俺”が開示できる情報がここまでだということは露見した。

 事後的により多い情報を提供できるというウソを与えているに過ぎない。

 それが嘘だと気付かれない保証はないし、気付かれなかったとしても、乗ってくるか? この都市から俺を逃がす判断をするか?


「だが、確かに見たいな。あの男が敢えて残した”情報”だ。まず間違いなく万金の価値がある」

「……なら、取引と行こうじゃないか。この街から安全に脱出できれば、俺は親父の日記をアンタにくれてやる。悪い話じゃないはずだぜ」


 こちらの言葉にニヤリと口元を吊り上げるバルトサール。


「この街から出たら、誰に駆け込むつもりだね? トリシャ・ブランテッドか?」


 ――やはり、こう来るよな。こいつが俺のウソを信じたとして、次に考える脅威はこれなんだ。

 この”誰がどう死んでも証拠の残らない死都”から核心的な情報を知ってしまっている人間を生かして返すか? 情報のためだけに?


「馬鹿を言うな、あの女が俺の言うことなんか信じるもんか。それに俺はあいつのことが嫌いなんだ。

 あいつに貸しなんか作っちまったら、いつまでもあいつへの借金を返せやしない」

「……ふぅん? 君は、あの女が嫌いなのか」


 ――バルトサール・アマテイトという男は、今、いったい何を考えているのだろうか。

 俺という男がこのタンミレフトを脱出した後、自分の手から逃げ出した場合、どこに駆け込むのか?を推測しているのは間違いないだろう。

 そして、その駆け込んだ先が自分の”筆頭神官”という肩書をもってしても封じ込められない相手かどうかを考えている……?

 だからトリシャの名前を、出してきた……。


「よかろう。君を信じるには危うさを感じるが、君の父上が残した情報はそれを上回る誘惑だ――」


 そう言いながら掌をかざすバルトサール・アマテイト。

 ……ヤバいな、こいつ、何かしらの術式を、かけてくるつもりだ。


「――だから、安全策を取らせてもらうよ。ジェフリー君」


 これに抵抗したら、速攻で戦闘が始まるだろう。

 しかし、抵抗しなければ戦闘が始まったときにまず間違いなく勝てなくなるし、逃げられなくなる。

 どうする――? ここまでか……? ここからの時間稼ぎは、戦うしかないのか? 破格の力を持つアマテイト神官を相手に、戦うしか……!


「ッ……な、んだ? この”揺れ”は……ッ!」


 冷や汗が一滴、零れ落ちたまさにそのときだった。揺れた、この部屋が。

 真紅の魔術式が、都市に充満する穢れを自動的に収集するこの部屋そのものが揺れたのだ。

 バルトサールは真下を見ている。そして、強く歯軋りをした。


「リリィが死んだ、だったなァ?! ジェフリー、サーヴォ……ッ!」

「――チッ、今さら気付いても遅えんだよ、バルトサール!」


 6つの太陽が降り注ぐ。それらを打ち壊すことは容易い。

 軌道が蛇行していないから。でも、危ういのは6つ、6つ、6つと絶え間なく供給され、無限に放たれてくることだ。

 ホーミングレイザーで破壊しているとはいえ、周囲の温度は急激に上昇し、強烈な熱さが肌を焼いてくる。

 ……今は耐えられていても近いうちに限界は来る。ならば、どうする? この局面、どう突破する?


(バルトサールが太陽を”放つ”ことしかして来ないのは何故だ?)


 つい先ほどまでは器用に操っていた。俺の周囲を滑空させたり、蛇行させたり、自由自在だった。

 それが今は太陽を生み出しては放つだけ。それだけだ。

 この差異はどこから来るのか? それを考えているとき、もう一度部屋が揺れた。そして気がつく。


(……ああ、こいつ、真下のリリィたちの相手”も”しているな?)


 仕掛けていた術式を順次発動させているのだろう。

 そちらにも意識を向けているから、先ほどまでのような器用な真似ができなくなっているのだ。

 だが、だからどうした? たったそれだけの差異で勝てるか? こちらに意識の全てを集中させて来なくなった程度で、バルトサールと俺の実力差が埋まるのか?


(――やれるだけ、やるしかない、よな)


 諦めたら死ぬ。諦めなくても多分死ぬ。ならば出来る限りのことをやるしかない。

 出来る限りをやって、リリィたちに勝利をもたらす。そうすれば生き残ったエルトあたりが、死んだ俺への褒美を姉さんに回してくれるだろう。

 ならば最後の一瞬まで負けられない。戦って、戦って、戦い抜いてやる。それだけの話だ……!

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